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第三話 魔王の娘

 家を出てから一週間が経った。


 生まれ育った領土から出て、もう直ぐ国境線に着こうとしている。


 俺がもともといたのは中央公国(セントラル)という国で、向かっているのは大陸の西側にある西方王国(ウェスト)だ。


 ちなみに、中央公国は馬鹿でかい領土があるだけの一貴族の領地で、正式には国ではないんだけど、暗黙の了解で一国家として扱われている。


 で、西方王国に行って何をするかだよな。


 別にこの旅にはこれといって目標は設定されていない。各地を見て回るのが目的で、旅芸人でも行商人でも、果てにはニートであったとしても構わないのだ。


 とはいえ、流石にそれでは格好がつかない。某ベジタブルな戦闘民族のようになるのは少し気がひける。


 と、いう訳で、俺は冒険者になることにした。


 何が『という訳』かと言うと、そもそも俺の目的って俺TUEEEEじゃん? だったらそれに相応しい職業に就くべきだろう。


 ちなみに、この世界の冒険者は、良くある魔物退治の専門家だ。一般的な現代のラノベのイメージと同じだな。冒険って意味本当に合ってんのかって疑問は置いておくとして。


 異世界転移転生における最も一般的な職業だろう。


 町に着く前にこれからどうやって活動していくかを考えておいた方がいいかな。俺ってアドリブに弱いタイプだし。



1、悪目立ちはあまりしないように心がける



 まあ、正直これをどこまで徹底できるかはわからないんだけど、一応心の片隅に留めておこうと思う。


 本当にチートとか権力とかを駆使し始めたらヤバイことになるだろうからなぁ。色んな意味で。



2、あまり一つの町に長くは滞在せず、こまめに移動する



 これは、旅の目的そのものだ。それに、こうしておけば悪目立ちもある程度防げるだろう。



3、権力は極力使わない



 最悪の場合、俺自身のチート能力は使ってもいいだろうが、公爵家次男っていうカードを切るのは本当に最後の最後の手段にしたい。


 これは意地であり、旅の目的の一つでもある。容易に地位に頼るようじゃあ、この家名は名乗れないのだ。


 こんなところかな。次は戦闘スタイルか。


 ま、俺は何でも出来るし、考える必要は無いか。【武器神】の効果には素手すらも含まれてるしな。


 とはいえ、一応、剣ぐらいは持っておいた方がいいか。格好がつかないし。


 一応ちょっとしたものは事前準備の段階で手に入れておいたんだけど、俺のステータスについてこられるとは思えない。


 今あるスキルで強力なものを作っておこうかな。


【叡智神】お願い。


《【帝級神】発動——【物質創造:帝】【武器作成:帝】を作成しました》


《【物質創造:帝】発動——オリハルコンを作成しました》


《【武器作成:帝】発動——オリハルコンを消費し、帝級武器『天剣パニッシュメント』を作成しました》


 手の中に羽のような装飾がついた純白の長剣現れた。


 お、おう……。適当に頼んだらなんかすげえのきたな……。やりすぎ感が半端ない。


 まあ、とりあえず【空間収納】に入れておくか。


【空間収納】。要するにアイテムボックスのことだ。定番だが便利だな。


 自らが作り出した、時間の概念がない亜空間に物を保存する。


 中級スキルなので、持っている人も多い。ちなみに、容量は使用者のMP依存。無限の俺からしたら超便利な能力だ。


 さて、そろそろ西方王国の国境が見えてきた。関所には兵士が何人か居て、国境を越える者の審査を行っている。


 思ったよりも早く関所に着いた。幸い他に入る人はいなかったので、並ばずに済んだ。


「入国希望の方ですか?」


 赤色の鎧を着た兵士が俺に話しかけてきた。


「ああ、そうだ」


「では、身分証明書をお貸しください」


 にこやかな笑顔でそう言われたので、貴族証を渡す。


 ……や、これくらいじゃ権力使ったことにはならないから。誤解すんなよ。


「貴族様でございましたか。申し訳ございませんが、この水晶に触っていただけますか?」


 そう言って兵士が取り出したのは『真偽を諮る審議の水晶クルセイド・クリスタル』だ。


 これに触りながら真実を言うと水晶が白く光り、嘘を吐くと黒く濁る。


 入国審査の時にこれを使えば犯罪者が一発でわかると言う便利アイテムだ。


 確か、天才と名高いこの国の王子が作ったんだったかな。魔法に関しては人族トップレベルとのこと。


 やたらと厨二ネームなのは謎だ。格好いいっちゃいいけどな。


