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第二十六話 血塗られた道化達

「では、まずは手始めに……」


 団長はそう言って、指をパチンと鳴らした。


 すると、団長の右手に、先ほどまでは影も形もなかった一つのナイフが出現した。【空間収納】から取り出したのかな。


 そして、団長はナイフを持った右手を大きく振りかぶる。


「死になさい、クラウゼ辺境伯——ッ!!」


 憎しみのこもった声でそう叫んでから、クラウゼの方向に向かって思いっきり投擲した。


「キャァァァァァァァァッ!!」


「う、うわぁぁぁあああああ!!」


 実際に武器が投げられて、何か尋常ではない自体が起きているのではないかと気付き始めたのか、観客から悲鳴が上がる。


 とはいえ、まだ、演出かどうか半信半疑っぽいけど。


 さて、と。


 んー、別にあの程度の攻撃、結界で余裕で受け止められると思うけど、一応止めておくか。


【空間神】発動。ナイフの進行方向に転移だ。


 次の瞬間、俺の目の前にナイフが出現した。……いや、正確に言うなら俺がナイフの前に現れたんだけどな。


【思考加速】の効果により、スローモーションのような動きに見えるナイフを軽く掴みとった。


 そしてそのナイフを【空間収納】の中に入れ、一つ溜息をついてから、サーカス団の方向を向く。


「おい、お前ら。クラウゼ辺境伯の暗殺を企んでたんだろうけど、もうそれは不可能だ。『ウィアートル』の一族として、俺直々に正義を執行してやるよ」


 とりあえず厨二っぽく挑発してみた。……いや、この世界ではこれがスタンダードだから! 別に俺が厨二病ってわけじゃねーから!


 さてと、相手はどう出るか。返答によって、こいつ等の危険度が大体推定できるが……。


「ほう、これはこれは。今ここにいるウィアートル家の男性ということは、噂の次男坊、フェイト・ウィアートル様でございますか。そんな方がわざわざ動いてくださるとは、どうやら我々は高く評価されているようですね」


 特に動じることもなく、そう返して来た。


 あー、これは本格的にヤバい奴らだな。ま、最低でも王級の実力者が一人以上いる集団だ。こんなものだろうな。


 手加減とか考えてる暇はねえ。スティ、全力全開でいくぞ。


《言われずとも、そのつもりですよ》


 さて、まずは一応様子を見るか。相手の手の内が分かっていない今、下手に動くのもマズイ。


 万が一アイツ等が死ぬことによって発動する『何か』があったりしたら最悪だしな。


「初手は防がれてしまいました。それではピエロの皆さん、彼と一緒に踊ってください!」


 団長がそう指示をすると、六人の剣を持ったピエロが襲いかかって来た。


 素手で捌いていくが、一人一人が相当の力を持っているようだ。


 っつか、これ全員王級じゃね?


《先日ステータスを閲覧したエルコレと同等に力を全員が持っているようですね。というか、六人のうち一人はエルコレですよ?》


 あ、そうなの?


 なるほど、結構ヤバいステータスしてたし、若干苦戦するのも当然か。


 とはいえ、膠着状態はマズイな。手間取ってるあいだにクラウゼ殺られたら面倒だし、さっさと終わらせよう。


 ピエロのうちの一人が切りかかって来たのを、カウンターで腹に一撃加えた。そして、その衝撃で一瞬動きが止まった隙に剣を奪い、更にはもう一度腹部に蹴りを打ち込んだ。


 一人目終了。


 背後から別のピエロが迫って来たので、振り向くついでに胴回し蹴りを極めて沈める。


 二人目終了。


 そして、俺が体勢を崩しているところに、残りの三人が一気に襲撃して来た。


 とりあえず【空間神】を使って、三人のうちの一人の背後に転移して剣を一閃。人々の前で血を見せるのもアレだから、峰打ちで勘弁してやった。


 残りの二人は急に対象が消えたせいで勢い余って激突していたので、二人重なってフラフラしているところに向けて手をかざす。


「弾き飛ばせ。【インパクト】」


 下級の無属性魔法。不可視の衝撃波は最後のピエロたちを吹き飛ばし、昏倒させた。


 うん、流石に俺のステータスがあれば下級魔法でも王級を倒せるみたいだな。


「うぉおおおお、すげぇぇええええええ!!」


「かっこいい!」


「ヒュー、ヒュー!」


 客席から歓声が巻き起こっている。あー、これ何かのショーだと思われてそうだな。まあ、下手に恐怖心に煽られてパニクられるより余程いいか。


「さて、次はどうするつもりだ、団長?」


 ついでにパフォーマンスで指をクイックイッと動かし挑発してみる。まあ、団長に効いた様子はないけど。


「そうですね、お次は魔物使い達、相手をしてあげなさい!」


 今度は三人の団員が前に出て来た。


 そして彼らが口笛を吹くと、演目にも出て来た猛獣や魔物がやってきた。もちろんその中にはドラゴンもいる。


 もう一度の口笛で、一気に魔物達が俺に向かって襲いかかって来た。


「グルォォォォォオオオ!!」


「ギッシャァァァァァ!!」


 どいつもこいつも、よく見たらS級やらSS級やらが対応しなきゃいけねえ危険度マックスな奴らばっかなんだけど。むしろよくこんなに集めたな。


 まあ、こいつ等の相手はさっきよりも簡単だ。


【傀儡神】発動。


「頭が高いぞ。跪け」


 スキルを使って強制的に屈服させる。ちなみに某エンペラーなアイの人風のセリフは必要ない。


 人間相手に【傀儡神】を使うのは気が引けるけど、魔物相手だったら特には気にならないしな。意思の疎通ができたとしても、所詮根本から在り方が違う相手だ。容赦などする意味もない。


