エッセイ 「走る!」
日々、同じ事を繰り返す事の多いサラリーマン人生でも、時にはちょっとしたトラブルもあります。そんな過去のお話です。
新橋駅を出た山手線の中、航空会社からの携帯メールを受け取った。
「ご搭乗予定の便は、機材準備の関係で出発が5分遅れ10:05となります」
なんだ、遅れるのか・・・。でもたった5分で律儀だなあ・・・・。
ん???。10時・・・5分???。
時計をみると9:31。一瞬何が起っているのか理解できない。僕はいつも浜松町から羽田の保安検査場まで待ち時間や歩く時間も含めて35分程度かかると思って計算している。つまり、間に合わない。
確か11:00の飛行機に乗るハズでは・・・。無料で使えるラウンジとやら言うところへ行って30分ほどゆっくり過ごそうと早めに出たつもりだった。その瞬間思い出した。先方での打ち合わせを追加して、搭乗便を1時間早めたのを忘れていた。この歳になると、椅子から立ち上がった瞬間、何をしようとしていたのか忘れていることも多い。
とにかく、そんな時、人間は一瞬で色々な事を考える。
このままモノレールだと無理だ。京急経由は絶対に間に合わない。タクシーは1度だけ使ったが、モノレールより早いと思った記憶がない。それに、浜松町で乗り場を探すのに手間取りそうだ。新幹線。指折って計算したが会議には間に合わない。
結論「5分遅れているし、このまま急ごう(走ろう)!!」
ここまで考えがまとまるのに約1分。丁度、浜松町に着く。
そして、JRのホームからモノレールまでと、モノレールを降りてから保安検査場まで走った。
走った。
実に走った。
久しぶりに走った。
モノレールの中では座っていたが、気持ちは走っていた。
羽田のあの長い出発階へのエスカレータも一気に駆け上がった。さすがに上の方では、足に来ていた。
保安検査場を通ろうとすると、チャイムが鳴って「通行不可」と表示された。時計をみると9:57。「お客様、既に締め切っています。あちらでお手続きを」と男性の係員が冷たく言ってカウンターを指さす。
「解りました」と言いたいが、息が切れて頷くだけ。次の便の手続きをしようとカウンターに行くと一部始終を見ていた優しそうな女性の係の方が「お客様、せっかく走っていただいたのに、申しわけありません」と。
「いえ、謝っていただかなくても。あなたの所為ではありません」と言いたいが、これも息が切れていて「いえ・・」だけ。
ところが「あっ、お客様、出発便が遅れています。間に合うかもしれません!」と言ってばたばたと調べてくれた。「だから走ったんですよ」と言いたいけど、これも頷くだけ。
最後に「ありがとう」だけはなんとか口にできた。
で、結局、間一髪間に合った。
飛行機の中で配られたアイスコーヒーをテーブルにも置かず、一気にのみ干したら、もう一杯くれた。
で、心に誓った。
「もう歳で忘れっぽいのだし、これからは記憶を当てにせず必ずスケジューラを確認しよう。」
・・・・ではなく、「今度はもっと早く走ってやる!」