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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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13話「暴かれる事実」

 先輩とのデートから数日経ったある日のこと。いつも通りのお昼休み、私はいつものようにお昼を食べていた。

 しかし、今日はかなでは委員会の仕事の関係で、早めに済ませ既にここにはいない。さくらも恋人のあかねちゃんと2人きりで昼食。そして一番重要なひなは4限が終わるとともに、おそらく彼女の部活の知り合いの生徒に呼ばれ、今はいなかった。なので、私は1人寂しく昼食を食べていた。

 そしてしばらく経つと、ようやくひなが帰ってきたのだが……


「ねえ、愛実つぐみ。ちょっといい?」


 その様子がどうもおかしい。その口調は真剣そのもので、眼差しも明らかに真面目な話がある時のそれだった。ひなの感じから、私はもう既にひなの用件を察してしまった。

 部活の友達からの呼び出し、その後に私への用。そうなれば、もう先輩と私のことだろう。いよいよ気づかれてしまったのだ。私が先輩と怪しい関係になっていることに。この雰囲気はまさに怒りに燃えている。


「うん、何?」


 私は心の中で焦りながらも、それを外に出すまいと必死で平静へいせいを装った。


「ちょっと話があるの、屋上に来て」


「……わかった」


 もう私は頭の中は真っ白になっていた。どうしていいかわからなかった。正直このまま逃げ出そうかと思ったくらいだ。

 でもそんなことしても意味はなく、結局寮で会えてしまう。この時ほどひなたとルームメイトになったことを後悔したことはないだろう。

 私は嫌々ながらも、ひなと共に屋上へと向かった。


「――先輩と付き合ってるってホント?」


 屋上に着くと、私たちは自然とそこにあるベンチに座った。

 だがひなはすぐには話そうとはせず、しばらく無言が続いた後、ようやくひなが重い口を開けそういった。その声は明らかに敵意のある声色だった。


「ひな、違うの! これには――」


 私の予想通り、ひなは私と先輩の関係を誤解していた。それを解くために、私も必死になってそれを否定する。


「でも! この前の日曜日に先輩とデートしてたんでしょ!?」


 だがひなは私の言葉を遮り、私に怒りをぶつける。

 マズイ。ひなは確実に熱くなって、人の話を聞かない状態になっている。自分で勝手に思い込んだことを真実だと勘違いして、余計に話がこじれてしまう。


「ち、違うの! これには理由わけがあるの、私の話を聞いて!」


 痛いところをつかれ、後がなくなってしまう私。だって、そのデートしていた事実は真実であるから。

 何を言っても今のひなにはムダだと思いつつも、わずかな希望に賭けて諦めずに弁明する。


「言い訳なんて聞きたくない! 私の気持ち知ってるくせに、なんで愛実は先輩とデートしてるの? 私の気持ち踏みにじって楽しんでるんでしょ!? 愛実のバカ! 大っ嫌い!」


 ひなは私の言い分を耳にも入れずに、まるで火山が噴火したかのように言いたいことだけを言い放ち、その場を立ち去ろうとする。


「待って、ひなッ! 聞いてッ!」


 私は大きな声で彼女の名前を叫び、話を聞いてもらえるように引き止める。けれど、もう彼女の心は固く、私を無視して去っていってしまった。

 ひなは完全に私のことを勘違いしている。それを信じ込んでしまっている。だから私はとても焦っていた。

 だってこのままいけば、私たちの関係は終わり。なんとか誤解を解こうとしても、今みたいに聞き入れてもらえないオチだろう。 


「はぁ……」


 その立ち去った扉を見つめながら、私はその場に崩れ落ちる。

 先輩のご機嫌ばかり気にしていて、私は一番大事なものを見落としていたようだ。私にとって、何よりも大切なものは『ひな』だ。その彼女を傷つけてはいけないはずなのに、私はないがしろにしていた。結局、『バレなければいい』と浅はかな考え方をしていた。今、私は過去の自分が憎くてしょうがなかった。それと同時に、罪悪感も湧いて出る。

 私、サイテーだ。もはや私にはひなを好きでいる資格すらないのかもしれない。


「ひなぁ……ひなぁ……」


 1人となってしまった屋上で、私は弱々しく一番大好きな人の名前を呟く。それと同時に、目頭から大粒の涙が溢れ、それが頬を伝う。ひなを失った悲しみ、ひなに怒られた悲しみ、こんな結末になってしまった悔しさ。色々な思いが混じり合って出たその涙。溢れて溢れて仕方がなかった。

 でも、仮に私に好きでいる資格がないとしても、最低限、このまま誤解されたままひなと関係が終わるなんて絶対にイヤ。私はひなの隣に、たとえ友達程度の関係だとしても、そこにいたい。いていい存在でありたい。だから今はひなの誤解を解く必要がある。だけれど、ひなはあの性格。熱くなればとにかく人の話を聞かない。だから今言いに行ったところで、私言葉なんて彼女の耳には届かない。


 じゃあ、どうすればいい? この最悪な状況を打破する方法は?

 ――私にはその答えが浮かばなかった。


「戻ろう」


 しばらく泣いて涙が枯れた頃、そんな独り言を呟き、屋上を後にする。

 とにもかくにも今私にできることは何もない。逆に何かすれば、余計にひなを誤解させてしまうだけ。ならば、今はこうなってしまったことを受け入れ、何もしないでおこうと思う。そしてひながある程度クールダウンしたところで、今度こそ私の言い分を聞いてもらうことにした。これでうまくいくかはわからない。でも私なりに頑張ってみようと思う。私とひなの関係がこのまま、悲しい終わり方をさせないためにも――

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