第二話 新世界の神になりました:後編
進化させる帝級スキルだけど、【帝級神】の中からいいものを見つけ出した。
◇◇◇◇
【森羅万象】自分が現在関与している事柄を、帝級以上のスキルに干渉されていない範囲で完全に認知することができる。
◇◇◇◇
この【森羅万象】というスキル。いわゆる鑑定と探知系のスキルの帝級で、わかりやすく言えばGo◯gle大先生の強化版だ。
この手のスキルは進化させておいて損はないだろう。いろんな異世界モノを読んでいる俺としてはそう判断した。
というわけで【能力進化:帝】発動。
《【能力進化:帝】の発動を確認しました。どのスキルを母体にしますか?》
【能力作成:神】でお願いします。
《【能力作成:神】を母体にします。進化させるスキルを選択してください》
【森羅万象】でお願いします。
《【森羅万象】を神級スキル【叡智神】に進化——成功しました》
出来た。
◇◇◇◇
【叡智神】より上位のアクセス権限保持者の干渉がない範囲で、世界の理を完全に掌握できる。
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なんかヤバそうなスキルになったんだけど。え、世界の理の完全掌握って?
何でも解る上に何でも隠せるとかそんな感じ?
なにそのチート。いや、基本的に俺の力って全部チートだから、今更アホみたいに驚いたりはしないけど。
さて、で、今思ったんだけど、俺の能力値って全部神級じゃん?
さっきはすっげ俺最強とか思ったけど、冷静に考えるとこれマズいのではないだろうか。
だって、ちょっと加減を間違えて攻撃したりしたら神話クラスの一撃だぜ? わかりやすく言うと、相手にデコピンしたらリアルア◯パンマンになるんだぜ?
さすがにそれはいただけない。日常生活をまともに送ることさえ億劫になるじゃないか。
だからどうにかして自分の力を抑えたいんだが……。いい感じのスキルはあるかなーと。
教えて、【叡智神】!
《【限界制限】シリーズは能力値を下げることができます》
【限界制限】ね。どれどれ。
◇◇◇◇
【能力制限Ⅰ〜Ⅹ】自らの能力値の最大値を下げることができる。
◇◇◇◇
一から十までで段階ごとに効果が上がっていくようだ。まさに俺にぴったりのスキルである。
何でこんなデメリットしかないスキルがあるのか謎だけど。
アレか? 修行のためにわざと自分の力を下げるとかそんな感じか?
まあ、そんなことはどうでもいい。早速試してみよう。
【限界制限Ⅰ】発動。
…………。
…………。
……ん? 何も起きないんだけど。
念のためステータスを確認してみても、まるで変わった様子はない。
【叡智神】さん、これどゆこと?
《フェイト様に効果を発揮するには【限界制限】シリーズを全て発動することが必要です》
お、おう……。どんだけだよ俺。
ま、まあいいや。【限界制限Ⅱ〜Ⅹ】発動!
おっ! おぉ!!
なんか体がだいぶ重くなった気がする。これ結構弱体化したんじゃねえの?
ウキウキした気分でステータスを見てみると、全能力値が王級まで落ちていた。……あ、それでも王級なんだ。
《【限界制限】シリーズ全ての同時発動を確認——神級スキル【誓約神】を獲得しました》
またなんか来た。え、誓約?
今度はどんな効果だよ。
◇◇◇◇
【誓約神】このスキルを発動した時、それまでに【限界制限】シリーズを全て発動した状態で上がったレベルの値に対応するスキルを獲得する。尚、このスキルは一度しか発動できない。
◇◇◇◇
あ、うん。多分さ、このスキルって俺使わないよね。これ以上スキルもらってもあんま意味ないし。
まあ、一応使えそうっちゃ使えそうだから【能力進化:帝】の生贄にはしないでおくか。
よし、スキルとかをいじるのはこんなもんでいいかな。最終結果はこうだ。
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フェイト・ウィアートル 人族 15歳
状態:通常
称号:異世界からの転生者
レベル:1/∞
HP:∞/∞
MP:∞/∞
能力値
攻撃力:王級
防御力:王級
敏捷力:王級
魔法力:王級
抵抗力:王級
魔法適性
火:王級
水:王級
土:王級
雷:王級
風:王級
光:王級
闇:王級
無:王級
スキル
神級
【代行神】【武器神】【魔法神】【帝級神】【叡智神】【誓約神】
帝級
【限界制限Ⅰ】【限界制限Ⅱ】【限界制限Ⅲ】【限界制限Ⅳ】【限界制限Ⅴ】【限界制限Ⅵ】【限界制限Ⅶ】【限界制限Ⅷ】【限界制限Ⅸ】【限界制限Ⅹ】
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神級スキル六つか。なんかこの短期間で感覚が麻痺してるけど、普通意味わかんないよなこれ。
なんというか、神級スキル二つで死ぬほど驚いてた頃の俺が懐かしい。
って、待てよ。このままだと誰かに鑑定されたら神級スキルがバレちゃうじゃねえか。偽装しなきゃ。
【叡智神】お願い!