 勿論、やましいことは何もないし、普通に触れる。


 っていうか、多分【叡智神】を使ったら余裕で欺けると思うんだけどな。ぶっちゃけ犯罪犯してても余裕で入国できる。


 いや、しないけど。しないけども。


「あなたの入国の目的は何ですか?」


「旅の途中だから……観光になるのかな」


 水晶は白く光る。


「あなたはこれまでに罪を犯したことがありますか?」


「ないよ」


 水晶はまた白く輝いた。


「はい。問題ありませんね。それでは、ようこそ西方王国(ウェスト)へ」


 俺は身分証明書を返してもらい、国境に設置してある門をくぐった。


 本来であればもうちょっと質疑応答が続くのだろうが、そこは天下の貴族様。……うん、権力を使わないっていうのは、あくまで公爵家子息っていう立場のことを指してあるのであって、貴族位そのものはどんどん有効利用していくから。


 もう既にルールがガバガバだな……。


 閑話休題(それはともかく)


 西方王国の東端の町、エバドン。規模はそこまで大きくはないが、まあまあ賑わっており、大抵の施設はそろっている。


 ここに着いてまずは宿屋を探した。すぐに冒険者ギルドに行ってもいいけど、後顧の憂いは断っておきたい。


 いざ夜になって寝る部屋が確保できないなんていう、目も当てられない事態は嫌だからな。


 町に入ってすぐに一つあったので、見てみることにした。


 パッと見た限りでは綺麗にしているし、いい感じかな。ここに泊まろうか。


「ご宿泊ですか?」


 カウンターにいる中年の女性が俺にそう聞いてきた。


「そうだな」


「期間はどうしましょう?」


 んー、どうするか。


 あんまり長くはいる予定ないんだよなぁ。最悪は長い期間を設定しておいて途中で引き払うっていう手もあるが、まあ、適当でいいだろう。


「とりあえず、一週間で」


「御部屋はどうしますか? 御一人でしたらシングルとスイートルームがありますが」


 部屋か。どうしようかな。


 多分、この町で同行者を得ることになるだろうし、その分も考えておいた方がいいか?


 うん、同行者ね。本当、一人で旅してるとすげえ悲しくなるんだよ。


 とはいえ、今は一人だしな。


「とりあえず、スイートルームで」


 金に糸目はつけない方針で。


「一週間なら……食事込みで五十万ルルです」


「じゃあ、大銀貨5枚で」


 と言って、俺は大銀貨を5枚渡した。


 そういえば、まだこの世界の通貨に関して説明してなかったな。この世界の通貨は基本的に硬貨だ。



銭貨:1ルル 


大銭貨:10ルル


銅貨:100ルル 


大銅貨:1,000ルル


銀貨:10,000ルル


大銀貨:100,000ルル


金貨:1,000,000ルル

 

大金貨:10,000,000ルル


白金貨:100,000,000ルル



 というように、だんだん十倍になっていく。


 俺は今、十億ルル持っている。何を言っているのかわからないだろうが、ガチだ。


 大分、というか滅茶苦茶裕福である。公爵家バンザイ。


 い、いや、ね? け、権力と金は別物だから……。


 まあ、当分金には困らないだろう。というか、無茶しなければ一生遊んで暮らせる。


 金を渡した後、二階の部屋に案内された。


「部屋はこちらになります。入る時はこの鍵をお使いください」


 もらった鍵はアイテムボックスに入れておく。


「それでは、ごゆっくりお休みください」


 さて、この後どうしよう。


 現在は昼の二時ごろ。昼食はさっき手持ちの携帯食で済ませた。


 今日したいこととしては、冒険者の登録と仲間の確保か。


 うーん、冒険者登録をする前に仲間を探しておこうかな。


 俺がアホみたいな力を持っている以上、ある程度ついてこれるような強者でないと厳しいだろう。


 まあ、それについては心当たりがある。


 三十分後、俺はエバドンの奴隷商の店の前にいた。


 そう、心当たりとは奴隷のことだ。


 いや、犯罪じゃないからね?


 この世界では普通に奴隷がいる。なる理由は様々だけど、身売りか犯罪者が多いかな。


 勿論ただの奴隷では駄目だ。戦闘力が高い者でなければならないからな。


 ん? 先に故郷で買っておけばよかったんじゃないかって?


 いや、買う奴隷によっては変な勘ぐりされるかもしれないだろ。馬鹿姉あたりに。もし美少女を買ったりしたらあの暴力魔にからかわれるのは目に見えている。


 と、いう訳で。【叡智神】発動。この奴隷商で最も強い奴隷は?


