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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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16話「私の好きな人は……」

 その日の夕方のこと。私は夕食の準備をしながら、かなでに言われた『告白』のことを考えていた。

 仮に事情を話したとしても、はたして告白までするべきなのだろうか。今私は運命の分かれ道に立っている。勇気を出して踏み出すべきなのか、それとも守りに入って踏みとどまるべきなのか。

 私の気持ちは揺れ動いていた。奏にああ言われたものの、やはり少し不安だった。踏み出した時のことを考ると、不安がどんどん増して告白するのを躊躇ためらってしまう。もしそれでひなとの関係が崩壊することがあるのなら、私はいつまでも親友関係のままでいい。告白をして、その関係が崩れる可能性が全くないという保証はどこにもないのだから。それならば、何も危険な橋を渡るより、安全な橋を渡ったほうがいいではないか。そもそも私の言い分を聞き入れてくれるか、それを信じてくれるかなど色々と問題はあるが、やはりここは事情を話すだけにした方がいいような気がする。

 そんなことを考えている内に刻々と時間は過ぎていき、ひながいよいよ帰ってきた。いよいよ運命の時が訪れる――


「あ、ひなあのね――」

「あ、愛実つぐみあのね――」


 帰ってきたひなと目が合うやいなや、私たちは同じタイミングで言葉を口にする。


「……あっ、ひなからどうぞ」


 それに完全にひるんでしまい、私は咄嗟とっさに手を出してひなへと主導権を譲ってしまう。


「うん、あのね……ヒドイこと言ってごめんなさい!」


 譲られたひなはいきなり深々と頭を下げ、私にそう謝罪する。


「えっ!?」


 むしろ悪いことをしたのは私のほうなのに、ひなに謝られるという事実に驚きを隠せないでいる私。

 はたして、この短い期間で彼女にどんな心境の変化があったのだろうか。


「あの時はカッとなってあんなこと言っちゃったけど、愛実は優しい性格だから、ホントは私のこと気にして言いづらかったんだよね? 実は愛実も先輩のこと好きだったんでしょ?」


 ひなは頭を冷やした結果、明後日の方向に勘違いしてしまったようだ。

 これはいけない。下手すれば余計に話をこじらせることになるかもしれない。


「え? いや、ちがっ――」


「だから私、あれから冷静になって考えてたの。先輩は私のことなんて眼中にないんだから、私の恋は絶対実らない。だったらむしろ全力で恋路を応援してあげるのが友達としての役目だと思うの! だから私、先輩のこと諦めて2人の応援をする! がんばってね!」


 私が否定しようとする前に、ひなは長々と言いたいことを私に告げる。

 ホントにこの性格はちょっと直した方がいいのかも知れない、そう思う瞬間だった。


「いや、ちょっと待って! 違うの、ひなは勘違いしてるの! 私の話を聞いて?」


 私はひなの肩を持って、しっかりとひなの目を見てそう訂正する。


「え?」


 それに対してひなは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、私を見つめていた。


「こういうこと言うのは失礼かもしれないけど、私は先輩のことは別に好きじゃないの。あれはね、先輩が私に告白してきて、それで『付き合わなくてもいいから、疑似デートみたいなことをしてくれ』って言われて……」


 想定していたのとは違うことになったが、結果的に事情を説明することができた。私は今までの先輩との全てをひなに吐き出す。一切、隠し事なしで。


「でもそれを受け入れったってことは、先輩のことが好きってことじゃないの?」


「だから違うの! ホントは私は――!」


「わ、私は……」


 否定した勢いで思わず自分の気持ちが言葉に出そうだったが、寸前のところで口が止まってしまう。気づけば恐怖心かもしくは緊張からなのか、私の手や足は制御できないほどに震え始めている。


「私は?」


 ひながその先の答えを知りたそうに見つめている。その純粋無垢な眼差しが今の私には眩しい。

 ――言うべきなのか、言わざるべきなのか。それすらも判断できないほどに、私の頭は真っ白になっていた。心臓の鼓動が高鳴る、手や足がさらに震える。それらに押し潰されて、負けてしまいそうになったその時だった――



『踏み出す勇気、それが大切だよ』



 遠くで奏の声が聞こえたような気がした。それに背中を押され、私にもいよいよ決心がつく。

 私はひとまず震える手を必死で抑え、大きく深呼吸をする。


「――ひなのことが……好きなの」


 ついに私の想いを彼女に告げてしまった。

 これがもしかしたら悪い方向へ進むかもしれない。でも不思議と肩の荷が下りたような、そんな感覚になる。

 ありがとう、奏。あなたの応援が私の勇気になったよ。


「え? えええええええ――――!?」


 ひなはタコのように徐々に顔が赤くなっていき、終いには耳まで赤くなって、目を見開き、口を大きく開けて驚愕していた。


「ごめんね……私ひなの気持ち知ってるのに……こんなこと言ちゃって。混乱しちゃうよね」


「ううん、こっちこそ気づいてあげられなくてごめん! 私ってほんとバカだね……一番の親友の気持ちにも気づいてあげられないなんて」


 未だ驚きを隠せない様子のひなはそんな風に謝ってくる。


「ううん、そんなことない。長い付き合いでも、全てを知ってるわけじゃないし」


「でね、ひな。私はこのままの状態は嫌なの。だって、ひなは私にとってとても大切な存在で、決して失いたくない存在だから。だから私、先輩にもうやめるように言ってくる」


 告白して踏ん切りがついた。もう終わらせよう、最初っからこうすればよかったんだ。

 あの時、先輩に告白された時の私は優しさでそれを受け入れたんじゃない。私の中の、臆病な心がそれを受け入れてしまったのだ。先輩を悲しませることに怯えて、それが巡り巡ってひなをも傷つけることを恐れて。それが妨げとなって、結果的に悲しませなくていい人まで悲しませてしまった。


「別に私に気を遣わなくていいんだよ?」


「ひなはそんなこと言ってても、本心では今でも私に嫉妬しているでしょ? それに好きでもない人と恋人まがいなことをするのは、いつまでも続けてていいものじゃないから」


 友達と恋人の境目。先輩はそれが分からなくなっていた。そんな状態で関係を続けていたら、当然ひなは気分がいいものじゃない。それに本当に先輩が勘違いして信じ込んでしまったら、もう手遅れ。だからそれを今ハッキリと区別しなきゃ。


「わかった、愛実がそこまで言うなら私は何も言わないよ。でも大丈夫? ちゃんと面と向かって言える?」


「うん、大丈夫だよ」


 今度はもう大丈夫。奏に勇気をもらったから。それに、ひなとまた親友になりたいから、私は頑張れる。

 心の中で決意を固めていると、ふと場の空気を壊すようにどこからかお腹の虫のが聞こえてくる。たぶん、宿主はひなだろう。

 安心してお腹が空いたのかな。ひなったらかわいい。


「……ふふ、ふふふふ」


 私は糸がプツンと切れたように、笑みが溢れだし大笑いしてしまう。


「ああっ! 笑わないでよぉー! 安心したらお腹すいちゃった、ご飯作って!」


 ひなはちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめながらそう言った。


「はいはい、今から用意するから少し待ってて」


 よかった。ひなはいつものひなに戻った。勇気を踏み出したおかげで、誤解を解くことができ、さらには想いまで告げることができた。

 本当に奏には感謝しかない。これで私も先輩を振ることができる決意が固まった。ひなのためにも、私のためにも、先輩のためにも全てを終わらせよう。そう思いながら、私はキッチンへと向かった。

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