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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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11話「勘違い」

 映画の内容は『恋愛もの』だった。

 先輩には失礼なことは分かっていはいるが、とてもこの状況下で見れるものではない。正直に言ってチョイスが悪すぎる。

 しかもさらにスゴイことに、その内容も先輩と後輩の恋愛を描くものだった。たぶんここまで来ると、もう先輩はわざと狙ってこの映画を見に来たのだろう。なんだろう、やはり先輩としては私と結ばれたい、という意思表示なのだろうか。

 でも、普通に考えてみればみなそうだ。私だってひなと結ばれたいし、ひなも先輩と結ばれたいはず。だとするならば先輩は今、私の返事を、口にはしないけれど待っているということ。そういえば、あの先輩の告白から色々とあり過ぎて気にしていなかったけれど、私としては先輩のことをどう思っているのだろうか。


「んー……」


 小さく唸りながら頭で色々と思い起こして考えてみるが、やっぱり『ひなが好きな人』という印象しかなかった。

 もちろんルックスはとてもキレイで、ひな以外の子たちからも人気がある。そして性格は優しくて、ちょっぴり行動が可愛いらしい。

 それでも、やっぱり私はひなが好き。ひなに抱いているような感情は、先輩にはない。だとするならば、先輩の告白は報われることはない。しかもそれを返答せずこうした関係を続けているのは、言ってしまえば先輩を私は生き殺しにしているわけだ。

 でも、本当の思いを口にしてしまえば、先輩を傷つけてしまう。それがひなの耳に入ったら、勘違いされるだろう。あの子はそういう子だから。


「あっ……」


 気持ちに考えることに集中しすぎてしまって、映画を見るを忘れてしまっていた。どうやら運悪く、中盤の展開に変化があるところを見逃したようで、話についていけない。

 もちろん映画が終われば、その話題になるのは間違いない。ちゃんとストーリーを追って見ていない私が答えられなければ、見てないのがバレてしまう。私は焦りを感じながらも、それからの展開をちゃんと見て、頭の中でストーリーを整理しながら映画鑑賞をしていた。


「――おもしろかったねー映画」


 映画も終わり、私たちはシネマを後にする。その道中、先輩はとても満足そうな顔で、さっそく映画の話を振ってくる。


「そ、そうですねー」


 ちゃんと見ていないことを悟られないよう、平静をよそおいそう答える。


「ん? あ、もしかして愛実つぐみちゃん、ちゃんと映画見てなかったでしょ?」


 だが、先輩の方が一枚上手だったようで、その見抜かれたくないところを見抜かれてしまった。


「えっ……い、いやいやいや、そんなことないですよ!」


 痛いところをつかれ、必死に誤魔化してみる。もしかするとこの反応でさらに墓穴を掘ることになるかもしれないが、『見てない』とバカ正直に言うわけにもいくまい。


「ふーん、じゃあ、問題です! 先輩はどうして後輩ちゃんのことを好きになったのでしょうか!」


 怪しむような目で、そんなクイズを出してくる先輩。


「ひ、一目惚れ……ですよね?」


 ただ、その内容は終盤に明かされたこと。だから私でも答えられる質問だった。でも自信はないので、そんな様子をうかがうように答える。


「……正解! なーんだ、ちゃんと見てたんだね、ごめんごめん」


 少し間があって、まるでクイズ番組の司会者みたいに正答を告げる。

 よかった。合っていたようだ。先輩は軽く笑いながら、謝罪をする。


「いえ……いいですけど……」


 合っていてホッと安堵している反面、ちょっと恐怖感も味わっていた。

 たぶんさっきの質問はまんま自分、つまりは先輩が私を好きになった理由だと思う。それを好きな後輩に言わせてる先輩って。

 なんだろう、洗脳でもするつもりなんだろうか、この人は。


「夕方まで時間あるし、ウィンドウショッピングでもしよっか?」


 そんな恐怖にさいなまれながら、先輩はあたかも行き当たりばったりで決めたかのように次のプランを提案する。

 きっと先輩のことだから、今日の予定はおそらくもう既に立ててあるのだろう。それを私に確認しているという感じ。


「ええ、いいですよー」


 特に断る理由もないので、私は先輩と共に商店街の方へと行き、そこでぶらぶらとウィンドウショッピングをしていた。

 何やかんやで、意外と私も私でこの状況を楽しんでしまっている自分がいた。もちろん、こうして『友達』として一緒に過ごす時間はたしかに楽しい。

 でも、こんな『曖昧な関係』にしたままでいるのも、なんとなく先輩の思いに回答を出すことから『逃げている』気がしてならない。それに、こうして楽しんでしまっている自分をみて、ふと私は先輩と一緒にいることを、望んでしまっているのではないかという疑問が生まれてくる。それが『友達として』一緒にいることを望んでいる、であってほしいがちょっと自信がない。

 また、そうなってくると今度はいよいよひなに対する自分の想いにも自信が持てなくなってくる。私は本当は先輩のことが好きで、だからこそ今の関係を続けているんじゃないかと思えてくる。

 たしかに、今の私が冷静に考えてみても、先輩にそんな想いはないはず。ただ、本能的に好きになってしまっていて、それに私自身が気付かず、行動してしまっていることもなくはない。

 よく『気づいたら好きになっていた』なんてこともあるぐらいだし。映画によって、ちょっと惑わされているのかもしれないが、今一度、ひなへの想いを再確認したほうがいいのかもしれない。

 そんなことを考えながら、ちょっと先輩とのウィンドウショッピングは上の空で過ごしていた。


「――あぁー! これかわいいー!」


 それからあるアクセサリーショップにて。先輩はペンダントを見るやいなや、テンションを上がり、すぐにその商品に駆け寄る。


「ホントだーかわいいですねー」


 それはハートマークのペンダントで、色合いもとても可愛らしかった。


「ね、ねえ、同じアクセ……買わない?」


 またしても朝の時みたく、そんなカップルみたいな会話を始める先輩。

 どんどんとエスカレートして、言い方が悪いけど『調子に乗っている』先輩だった。


「え、いやー……それはマズイんじゃないですか?」


 『じゃないか』ではなく、マズイ。見つかったらもうどうしようもない。

 それに、『おそろい』というのは先輩的には意味合いが変わってきてしまう。なので、先輩の歯止めが効かなくならないように、しっかり止めておく。


「そうかしら?」


「後、少し恥ずかしいです」


「ふふ、そうかもね」


 それからこんな感じのやり取りが何回か続いていた。

 もう完全に先輩は私たちの関係を『恋人』と勘違いしている。まさかの先輩が最大の敵となるとは思わなかった。先輩が恋人らしくしようとすればするほど、周りに勘違いされる確率が上がってしまう。

 それに対処するのに、私はだいぶ労力を使い果たし、デートが終わる頃にはヘトヘトになっていた。さらに言えば、先輩が何を言い出すかわからない、誰に見つかるかわからない。こんな状況にいる私には胃がキリキリと痛み、さらに疲労の要因となってしまった。

 そんな私はもうボロボロになりながらも、自分の部屋へとたどり着いたのであった。

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