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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第1章『あやえり』
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8話「考え込むということ」

 中休み。次の時間が体育なので、みんな雑談しながら体操着に着替えている。そんな中、私はずっと考え事をしていた。


 キス……いよいよしてしまったら、どうなるのかな。

 まりちゃんの言ったとおりに案外すんなり答えが出るかもしれない。でも、はたして私にそれを成し遂げるだけの覚悟はあるのだろうか。もし、それで何も感じなかったとしたら……キスまでして、好きじゃありませんでした。ではちょっといただけない。だからといって、それ以外にもはや私には確かめるすべはないような気がする。


「どうしたの? 着替えもしないで。なんか最近ボッーとしている事多いよね、大丈夫? 保健室いく?」


 そんなことを考えていると、亜弥あやちゃんが心配そうな顔してこちらを見つめている。そんな中、私は亜弥ちゃんの唇に自然と目がいってしまう。

 あの唇を奪ってしまえば、答えがわかるのだろうか……でもやっぱりいざ本物を前にすると、とてもじゃないけどできそうにない。そんな勇気、私にはないよ。


「えり?」


 キスのことに気を取られてしまい、ついつい会話をするのを忘れていた。返答のない私に亜弥ちゃんさらに不安そうな顔をして見つめている。


「ううん、大丈夫だよ」


 私はあくまでも心配させまいと、気丈きじょうに振る舞う。実際、体は健康なのだから、亜弥ちゃんに余計な心配かけて不安を煽ってはいけない。


「ならいいんだけど、無理しちゃダメだからね?」


「うん、わかってる」


「じゃあ、早く着替えて体育館いこ?」


「うん、ちょっと待ってて」


 そういって私は着替えを始める。とりあえず『キスをする』という案はやはり却下ということで。そういうことは関係が進展してからするべきだと、私は思う。私たちは今はただの友達でしかないのだから。なのでなにか別の案を考える必要がありそうだ。

 そんな事を考えながら、私は体操着に着替え、教室を後にする。


「――襟香さん、襟香さん!」


体育館へ向かう途中、隣を歩いていた由乃よしのちゃんが私を呼ぶ。


「ん? 何、由乃よしのちゃん?」


 それにつられ、顔を由乃よしのちゃんの方へと向けると――


「また考え事してましたね?」


 ちょっと怒ったような表情をして、そう私に訊いてきた。


「あ、うん……しちゃイケナイってわかっててもどうしても頭で考えちゃって……」


「でもさ、次は体育なんだから考え事は禁物だよ? 下手すると怪我するかもしれないんだから!」


 その会話に、横からまりちゃんもそう忠告する。


「うん、気をつけるよ」


「襟香ちゃんはさ、もっと直感的になったほうがいいんじゃない?」


「直感的?」


「そうですね、こういうお話ではそちらの方が答えを得られやすいかもしれませんね」


「そうそう、恋は理屈じゃないっていうし」

「直感的かー」


「うん、例えば何かしらの行動をして、その瞬間瞬間に何か感じるかどうかだけに集中すればいいんじゃない?」


「ああー、いわゆる『考えるな、感じろ』ってやつだね」


「そういうこと。それで何かを得られたんなら、もうそれは好きってことでいいと思うよ」


「うん、わかった。実践してみるね」


 なんとなく、今までの訊いてきたものをまとめると、答えが見えてきた気がする。要は亜弥ちゃんが好きだという納得がいくもの、つまり『確証』を得られればいいのだ。

 キスよりも難易度が低いもの、例えば亜弥ちゃんと触れ合ってみたり、肩をあずけてみたり、とにかくそんなことをしてそれでどう感じるかどうか、それに全力を尽くせばいい。

 絡みに絡みまくった糸を1つ1つ解いている感じがしてなんだか楽しくなってきた。これが全て解けたときこそ、真の答えが導き出されるのだ。この膠着した状態から抜け出すことが出来るのだ。よし、早く体育を終わらせて実践してみよう。そう私は決意し、体育館へと向かった。



◇◆◇◆◇



体育の時間。今日も今日とて相変わらず、内容はバレーだった。いつものように準備体操をして、いつものようにバレーの練習を始める。もはやルーチンワークのようなもので、作業も慣れたもの。それから試合をして、体育の時間は終了となる。

 チームはいつもの6人、だからというわけではないのだろうが、かなり強い。今のところ負け無しだ。なので、体育好きな亜弥ちゃんや亜美ちゃんたちはとても張り切っている様子。そんな中、私たちは他の試合を観戦しながら、自分たちの番を待っていた。


「……」


 私は試合など、うわの空で横で試合の合間に練習している亜弥ちゃんを見つめていた。


 行動するとはいえ、私には一つ不安要素があった。それはまたその『得られた何か』について思い悩んでしまうのではないだろうか。私ならたぶんありえそうだ。

 どれが正しいものなのだろうか?とか、はたしてこれは私が望むそれなのだろうか?とか。

 それで結局振り出しに戻ることになることも十分にありえる。そう考えると、今から不安と恐怖でいっぱいになる。そうなったらもういよいよ、アレでもしなければならないのかもしれない。それをしなければならないほど、私の脳は鈍感だということだろうし。でもそれをするのはだいぶ憂鬱ゆううつだ。だからこそ、次の行動で何か糸口がつかめるといいのだけれど。


「――えり、危ない!」


 その時だった。どこからから私を必死に呼ぶ声がする。呼び方からして、たぶん亜弥ちゃんだ。その声に我に返り、その声の方へと顔を向ける。


「え……?」


 するとその瞬間、私の視界が一気に真っ暗になってしまう。状況が飲み込めず、ただただ困惑したのも束の間、顔面にとてつもないくらいの強い衝撃が襲う。まるでドミノ倒しのように受けた勢いのままに後ろへ倒れていき、床に後頭部を強打する。当たりどころが悪かったのか、意識が朦朧もうろうとしだして、少しずつ遠のいていくのがわかった。飛んできたボールが私の顔面に直撃したのだろう。

 薄れていく意識の中、私は改めて再認識した。やっぱり考えすぎはよくない。特に私の場合はすぐに考え事をしてしまうタイプらしいから、気をつけよう。あと授業、特に体育のような危険がいっぱいあるようなものは真面目に受けようを思った。これが私が今日の授業で得られた教訓なのであった。

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