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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第1章『あやえり』
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7話「模索」

 亜弥あやちゃんの告白から2日経った朝。私はいつものように支度をして、いつものように寮の外で待っているみんなの元へと向かう。けど、そこにはいつもとは違う光景があった。


「あれ、1人? 亜美あみちゃんは?」


 まりちゃん以外、誰もいなかったのだ。ルームメイトの亜美ちゃんですらいない事態に、少し心配になる。


「寝坊。あの子いつまで経っても起きないから、置いてきちゃった」


「置いてきちゃった、って……いいの、そんなことして?」


 今の時間でまだ寝ているということは、確実に遅刻確定だ。そうなったら絶対に「なんで起こしてくれなかったんだー」って怒るだろうに。


「あーいいのいいの、これに懲りてちょっとは反省すればいいのよ。全く、毎朝起こす身にもなれってのよ……ってこんな愚痴を襟香えりかちゃんに言ってもしょうがないか」


 よっぽど苦労させられているのだろう、それが容易にわかる表情で、私に愚痴を吐くまりちゃん。私もたまに亜弥あやちゃんでそういうことがあるから、まりちゃんの気持ちがよく分かる。


「いや、別にいいけど……じゃあ由乃よしのちゃんたちは?」


 亜美ちゃんが寝坊でいないというのはなんとなくわかるけれど、櫻井さくらい姉妹が2人ともに寝坊というのは考えられない。まさか待ち合わせに遅れるなんてありえないだろうし。


「なんか2人も用事があるみたいで、今日は遅れるんだって。……てか、襟香ちゃんも1人だよね?亜弥ちゃんは?」


「ああ、今日は日直だから先に行ちゃった」


「ふーん、じゃあ今日はどうやら2人だけみたいだね」


「ですね。なんか珍しいね、この組み合わせって」


「そうだねー、いつもは亜美か亜弥ちゃんが絶対いるから、2人きりになることってなかなかないしねー」


「うん、そうだねー」


「じゃあとりあえず面子も揃ったことだし、学校行こっか」


 まりちゃんの言葉とともに私たちは寮を後にし、学校へと歩を進めた。


「――ねえ、まりちゃん」


 それから少しして、歩きながら私はふとまりちゃんの名前を呼ぶ。


「ん、何?」


「まりちゃんって好きな人とかいる?」


 朝から恋バナというのもいかがなものかと思ったけど、早速まりちゃんに例のあれを訊くのに丁度いい機会だったので、訊いてみることにした。


「え、何? 急にどうしたの?」


 私の唐突な質問に、照れた表情をしてそう答えるまりちゃん。


「いやね――」


 私は亜弥ちゃんが告白されたことから、今まで思い悩んでいることを簡潔にまりちゃんに説明した。


「ふーん、それで私の意見が聞きたいと」


「そうそう」


「ごめんねー……私、経験ゼロだし、好きな人は……うん、いないから、私のも参考にしかならないと思うけど、いい?」


「うん、それでも大丈夫だから!」


「私が思う『好き』って、たぶん最も心の許すことのできる人じゃないかな?」


「心の許せる人……?」


「そう、好きになった人は最終的に結婚するわけでしょ? つまり、それから誰よりも長い時間を共にするわけ。だからその人のいいところも悪いところも受け入れられるってことが大事なんじゃないかな? もちろん、悪いところってのは度合いにもよるだろうけどね」


「そっか、受け入れられなければ、うまくやっていけないもんね」


 結構まりちゃんの考え方はとても現実的なものだった。性格の不一致で離婚って言うのはよく聞くし、なによりその人に心を許せないのは、それは一緒にいるだけでストレス……とまではいかないかもだけど、居心地のいい場所ではないだろう。


「うん、一緒にいて気兼ねなくいられるってことが大事だと思うんだ。襟香ちゃんとしてはどうなの? 亜弥ちゃんと気兼ねなくいられる?」


「んー……そうだねー確かに気兼ねなくいられるけど……」


「けど?」


「けど、それって別に亜弥ちゃんだけに限ったことじゃなくて、まりちゃんや由乃よしのちゃんたちにもそう感じられるんだよねーだから何ていうか、所詮その同じライン上に立っているだけな感じがして」


 亜弥ちゃんとも仲良しだけど、それと同じぐらい由乃よしのちゃんたちやまりちゃんたちとも仲が良い。良いからこそ、そこの違いが私にはよく分からない。これは、元々私がこの島の出身じゃないところもあるのかも。あくまでも今までは同じ横並びの友達としか、亜弥ちゃんのことを思っていなかったわけだから。


「んーそっかー……あっ、じゃあさ、亜弥ちゃんと私たちを比較してさ、亜弥ちゃんだけにならできることってない?」


「どゆこと?」


「たぶん、好きな人なら超えられる一線ってのがあると思うんだ。そういうのってない?私たちにはちょっとムリだけど、亜弥ちゃんになら……って思えるものってない?」


「うん……確かにあるかもしれない」


 共同生活していることもあって、色々な学園で生活するだけでは見せない部分も亜弥ちゃんには見せてきている。これを、まりちゃんたちに見せられるかと言えば、見せられない。具体的には思いつかないけど、たぶんきっと亜弥ちゃんにだけならできることもあるような気がする。


「それだよ! それが亜弥ちゃんは『特別』っていう証だよ! やっぱり、好きなんじゃない、亜弥ちゃんのことが!」


「んー……」


「あれ? 納得できず?」


「うん、何ていうんだろう……そう言われて、頭ではわかってるつもりなんだけど、やっぱりどうも心がスッキリしないみたいな感じで……」


 昨日の夜と同じだ。状況からみて、そうだと頭では理解しても、心が納得のいっていない感じがする。言ってしまえば状況証拠は揃っているけれど、物的証拠は未だに見つからない状態みたいな、決め手に欠けているという感じなのだろうか。


「んー……だったらもうキスでもしちゃえばいいんじゃない? そうすれば好きだって気持ちがわかるでしょ?」


「き、きき、キス!? だ、だ、だだだ、ダメだよ!?」


 その言葉に、私は軽いパニック状態におちいる。キスなんて考えたこともなかった。私が亜弥ちゃんにキス? 考えただけで顔が赤くなる。


「どうして? 好き同士なんだから、別にしても構わないでしょ?」


「だ、だって、したら……そう! 亜弥ちゃんが動転して大変なことになっちゃうもん!」


 私は混乱した頭で必死に言い訳を考え、それで誤魔化す。多分、亜弥ちゃんだけではなく、私も動転して大変なことになると思うけれど。それに動転したせいで、感覚をまともに味わえない……なんてこともありえそうだし、うん、却下。


「えー……それが2人の仲を深めることになっていいと思うんだけどなぁー」


「と、とにかく! そ、それはナシ!」


「はいはい。まあ、私もできるだけ協力するから何かあったらいってね。あ、これ一応亜美にも伝えておいたほうがいいよね? その方が動きやすいだろうし」


「うん、そうだね、ありがと」


 というわけで協力者がこれで2人増えた。これでより一層、動きやすくなりそうだ。口裏をあわせておけば、亜弥ちゃんに怪しまれずに行動できるし。これだけみんなも応援してくれているのだから、私も頑張ろう。頑張ってなんとしてでも『答え』を見つけよう。そう気合を入れ直し、学校へと歩き出す。

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