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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
78/117

10話「やってきてしまった今日」

 それから数日経ち、いよいよ休日の朝がやってきた。

 今日は1週間ぶりに先輩とのデートがある。私はもう既に昨日の夜、いやあの約束を交わした日から気が重かった。

 1日、また1日とその当日が迫ってくる焦り、不安といったらなかった。だから私は朝だというのに、かなりテンションが低かった。


「――あれ、今日もまたお出かけ?」


 先週みたく、私が今日行く服を選んでいるところ、ひながこれまた同じような顔をして訊いてくる。


「うん、ちょっとね」


 相変わらずその内容はヒミツ。だからまた怪しまれたり、鋭く推理されてしまうのではないかと、内心ヒヤヒヤしていた。


「ちょっと……ねぇーでも2週連続とは珍しいね」


 やはり、その予想通りにひなは探偵のようにアゴに手を当てて、考えるような仕草をしながらそう言ってくる。


「……まあ、色々あるんだよ」


 ホントに色々と。それはもう、ありすぎて押しつぶされてしまいそうなぐらいに。


「ふうん、じゃあ今日もまた遅くなるんだね」


 ひなはどこか疑うような表情をみせるも、それ以上は言及してはこなかった。

 これもこの間の、ふんわりと伝えた『ひなに訊かれると困ること』の効果だろうか。そうだとしたら、その気遣いは本当にありがたいことこの上ない。


「そうかも。なんだったら、かなでたちの部屋でお夕飯食べてきてもいいから」


「うん、わかった。相談しておく」


 そんな会話をしながら私はようやく服を選び、それから出るまでの間、家事をちょいちょいとやっていた。


「――じゃあ、そろそろ行くね」


 そしてついに時間が迫り、私は重い腰を上げて、玄関へと向かう。


「見送るよ」


 それに、先週と同じように私を見送ってくれるひな。


「そうありがと」


 そんな彼女の優しさを実感しつつ、私たちは玄関へと向かった。


「……ねえ」


 玄関に辿り着くと、ひなは急にうつむき、どこか暗い表情で私を呼ぶ。


「ん?」


「ホント、困ってるんだったら、相談していいからね」


「うん、ありがとう。でも、大丈夫だよ、きっと」


 ひなの優しさが身にしみて伝わってくる。それと同時に、私の胸が締め付けられ、苦しくなる。

 だって私は、言ってしまえばこんなに優しいひなを『騙している』のだから。こんなに悪いことは他にないだろう。


「そっか。わかった。じゃ、いってらっしゃーい」


「はい、いってきまーす」


 外靴を履き、私は部屋の扉を開け、歩き始める。

 気が乗らない。本当のことを言えば、嫌々行っているも同然。

 でももう元に戻ることはできない。過去の私がそう選択した以上、もう仕方のないこと。それに、今回はそうそうにバレる心配はなさそうだ。映画ならば、ずっと座っているだけ。暗いし、誰か認識できはしない。後は出入りや待ち時間だけ気をつければいい。

 なので、とても安心した気持ちで先輩の元へと向かっていた。それから数分ほど歩くと、先輩が時計を気にしながら外で待っているのを見つけた。


「先輩!」


 私は前方の先輩に聞こえるように、大きめな声で呼びかける。


「あ、おはよー愛実つぐみちゃん!」


 それに気づいたようで、先輩は嬉しそうな笑顔で手を振りながら挨拶をする。


「おはようございます。じゃあ、行きましょうか」


「うん……あの、さ……なんだったら、手、繋いでかない?」


 なんて、モジモジとしながらとんでもないお願いをしてくる先輩。

 やはり先輩はこの関係を『恋人』と勘違いしてしまっているのだろうか。友達どうしだったら、そんな手を繋いで歩くなんてことしない。

 でもそうなると、いよいよ私は後に引けない、追い込まれた状況になってしまう。もし、これ以上エスカレートするようなら、やはり多少の痛み覚悟で止めなければならなくなるかもしれない。


「いや、それは……流石さすがに……恥ずかしいです」


 いくら普段断らない私でも、そのお願いだけは拒否する。

 仮にそれをして歩いたら、いざという時に言い訳ができなくなる。


「そっかぁ」


 どこか悲しげな表情をしながら、それでもそれを受け入れて、そのまま歩き始める先輩。

 どうにか分かってくれた先輩に安堵しながら、私もそれに合わせて一緒に歩き始める。

 それから先輩はさっきの悲しげな表情から一変、とても楽しそうな顔で私に話しかけてくる。さっきのを引きづられても今回のこれが楽しくなくなるだけなので、それはよかった。そんなことを思いながら、私たちは映画館へと向かった。

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