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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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15話「状況を打開する方法」

 それからというものの、ひなとなんとなく気まずい空気が流れていた。でも一夜でひなに何かしらの心境の変化があったようで、


「朝食、作ったけど……食べる?」


「うん、ありがとう……」


 いつもの笑顔等はないものの、こんな感じで普通の会話はしてくれるようになった。でも、相変わらずそれは最低限度のそれだけ。日常会話はもちろん、先輩のことも、私のことも話してこようとはしなかった。まだどうやらご機嫌斜めなようだけれど、これは確実な一歩前進だ。

 でも、これでもまだルームメイトとして共同生活するにはちょっとやりにくい。それにちょっと前まで普通に会話していた仲の2人がこんな状態なのだから。

 だから私は人に頼ることにした。ひな以外で真っ先に頼れる存在で、事情も話しやす人、かなでだ。1人で考えていたって結論が出るものでもない。案外、人に頼ってみればいい策が出てくるかもしれないし。


「――ねえ、ちょっといい?」


 お昼休み。私は早速、奏の席へと向かい、話しかける。


「ん? どうしたの?」


「ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど、いい?」


「あ、昨日のこと? 話す気になった?」


 その言葉ですぐに奏は察してくれたようで、そんなことを言ってくる。

 私は奏の前の席に座って、いよいよ相談する覚悟を決める。


「うん、実はさ――」


 先輩に告白されたこと、そしてその答えを保留にされたこと。それにともなう私たちの3人の関係。それから『恋人ごっこ』を始めてしまい、それがバレてしまったこと。今までのことを洗いざらい全てを奏に伝えた。


「それは大変だねぇー……愛実つぐみは一番辛い位置だし」


「そうなの……で、どうすればいいと思う?」


「んー……まずさ、愛実はこの問題を誰も悲しませずに解決したいんだよね?」


 奏は私の質問に少し考えた後、そんな質問を返してくる。私はそれに強くうなずく。

 ひなはもちろん、先輩の悲しい顔だって見たくはない。それを見てしまうと、私も同じように悲しい気持ちになってしまうというのもあるし、何より申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうから。


「でもこの問題って、たぶん誰かを犠牲にしなきゃ解決できないと思うんだよね。それにさ、もうひなたが悲しんでるじゃん」


「た、たしかにそうなんだけどさー……でも1人悲しませてしまったから、じゃあもう後はどうなってもいいやっていうのは間違ってると思う。私はやっぱなるべく最小限に留めたい」


 この問題を解決するために、人を傷つけて良いのかと言われると、また違うような気もする。私はできるだけ傷つけたくはない。ひなのあの顔を見てそれを思い知らされた。だからこれ以上の犠牲は増やしたくはない。


「ホント愛実って優しいよねーでもさ、今回はその優しさがあだになってるよ。じゃあさ、訊くけど仮に犠牲にするなら先輩とひなたどっちがいい?」


「そんなの、どっちもヤダよ」


「絶対にどちらかを選ばなきゃいけないような状況になったら?」


 その問いに目をつぶり、2人を天秤にかける。

 どうしても、否が応でもどちらかを犠牲にしなければならない時、私ならどちらを選ぶ?


「……先輩」


 そんなの決まりきっていた。

 私はもう既に一度ひなが傷つくところを見ているが、それを抜きにしたって選ぶのは先輩だった。だってそうだろう。自分の、この世の中で一番好きな人を犠牲にしていいはずがない。その人を差し置いて、なんでもない先輩を救ったって、言い方は悪いけど意味がない。


