表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
80/117

12話「再認識」

 部屋に帰ってくると、まずひなの靴が目に入った。つまり、ひなは私たちの部屋にいるということだ。

 だが、私たち以外の靴は他にはなく、ひな1人だということがわかる。この時間だったら、かなでたちにご馳走なっているところだと思っていたのに。だとすると、もう食べてしまったのだろうか。そんな疑問を抱きながら、私はリビングへと入っていく。


「あっ、おかえりー! 待ってたよー」


 ひなはどうやら漫画を読んでいたようで、ドアの音で気づいたのか、こちらへ振り返り、気になる言葉を口にする。


「うん、ただいま。『待ってた』って?」


「いや、やっぱりひなの料理が食べたくて、さ。待ってたんだ」


 ちょっと照れくさそうに頬を指で掻きながら、そんな嬉しいことを言ってくれるひな。


「ひな……」


「わわっ!? ど、どうしたの、急に!?」


 その言葉があまりにも嬉しすぎて、ひなに抱きついてしまう。

 普段ならなんてことのないセリフも、今の私にはとても心に響いてしまう。

 そんな私に、驚きつつも戸惑いをみせるひな。あたふたして、手をどうしていいかわからなくなってる。


「……ねえ、しばらくこのままでいい……?」


 嬉しくて嬉しくて、思わず涙が零れ落ちそうになっていた。でも、私はそれを必死で堪える。

 だってここで泣いてしまったら、きっとひなは心配するだろうから。もうどうにも誤魔化しきれなくなってしまうだろうから。ひなには心配をかけたくない。


「う、うん……いいけど……大丈夫?」


 大丈夫か大丈夫ではないかといえば後者の方だ。もうどうにも後戻り出来なくなっている。

 先輩は勘違いしてしまうし、もはや状況はより悪くなっている。ホント、今すぐにでもこの状況から逃げ出してしまいたい。全てを投げ出してしまいたい。でもそれが出来たら苦労はしないわけで、現実は否が応でも進んでいく。


「今は……何も訊かないで……このままいさせて……」


 だから今日はひなにとことん甘えることにした。

 ひなのぬくもりを感じて、この疲れきった心を癒やすことにした。ひなもひなでこの事について何も言わず、訊かず。それに加えて、なんとひなは優しく頭を撫で始めてくれる。またそれで心がじわーっと温かくなっていく。もう涙腺が崩壊しそうなほど、私は弱っていた。

 でも、それを必死で抑え、ひなのぬくもりに安らぎを求めていく。それから2人はしばらくそのまま抱き合った状態で、静かに時が流れていくのを感じていた。


「――よしっ、今日は腕をふるっちゃおうかな! ひなの好きな料理作るよ!」


 私も立ち直ったところで、私は腕まくりをしながらそんな事を言ってみる。

 せっかくひなは私の料理のために待っていてくれたのだから、今日は大盤振る舞いしようではないか。癒やしてもらった、というお礼もあるのだから。


「やったぁー!」


 それに、本当に子供のように無邪気にはしゃいでいるひな。

 私はそのかわいいひなにほっこりとしながら、キッチンへと向かった。

 どうやら私のいらぬ心配は徒労に終わったようだ。私はひなが好きだ。自信を持って、胸を張ってそう言える。今ので、それをこれでもかというほど思い知らされた。

 だから私は先輩は恋愛対象ではない。ただの先輩、よりは今は『友達』の関係。私があの時間を楽しめたのも、『友達との時間』だから楽しめたということだっただけなのだ。

 後は先輩だけ、その先輩が勘違いをし始めているということ。手遅れになる前に、なんとかしければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