1話「この世界の真実」
無垢花たちの楽園――それは同性愛者たちのために存在する島。
ここには『男』というものは一切存在しないだけではなく、入ることすら許されない完全なる男子禁制の場所。
それはたしかに聞こえはいいようにみえるけれど、それはあくまでもガワだけのお話である。実態はそんなに夢のような『キレイ』な世界ではない。
『男』という情報は完全に遮断され、インターネットや書籍、歴史などあらゆる媒体から男の存在が抹消されている。さらに外からやってきた人には外の情報をこの島で育った人々に入れないために、奥歯にマイクロチップを埋め込み、言語統制さえ行っている。この世界では女性同士で恋愛することがもはや外での男女恋愛と同じ感覚であり、それに誰も疑問を持たないのである。
こんな世界で育てられた子供たちは、言ってしまえば強制的に同性愛者として『製造』されるのである。
もはやどこかの独裁国家ばりのように完全支配された島。
でも何より恐ろしいのは、その実情は今この島に住むほとんどの人々には知られていないということ。それはこの島に物心つく前につれてこられた子供が、今や30、40代になっていっているから。何も知らされないまま世代が進み、どんどんとその実情を知っているものが減っていている。あと数世代も経てば、完全に外の世界を知らない者たちで構成された世界の実現されるであろう。それはまさに、何も知らない『無垢な花』たちの楽園となるだ。
でもそれは無垢な花たちにとっての話。知っている者からすれば、ひどく滑稽で恐ろしいものなのだ。
実際、外から来た者がこの世界の実情を知り、怯えてこの島から逃げ出して行ったことは何度もある。
でも私はこんな世界でも、根底にある『同性愛者たちのための島』という観点から見れば、楽園だと思っている。ここは蝶が羽を休めるのにはちょうどいい島なのだ。天敵もおらず、ゆったりと平和ボケしながらこの世界で命尽きるまで生きていくことができる。そんな世界、いくら探したってそう見つかるものではないだろう。
だから私、『月見里静香』はこの島の実情を知りながらも、この島で教師として生活を送っている。
ただ、ホントのことを言うならば、少し後悔している部分もある。
せめてでもこの世界の実情を知らないで暮らしたかった。そんなドス黒い闇の部分を見た後だと、教師という立場もあって純粋無垢な生徒たちを見ていると、心が痛んでしょうがない。それと同時に、何も知らないことがもの凄く羨ましい。
この島の名の通り、無垢な花になって何も考えず、ゆらゆらと風に揺られながら穏やかな時を過ごしたかった。でもそんなわがままを言ったところで、何が変わるわけでもない。時間というものは誰も待たずに、好き勝手に流れていってしまう。
今日もまた私はこの世界で生きていく。純粋ではない島民として――