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フェイト・ウィアートル 人族 15歳
状態:通常
称号:一般人
レベル:1/∞
HP:∞/∞
MP:∞/∞
能力値
攻撃力:王級
防御力:王級
敏捷力:王級
魔法力:王級
抵抗力:王級
魔法適性
火:王級
水:王級
土:王級
雷:王級
風:王級
光:王級
闇:王級
無:王級
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うん、パーフェクト。ステータスのバランスが歪すぎて一瞬で偽装ってバレそうだけど、何をどう偽装してるかはわかんないだろうから問題ない。
「 」
ふぅ、にしても予想外に俺強かったなぁ。これ小説家になろうだったら絶対主人公最強タグついてるわ。
「フェイトッ!」
「ん? 姉さ……グハォッ!?」
解説。後ろから俺を呼びかける声が聞こえたから振り返ったら、姉さんに前頭部を殴られた。
って、オイ。
「なんのつもりだ暴力魔!」
「それはこっちのセリフよ! アタシが何度アンタの名前を呼んだと思ってんの」
「何度も話しかけられてたんなら無視して悪かったが、それ以前の問題として俺の部屋に無断で入ってること自体がおかしいだろ!」
「……ひゅーひゅー」
下手な口笛やめろ。
っていうか、マジで頭痛いんだけど。割と尋常じゃねえ。
いや、むしろこれ転生してから一番の痛みまである。
「なあ、姉さん。俺の頭腫れたりしてねえ?」
「えーと、そうね。見た感じ腫れてはないわ。血は出てるけど」
「てめえ何してくれてんだオルァッ!!」
確かに手を当ててみると血液の感触がある。
……いや、どんだけ強い力で殴ってんだよ。弟にマジの一撃放つ姉がどこにいるんだ。
しかも真顔でそれ言うなし。せめて申し訳なさそうな顔しろよ。
俺たちって一応貴族なんだぜ、これで。信じられるか?
今の暴力魔なんて姫って呼ばれる立ち位置にあるんだぜ?
「痛ぅ……。で、姉さん、俺に何の用だよ」
「アンタ、頭大丈夫? 今日出発だからみんなに挨拶していくって昨日自分で言ったのに、一向に来る気配がないからわざわざ呼びにきてあげたのよ」
「あ、そういえば。ナイス姉さん」
ステータス騒ぎのせいで完全に忘れてた。よく考えたらもう直ぐ出発の時間じゃねえか。
まあ、別に絶対予定時刻通りに行かなくちゃいけないってわけでもないんだけど、挨拶回りくらいは早めにしておいたほうがいいからな。
さて、最初は使用人の人たちのところに行くとするか。
「ちょっと待ちなさい」
「何? まだ用があるのか?」
「何って、どこかに行く前にアタシに挨拶しなさいよ。せっかく目の前にいるんだから」
「ごめん。断りもなく部屋に入って来て、頭を思いっきり殴りつけてきた人が家族っていう発想は俺にはなかった」
まあ、そういう行動はある意味家族っぽいけども。
他人相手には絶対できないだろうし。いや、この暴力魔ならやりかねないか。
「じゃ、明日にはもうこの家いないから、元気でいろよ」
「適当ね……。まあいいわ。アンタも元気でね」
姉さんは若干呆れ気味の表情を浮かべたが、部屋を出て行く俺に笑顔で手を振ってくれた。
さて、じゃあ使用人たちのところに行くか。
もっとも、いろんなところにばらけているので、家の各地を回りながらになったが、そこまでの時間をかけることなくほぼ全員に会うことができた。他に、ちょうど近くにいた騎士なんかにも一緒に挨拶をしておいた。
残すは俺の家族か。
まずはとりあえず執務室にいる父さんと兄さんかな。
俺はどこかの暴力魔とは違うので、入る時にはきちんとノックをする。
