9話「揺れ動く想い」
「――はぁ……」
ここ最近で2度目の最悪な目覚め。
眠ろうとしても、ついよくない事を考えて全然眠れない。考えたくないのに、あの過去の辛い情景が浮かんでくる。いよいよ仕事中に倒れてしまうんじゃないかと思えるぐらい体がダルい。
でもそんな体で無理してでも会わなきゃいけない人がいる。小鳥遊さんだ。昨日のあの対応は正直大人として失格。最低な対応だった。
本来ならもっとお互いが納得できるまでちゃんと話し合うべきだと思う。彼女も諦めていないようだし。そんなことを考えながら、体を伸ばして起き上がる。とりあえず朝食の準備を始めようとした矢先、
「ん、こんな朝に……? 誰?」
部屋のインターホンが鳴る。こんな朝早くに訪ねてくる人なんてそういない。
普通なら生徒が朝から問題起こして先生に頼ってきたってところだろうけど。ただでさえ疲れているのにさらに面倒事に巻き込まれるんなんて、嫌々ながらも立場上モニターに向かう。
「せんせぇ!」
だけれどそこにいたのはまるで予想外の人物で、私はその顔がモニターに写った瞬間に即座にモニターを切ってしまう。
「はぁ……なんでなのよ……全く」
頭が痛くなってくる。たしかに会いたいとは思っていたけど、こんなに朝一番で来るなんて。
やっぱり彼女はまだ諦めきれてないようだ。でもタイミングは絶対今じゃない。朝だって時間ないんだし、学校行けば会えるのに。
ああ、ダメだ。疲労のせいでちょっとしたことでイライラしてしまう。そうやってイライラしてる方が損なのに。
そんな事を考えていると、痺れを切らしたのかインターホンを連打し始める小鳥遊さん。
「……あぁー! もう、うるさい!」
でもイライラせずにいられなかった。ピンポン連打はいくらなんでもキレていいと思う。
頭を掻きながら仕方がなく玄関へ向かい、扉を開けて彼女を迎え入れる。
「何、小鳥遊さん」
もはやまともに会話する気力を持てずに、教師らしからぬ素っ気ない態度で話す。
「せんせ、昨日のことで、ちょっとだけ言っておきたいことがあるの」
「言ってみて」
「私、諦めないから。好きを諦めない」
真面目で真剣な目をして、私にそう宣言してくる。
「……どうして、どうしてそんなに自信満々なの?」
アレだけ言ったのに、もはや脈なしだって思われたっておかしくないのに、どうしてそんなふうにしていられるのだろうか。
単に諦めが悪いようには見えない。その瞳の奥には絶対の自信、確信がある。
でも、どうして? 何が彼女をそうさせたの。
「ふっふーん、さぁーそれはなぜでしょー?」
そう言うと、彼女はニヤニヤしながら私の事を弄ぶかのように、近づいてきてわざとらしくぼかしてくる。いつもの感じで『わかってるでしょ?』とでも言いたげなそんな表情だった。
その表情で私の心が焦り始める。何を彼女は知っているのだろうか。何を分かっているのだろうか。知られてしまうのが、怖い。私の本当の気持ちを、想いを。
「じゃ、またがっこーでねぇー!」
でもそんな私の焦りを他所に、小鳥遊さんは言いたいことだけ言って勝手に帰っていってしまう。ホント台風みたいな感じだ。
「ふぅ……」
とりあえず分かったのは小鳥遊さんはまだ諦めていない。あの程度では崩れなかったということ。
そうなってくると障害となってしまうのは、やはりその『スキ』を信じられない私。
どうすればいいのだろう。どうすれば信じられるようになるのだろうか。私はどう思ってる? 彼女とそういう仲になりたい?
「ならいっそ――」
いっそ2人でその障害を乗り越えれば……
「いやいやいや」
たしかに1人より2人だとは思うけど、彼女を巻き込んでしまうのはどうなんだろう。
それにどうやって事情を説明すれば……いいのだろう。島の外の出来事だし、説明がしにくい。
正直、心が揺れ動いている。そう思うのはやっぱり私が彼女のことが好きだからだ。彼女と恋仲になりたい。そう思っている。その中で一緒に考えて、悩んで乗り越えていきたい。
「はぁ……学校行こ」
ここで色々と考えてもしょうがない。学校へ行って考えよう。そう決めて私は朝の準備を始めた。
 




