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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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14話「その後のふたり」

 その日の夜のこと。私にはさらなる地獄が待っていた。それは関係が崩壊してしまった後もなお、ひなと共に生活を送らなければならないということ。

 帰ると、ひなは既に帰ってきており、そのまま部屋へ入ると、ひなは布団にくるまっていた。明らかに話しかけられるような様子ではなく、そんな状態のひなを他所よそに何かする気も起きずに、私はつい静かにしてしまう。

 なので部屋には2人いるというのにも関わらず、沈黙の状態が続く、そんなおかしな空間になっていた。


「よしっ」


 私は自分の頬を軽く叩き、気合を入れ直し、キッチンへと向かう。

 やることがないのならば、もうお夕飯の支度を始めてしまおう。それで少しは私の気もまぎれるかもしれないし。それに、ひながこんな感じでねてしまうことは前にもあった。だから割と私には対処法というか、勝手は分かっているつもり。なので私は特にひなには触れず、ずっと夕食作りに励んでいた。


「――ひな、お夕飯作っておいたから、お腹がすいたら食べてね」


 夕食も作り終え、少し早いかもしれないが夕食にすることにした。

 私は食事をいつものようにリビングへと運び、それでも動く気配のないひなにそう告げる。それに対してひなの反応はなし。この程度のことは分かっていた。だから、私は返答はなくともそのまま会話を終えて、自分の夕食を食べ始める。

 目の前にひながいるのにも関わらず、1人で食べるというこの不思議な感覚にさいなまれながらも、それと同時にやはり寂しさも感じてしまう。いつもならひなが元気そうな笑顔でお喋りでもしながら、テレビをつけて番組でも見ながら食べている。だが、今はそれが一切ない。ひなに悪いと思って、テレビもつけていない。音は私の食事の音だけ。この空間が私にとっては本当に苦しくて仕方がなかった。

 でも、これは私が招いたこと。私の誤ちから起こってしまったこと。いわば、今私はその罰を受けているのだ。だから私はこの寂しい空間を受け入れながら、食事を済ませた。


「――じゃあ、ひな、私少し出るね。点呼までには戻ってくるから」


 それから食器洗いも終わり、私の食事も終わってしまった。

 結局、ひなはその間もずっと状態は変わらずだった。寝息がしないところをみると、おそらく眠ってはいないようだ。

 私はこの気まずさから抜け出すため、そしてあの人たちにすがるために、ひなにそう告げ部屋を後にする。

 もう私の心はボロボロだ。誰かに救ってもらわないと死んでしまう。だからそのためにも、私は彼女たちのもとへと向かった。





◇◆◇◆◇






 その目的の部屋へとたどり着き、すぐさま私はインターホンを押す。


「あれ、愛実つぐみ? どうしたの?」


 すると数秒して、かなでが姿を現す。全く事情を知らない彼女は、何の気無しにそう訊いてくる。


「……点呼までここにいさせて」


 そう言う私の声は震えていた。

 奏にあった安心感か、込み上げてくるものがまた溢れてきたのか、いずれにせよ私にはもう限界がきていた。


「ん? い、いいけど……?」


 何の事情も知らない奏はそんな私に、怪訝けげんそう表情を浮かべながら、私を迎え入れてくれた。


「かなでぇ!」


 玄関から靴を脱いで、部屋に入った瞬間、私は衝動的に奏でに抱きついていた。

 それを合図にして、私の目頭からかは悲しい想いが溢れ出していく。

 あの放課後のひなの表情、言葉が甦ってくる。その悲しい気持ちが涙へと変わっていく。もう私のダムは決壊していた、どうにも止まらない。


「うぇ!? ちょっ、愛実……? ど、どうしたの!?」


 そんな突然の私の行動に、驚き、戸惑う奏。だが、すぐに私の思いが伝わったのか、何も言わずに私を抱きしめ返してくれる。そしてまるでお母さんのように、優しい手つきで私の頭を撫でてくれる。それで私の心の傷が、少しずつ少しずつ癒やされていくのがわかった。


「……落ち着いた?」


 しばらくそんな状態が続き、ようやく涙が収まった頃、優しい声をして奏がそう訊いてきてくれる。


「うん、ごめんね」


「愛実、大丈夫?」


 部屋にいたさくらも心配そうにこちらへ近寄ってそう訊いてくる。


「さくらも、ありがとう」


「でも、ホントどうしたの? 何かあった、てかあったよね?」


 いきなり友達の部屋へと来て泣きつけば、何かあったと思うのは当然のこと。友達ならばそれが心配になって、何かできることはないかと手を差し伸べてくれるもの。


「……ごめん、こんなことしておいて言うのもアレなんだけど、話す気分にはなれない。どちらかと言えば、今はそれを忘れたいかな」


 でも、私はその手を掴むことはできなかった。もう私は疲れた。だからこれ以上それについて考えるのは苦でしかない。

 一旦それを、せめてでもここでは全て忘れたい。

 この時間が終われば、ちゃんと向き合うから、ちょっとぐらい、いいでしょ?


「そっか。ムリには訊かないよ。よしっ! じゃあ何かして遊ぼっか!」


 奏は私のお願いを快く聞いてくれ、笑顔でそう提案する。その心遣いが今の私には何より嬉しいものだった。すごく助かる。


「うん、だね!」


 それからさくらと奏の3人で、遊ぶこととなった。

 その瞬間だけは、私は全てのしがらみを忘れて、純粋に楽しむことができた。点呼までの、わずかな時間ではあったが、心の傷が癒えたようにも思える。やはり持つべきは友、と言ったところだろうか。そんな友への感謝しながらも、私は再び自分の部屋へと戻った。



 意外、というか予想どおりというか、ひなは私の作っていた夕食を完食し、その食器もちゃんと洗ってある状態になっていた。ただ、顔を合わせたくはないのか、相変わらず布団にくるまったままだった。

 それは仕方がないことと受け止め、私はそんなひなに特に話しかけることもなく、まるで1人暮らしの人みたく生活を送っていた。

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