第零話 テンプレ的転生
「ふぁぁ」
「どうしたの? 開士」
月曜日の午前八時ごろ、俺は親友と一緒に中学校への通学路を歩いていた。
俺の名前は小鳥遊開士。容姿も運動神経も頭の出来も平凡な中学三年生。
趣味は読書で、最近はネットに投稿されている小説にハマっている。
ちなみに、当然付き合ってる彼女はいない。
しかし、彼女はいないが付き合ってる彼氏ならいる。……冗談だよ。
大きな欠伸をした俺に話しかけてきた奴は、如月悠希。小1の頃からずっと同じクラスで、幼馴染かつ親友だ。
こいつは俺とは違って何でもできるスーパーマン。
性格はよくて、その上容姿端麗、運動神経抜群。模試では常に十位以内の成績をとり、クラスの女子にもモテモテで、コイツの周りには一日中女子が付きまとっている。
そして、俺と話してる途中に悠希の元に女子が群がってくるせいで、俺の居場所がなくなり気まずくなるっていう嬉しくない付加効果付き。
「別に何でもねえよ。昨日の夜に夜更かししただけだ」
「そうなんだ、ならいいけど。僕らも受験生なんだから、夜更かしはあまりよくないと思うよ」
悠希が心配そうな目でこちらを見てくる。うん、こいつの上目遣い、地味に魅力が……。
い、いや、別にドキッてしてねえし。
「余計なお世話だよ。大体、俺は受験勉強なんてするつもりはないんだ。どこかの優等生様とは違ってな」
そもそも、受験なんて勉強しなくても入れるところを受ければいいだけの話だろ?
だが、俺の返しに納得がいかなかったようで、悠希は顔をしかめる。
「あのねぇ、僕だって優等生なんかじゃないよ。人よりも世渡りが上手いだけ」
「それを優等生って言うんじゃねえの?」
すごいセリフを真顔で言われた件について。
え、マジで言ってんの? 何、煽ってんの?
でも、なぜか怒れねえんだよなあ。嫌味にならないんだよ。
これが『ただしイケメンに限る』を使える者の力とでもいうのかッ!?
そんなどうでもいいことを考えながら、適当に進んでいく。
しかし、多分、悠希とこんな風に喋れるのも、同じ学校に通っている今だけだよな。どうせこいつは偏差値超高い高校に行くんだろうし。
もしかしたら、中学卒業を皮切りに交流が途絶えてしまうかもしれない。
受験というワードを聞いて、そんなことも思い浮かべた。
「キャァァァァァァァァァァッ!!」
「うおッ!?」
急に近くから、甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。
すごいビックリしたんだけど。え、何? 痴漢とか?
「何だろうね」
悠希も驚いたようで、こっちを向いて首を傾げる。
そして、二人で一緒に悲鳴の聞こえた方向に目を向けると……。
ニット帽を深くかぶり、サングラスをかけて、マスクをつけている中肉中背の怪しい男が。
こちらにナイフを向けて突進してきていた。
……………………………………。
……はい?
ナイフの向く方向は俺の少し右。つまり悠希だ。
ヤバい、このままだとアイツが刺される!
そう思った瞬間。
いや、思っている暇すらも、考える暇すらもない。
ただの条件反射で。
俺は咄嗟に悠希を庇っていた。
ナイフは俺の左胸、ちょうど心臓のあるあたりにヒットした。
胸が灼けるように熱い。痛い。ただひたすら痛い。
意識が朦朧としてくる。あれ?何か痛くなくなってきた。ヤベえ。何かよくわかんねえけど、多分末期だ。
「開士っ!? 開士、開士ぉぉぉぉぉっ!!」
悠希の叫び声をどこか遠くに聞きながら、俺は意識を手放した。
◆◆◆◆
知らない天井だ。
目を開けると、目の前には知らない天井があった。
うわ、凄え。そっか、これが見知らぬ天井か。初めて見たわ。
いや、ふざけてる場合じゃないな。
えっと、ここはどこだ? 俺は確か悠希を庇って……。
あの後どうなったんだ? アイツは助かったのか?
俺は刺されたから、ここは病院か?
っていうか、どこも痛くないような。俺確かに刺されたよな?
あれ、さっきから体が上手く動かないな。手足とかが小さくなっているような。
まさか四肢の切断!?
更には、なぜか涙と泣き声が止まらない。
一体、俺はどうなったんだってばよ?
「初めまして、フェイト。俺がパパだぞ~」
俺は、そばに立っていた二十代前半くらいの男性に抱きかかえられ、そう言われた。さらに頬を擦り擦りされた。
は? パパ? 意味が分からないんだけど。
っていうか、フェイトって誰だよ。
アレか? プロジェクトFのクローンか? それとも、サーヴァント使ったバトルロイヤルか?
すみませーん、看護師さーん、ここに不審者がいまーす。