そして、ドアを開けようとすると……。
「フェイトッ!!」
「うぉぁ!?」
急に目の前に出現したおっさんに抱きつかれた。気持ち悪っ。
何この罠。『いしのなかにいる』並みに絶望感あるんだけど。
「さっさと離れろバカ親父」
暑苦しいおっさんを全力で突き飛ばす。
ものすごい勢いで壁に激突したが、まあ父さんも壁も無事だろう。
何で俺の家族ってこんなのばっかなんだろ……。
「あんたはあんま元気でいるなよ。みんなに迷惑がかかる。じゃあな」
「ちょ、ちょっと待てフェイト。まさかそれは別れの挨拶か!? 実の父親に対してその仕打ちは……」
部屋の中の椅子に、笑顔で腰掛けている兄さんのもとに向かう。
「兄さん。兄さんにはこれまでの15年間本当に世話になった。兄さんがいなきゃ今ここに俺はいなかったかもしれない。本当にありがとう」
「フェイトォ! 無視しないでくれぇ!」
いつも馬鹿姉と喧嘩した時に仲裁してくれたのは兄さんだった。
子供の頃、親元を離れて学園に行こうとしたのに、ゴネて反対してきたクソ親父を説得してくれたのも兄さんだった。
昔、変な宗教団体と一触即発状態に陥った時、裏から手を回したりして助けてくれたのだって兄さんだった。
「別に大したことじゃないよ。兄弟なんだから助け合うのは当然」
「兄さん……!」
「だから、パパを無視して感動の別れ話みたいなのするのやめてぇ! 死ぬぞ? パパ、寂しくて死ぬぞ?」
本当に、なんていい人なんだろうか。前世を通して、初めて心の底から尊敬できる人だよ、兄さんは。
「じゃあ、またいつか」
「うん。次に会う時には僕はここの領主になってるかもね」
目頭が熱くなるのを抑えながら、お互いに手を振る。
名残惜しいが、これが今生の別れってわけじゃないんだ。寂しさを振り切って部屋を出た。
最後は母さんのところだな。
「フェイトォォォォォッ!!」
なんか俺の名前を呼ぶ野太い声が聞こえた気がするけど、多分気のせいだろう。
少し歩いて、母さんの部屋についた。外にはメイドのミリーが立っている。
「母さんに出発前の挨拶をしたいんだけど、今入っても大丈夫か?」
「はい。エミリエット様は今か今かと待ち構えてますよ」
「そっか」
ミリーがドアを開けてくれたので、中に入る。
言われた通り、笑顔でこちらを見ている母さんと執事のセヴァスチャンがいた。
「今までありがとう、母さん」
「ううん、大したことじゃないよ〜。旅に出ても元気でね〜」
「ああ」
つい照れて返事が素っ気なくなってしまったが、母さんにも相当お世話になった。
多分、兄さんは母さんの血を多く引いたんだろう。暴力魔は馬鹿親の方だな。
俺? ハッ、もちろん母さんの方に決まってんだろ。愚問だな。
「セヴァスチャンも、みんなことをよろしく頼む」
「仰せのままに、フェイト様」
セヴァスは滑らかな動作で、手を胸に当て頭を下げた。
この人がいなきゃバカ親父はここまでやってこれなかっただろうし、何気にウィアートル家の影の功労者だ。
何度も後ろを振り返って、ずっと手を振りながら部屋から退室した。戻る前にミリーにも挨拶しておく。
そして、自室に帰還。もう既に姉さんはいないようだ。
まあ、ああ見えて地味に忙しいもんな。
まとめておいた荷物を持って、出口に向かう。
見送りの人間などはいない。
もちろん、俺が嫌われているからとかそういう理由じゃないぞ。
ウィアートル家の家訓だ。必要以上に別れを強調しない。いつでもまた会える、帰ってこれると心に刻むためである。
もしかしたら、俺は二度とここに帰ってくることはないかもしれない。だけど、俺はいつもここにいるんだ。
……いや、やっぱ普通にちょくちょく帰省しよ。