「でしょ? 愛実の一番に想っている人はひなた。なら、もう答えは1つ。先輩にそういうことやめてもらうように言えばいいんだよ」


「そんなの……できないよ」


 先輩に、しかも私から言いに行くなんて出来る気がしない。

 悲しませたらとか、怒られたらとか、これから気まずくなったらとか、そんな色々な思いがそれをはばむ。


「踏み出す勇気、それが大切だよ」


「踏み出す勇気……?」


「うん、誰かを犠牲にする勇気」


「勇気、か……」


 たしかに今もっとも私に必要なものかもしれない。

 勇気がないから先輩の誘いを断れなかったわけで。勇気がないからここまで悪化してしまったわけで。


「うん、愛実が踏み出せれば悲しみは増えるだろうけど、たぶん確実にこの問題は解決できると思うよ」



『踏み出せれば』



それが簡単なようでとても難しいこと。

 きっとそうなれば奏の言う通り、この問題は解決することだろう。でもその勇気が私にはない。だって、今からもう怖くてしょうがない。その事を考えただけで、足が震えてしまう。はたしてこんな私に、踏み出すことはできるのだろうか。


「ねぇ、もう1つ訊きたいことがあるんだけど、ひなたって愛実がひなたを好きってこと知らないんだよね?」


 そんなことを考えていると、奏が続けてそう質問してくる。


「うん、たぶんそうだと思う」


 今までの感じから考察するに、気づいていないだろう。それにもし気づいていたならば、あんな勘違いはするはずがないもの。


「だったらお節介かもしれないけどさ、愛実から告白する勇気も必要なんじゃない?」


 奏はそんな衝撃的な発言をサラッとする。


「えっ!? こ、ここ、告白!?」


 その衝撃発言に思わず戸惑い、あたふたしてしまう。さらにその告白の状況を思い浮かべてしまい、1人で恥ずかしくなってしまう。


「好きなんでしょ?」


「ま、まあそうなんだけど……」


 自分から告白なんて考えてもみなかった。

 それはもちろん、ひなが先輩のことを好きだからというのもあるけれど、ひなに『気づいてもらう』ことばかり考えていた。

 でも先輩がしたように、自分の想いをちゃんと相手に伝えるのは大事だなって思う。こんなにも一緒にいるひなですら、私の想いに気づかないんだから。想いは伝えなきゃ分からない。


「だったら告白しよう!」


「で、でもひなたは先輩のことが好きなんだよ? 告白しても意味ないよね?」


 でも現状では想いを伝えても、どうにもならない。だってひなは先輩に想いを寄せている。だから私の想いはどうやったって届きはしないのだ。それに何の意味があるのだろうか。


「意味はあると私は思うよ。たしかに『付き合う』っていう目的は果たせないけどさ、これで誤解も解けてこの問題もより一層解決へ向かうでしょ?」


「でも、ひなを巻き込むのは……」


 ひなにこの想いを伝えて、私と同じように悩ませてしまうのは心苦しい。


「だからそれがダメなんだって。巻き込むじゃないんだよ、ひなたに頼るんだよ。愛実とひなたは友達なんでしょ? 困ってる時は力になるのが友達だよ」


「ろくに会話も出来ない状況なのに、告白なんてできる?」


「無視されたって構わずに話し続ければいいじゃん。部屋に2人きりなら、嫌でも話を聞かざるを得ないんだから。で、その時にまとめて告白しちゃえばいいんだよ。『好きなのは先輩じゃなくて、ひなたなんだよ』みたいに」


「……私にできるかな?」


「『できるかな?』じゃないよやるんだよ! もうそれしか道はないんだから。がんばって、応援してるから!」


 なぜか流れで私は告白することとなってしまった。

 それが本当に正しい選択なのかはさておき、『無視されても話し続ける』というのはいい案かもしれない。これは誤解を解くのに使えるかもしれない。部屋の中では最悪、出口を抑えてしまえば逃げることすらできないのだから。後はそれを信じてくれるかどうか。意外とこうやってひなに積極的に当たっていったほうがいいのかもしれない。

 今みたいに臆病になって何もしなければ、ずっとこのまま何も変わらないだけ。ならば多少の痛みを伴ってでも、悲しませてでも解決するべきだろう。

 そうしなければ本当の『悲しみ』が待っているのだから――

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