 さて、これで魔物使いは完全に無力化したぞ。


「キャーー、すご〜い!!」


「おぉぉぉぉ!!」


 心地よい歓声が耳に届く。もうこれ完全に演出だと思われてるよね。いや、そうなるように誘導はしたけども。


「次はどうするんだ?」


 ドヤ顔で見下すように言ってみる。


 流石に少し焦り始めたのか、団長の額に汗が浮かんできた。


「ぐ、ぐぅ、虎の子の彼らをやられてしまいましたか。これは厳しいですね……とでも言うと思いましたか! 魔法師よ、一斉放射だ!」


 先程の表情からは一転、嘲りの色を浮かべてクラウゼを指差し、そう指示した。


 残っていたうちの二十人ほどの団員が一斉にかなりの威力の魔法を発動する。何でピエロと魔物を同時に襲い掛からせないのかなと思っていたら、時間稼ぎだったのか。


 完全に詠唱を終わらせた上に、時間をかけて魔力を注ぎ込んだようだ。他の策は全てダミーで、本命はこれだったってわけね。


 その魔法は一発一発が帝級以上の威力を持っているようだ。どんだけだよ。サーカス団強すぎか。


 どいつもこいつも王級レベルばっか、ね。そこ等の都市の全戦力よりも遥かに強いぜ? ありえんのか、こんなこと。


 いや、或いはその以上な強さの原因が、クラウゼを狙う理由に関わってるのか……?


 まあ、そんなことはどうでもいい。あの魔法群をどうするか、だ。


 観客達はあれも演出の一部だと思っているようで、特に逃げたりする素振りはないけど、君たちそのままだと余裕で死ねるぜ?


 まあ、そんな未来が訪れることはないけどな。


 とりあえず俺は何をすることもなく、ただ笑みを浮かべながら魔法に行方を見やる。


 そして、先頭の風属性魔法がもう少しでクラウゼの近くに届く、というところで何かに阻まれて霧散した。


 他の魔法も同様に、見えない壁によって防がれる。


 もちろん、俺が張っておいた結界のおかげだ。


 いくら帝級の魔法とはいえ、神級スキルである【結界神】には敵わないよな、そりゃ。


「綺麗に爆発したなぁ……」


「っべー、マジっベー」


「ほっほっほ、いい余興ぞよ」


 なんか歓声に紛れてクラウゼらしき声も聞こえてきた。っていうか、喋り方すげえな。『ぞよ』って何だよ『ぞよ』って。


「客席との間に結界を張っていましたか……」


 苦虫を噛み潰したような顔で、悔しがる団長。これで終わったかな。


「お前の策は全て潰した。どうする、もう降参するか?」


 従うとは思えないけど、一応降伏勧告をしてみる。


「ふふ、ふふふ、ふふふふふ!」


 返事を待っていると、団長が急に笑い声を上げ始めた。何この人、怖いんですけど。どうした? 狂ったか?


 生理的な恐怖と戦っていると、しばらくしてから団長は笑うのをやめた。どうしたんだろう。


「ふふふ、いえ、失礼。これで私が万策尽きたと勘違いしている様が、どうにも愉快で堪えきれなかったのですよ」


 え、まだ何かあんの? どうせ無駄だろうから、もう良くね?


 いや、向こうからしてみれば必死なんだろうけどさ。


 なんというか、よく最強系主人公は他人を見下す、みたいなテンプレがあったけど、その気持ちもわかる気がする。だって、負けるビジョンが見えないんだもん。


 まあ、そんなことを言っていると足元をすくわれるんだろうけどな。


 さて、と。サーカス団の切り札は一体なんなのだろうか。


「ウィアートルの方。申し訳ありませんが、この戦いは初めから私たちの勝利が決まっていたのですよ」


 高笑いを今にも始めそうなほど上機嫌な様子である。正直フラグにしか見えないんだけど。


 まあ、こちらとしてはフラグ大歓迎だけどな。


「たしかに、ここから観客席への直接攻撃は無駄なのは理解しました。しかし、同じ客席からの攻撃はどうなのでしょうね……?」


 …………ん?


「実は、クラウゼが座るすぐ横に、私の手の者が紛れ込んでいたのですよ。やれ、リンド!」


 その声に呼応して、クラウゼのかなり近いところに座っていた一人の観客が立ち上がって杖を構えた。


 あれがリンドさんか。


「あなたは転移系の力を持っているようですが、ここからでは流石に間に合わないでしょう。これで終わりです」


 団長のその言葉に合わせて、リンドが帝級無属性魔法を放った。


 そして——クラウゼに当たる前に防がれた。


 いや、その事態は普通に予測してたし、クラウゼの周りにはもう一枚結界張ってたよ?


「な、何!? 馬鹿な!! こ、こうなったら、いいでしょう。私直々に相手して差し上げますよ」


 そう言うとともに、団長の体は大きく膨れ上がり、筋骨隆々の大男となった。肉体強化のスキルでも使ったのだろうか。


 まあ、何でもいいか。確かに強そうだけど、精々が帝級程度の力しか感じない。俺と戦いたいなら、せめて神になってからにすることだな。


「終わりだ——」


 今まで通りに【空間神】で団長の正面に転移して、正拳突きの構えをする。


 そして。


「愚かさを知れ。【神罰(エクスキューション)】」


 拳にアビリティの力を込め、思いっきり殴り飛ばしたのであった。

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