《アリスという名前の魔族です》


 ふーん、魔族か。奴隷になっているのは珍しいな。


 全くいないという訳ではないが。そもそも基本的にそれぞれの種族は自分の大陸から出ないしな。


 結構五大種族は閉鎖的なのだ。辛うじて人族、魔族、竜族、獣族の間には交流があるが、霊族はマジで引きこもっているし。


 で、そいつのステータスは?


《ステータスを表示します》




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


アリス 魔族 15歳


状態:隷属、衰弱

称号:絶望の淵

レベル:135/1000000

HP:51/27375

MP:59926/59926



能力値


攻撃力:中級

防御力:中級

敏捷力:中級

魔法力:将級

抵抗力:将級



魔法適性


火:0

水:将級

土:0

雷:0

風:0

光:0

闇:0

無:0



スキル


将級

【水魔将】


上級

【魔力操作:上】【魔力回復:上】【魔力視】



クレスト


【悪夢の呪印】


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 レベル135か。魔族は生まれた時からレベルを上げられるとはいえ、異常に高いな。


 そして、圧倒的なまでの水魔法特攻。戦闘能力は申し分ないだろう。魔族は全体として魔法が得意な種族なので、これは期待大だ。


 ただ、状態や称号について気になるな。この人について、もっと詳しく教えてくれ。


《現在十五歳で空色の髪に青色の瞳、身長は147cmで体重は31kgです。家名は奴隷になった時に無くなっています。元の名前はアリス・エピロード、魔王の一角レザンテ・エピロードの娘です。尚、奴隷になった経緯は、父である魔王が――――》


 ストップ。そこまででいい。


 いや、まったく、【叡智神】にかかれば個人のプライバシーなんてあったもんじゃねえな。


 ていうか、魔王の娘!? 十五歳なのに異常に高いステータスはそのせいか。


 ……いや、俺も十五歳なのにアホみたいに高いけどさ。


 ま、経歴なんて別にどうでもいいけどね。うん、役に立ちそうだしその娘でいいかな。


 結局、称号についての説明はなかったけど、魔王の娘から奴隷になっているということは何かがあったのだろう。その結果だと見て間違いないな。


 俺は奴隷商店の中に入った。


「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」


 若い奴隷商人の男が声をかけてくる。


「アリスっていう魔族の奴隷を買いたいんだけど」


「アリス……ですか。その情報をどちらで?……いえ、あまり聞かない方が良いですかね」


 それから男は少し悩むそぶりを見せた。


「ええ、アリス、という奴隷ならいることはいるんですが。知っているでしょうが彼女は傷物でして」


「傷物?」


「はい。奴隷にした時から大怪我をしていまして。大怪我、というより致命傷なのですが」


「まあ、とにかく見せてくれないか?」


 俺の回復魔法で治せるとは思うしな。というか、俺が治せない状態があるとは思えない。


「では、連れてきますので、あちらの面会室でお待ちください」


 そう言って、右側にある部屋を奴隷商人は指差した。


 入ってみると、そこには椅子と椅子があった。椅子しかなかった。まあ、面会室だから物は必要ないだろうが。


 三分くらい経つと奴隷商人が一人の少女を連れて……いや、抱えてきた。


「この娘がアリスですよ」


 その少女は見るも無残な姿だった。


 服は一応まともな物を着ているが、右腕は無く、左手も指が何本か欠けており、足も両膝から先が無い。右目は潰れていて、耳はかろうじて残っている。


 思ったよりヤバかった。確かに今にも死にそうだわ。


「これ、何があったんだ?」


「おや、アリスのことを知っていましたから、分かっていると思っていましたが。その分だと、もしかしてこの娘の素性も?」


「いや、それは知ってる。魔王の娘だろ?」


「成程、知っているのですか。それでも買おうとしているのには理由があるので?」


「戦闘能力が欲しかったんだけど、この分だと……」


「そうですねえ。厳しいでしょう。戦闘奴隷でしたら他を検討してみては?」


 そうなんだけどなあ。


 多分アリスが助かる道は俺に買われるくらいしかないだろうし。魔王の娘なら魔王に恩を売れるかもしれないしな。


 いっか、買っちゃえ。


「いや、いい。買うよ。いくらだ?」


「……100ルルでいいです」


「分かった」


 そう言って俺は銅貨を渡した。


「奴隷に関しての説明は?」


「知ってる、問題ない」


「それでは奴隷契約をしますね」


 奴隷商人はそう言ってスキル、奴隷契約をつかう。


 その瞬間アリスの体と俺の体が淡く光った。


「契約完了です。それでは、またのお越しをお待ちしております」

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