9話「ある放課後の時のこと」
放課後。部活を終えた私は校門前で、ひなを待っていた。
2人とも部活をしているので、互いに部活ある日はついで、ようなもので2人で帰ることが多い。部活の終わる時間が重なることも多いから、特に自然とそうなってしまう。
ただ、今日は私の方が先に終わったようだ。ただ、テニス部が活動しているグラウンドのテニスコートからは活動しているような音が聞こえてこない。ということは、部活は終わって部室で着替えている最中なのだろう。なので、もうすぐ終わるだろうと思い、もう少しだけ待った。
「愛実ーおまたせー!」
すると、後ろから聞き慣れた声がこちらへとやってくる。
それに私は振り向くと、そこにはひなともう1人、意外というほどでもないが、予想外の人物がいた。
「あれ、先輩!?」
先輩の姿に私は驚き、それが次第に恐怖へと変わっていく。
「ああ、せっかくっだから途中まで一緒に帰ろうってなってね」
ひなはちょっと嬉しそうにそう事情を話す。
できればそんな『せっかくだから』は遠慮してほしかった。
「そ、そうなんだ……」
「あれ、嫌だった?」
思わずその恐怖が抑えきれず、外に漏れてしまっていたのか、ひなは不安そうにそう訊いてくる。
「ううん、そんなことないよ! ほら、行こっ!」
そう言って、無理矢理な笑顔を作って、先に歩き始める。それに呼応するように、残った2人もついてくる。
失礼であること承知な上だが、気が乗らない3人での帰宅となってしまった。私から言わせてもらえば、胃が痛くてしょうがない。だって、ここでデートの話とか、私にとって不都合な話をされてしまえば、その時点でこの3人の関係は終わってしまうのだから。その引き金は私だと思う。
でも、それがなければもう既に3人の関係は終わっていたかもしれない。それでもこの痛みは辛いものがある。何日も耐えられるような代物じゃない。
「――先輩、今度の大会頑張ってくださいね! 応援しに行きますから!」
ひなはそんな私もつゆ知らず、楽しそうにそんな話を始める。
「ええ、ありがと」
いつもの優しい笑みでそう返事をする先輩。
なんだろう、この状況だからかもしれないが、一つ一つの先輩の発言や表情が気になってしょうがない。何か言ってはいけないことをポロッと言ってしまうのではないか、とハラハラしてしまう。
「そ、そういえば、これが高校最後の大会になるんでしたっけ?」
だから私はこの話を膨らませることで、他の話にならないように試みる。
先輩はもう3年生、つまり受験生なわけだ。それでもこの大会で勝ち進めば、たしか最大8月ぐらいまでテニスを続けることになる。当然、その間にも受験勉強を両立させないといけないわけだ。改めて、大変だなと思う。
「ええ、そうよ。ま、勝てるとは限らないけどね」
「イケますって、先輩なら! なんたってテニス部のエースなんですから!」
「そんなことないわよー、あ、そうだ、愛実ちゃんも応援来てくれる?」
それはもう『私の好きな人が応援に来てくれたら嬉しいなぁ』とでも言いたそうな目をして、こちらを見てくる。
「え、ええ。行きますよ!」
まさかこの話題で私と先輩の話に持っていかれるとは思わなかった。もちろん、ここはひながいるので、普段となんら変わらない対応をする。
「そっか、ありがと」
先より明らかに嬉しそうな表情を浮かべる先輩。それに私はすぐさまひなの様子を窺うが、どうやら先輩の心情まではまだ表情などで読み取れないようだ。なんら疑うことなく、普通にしていた。
私はホッと安堵しながら、先輩とひなと共に、夕陽に照らされた帰り道を歩いていた。
「――今日先輩可愛かったねぇ」
それから先輩と別れ、ようやく2人きりになれて、私たちの寮へと向かうその道中。
ひなは恋する乙女な表情をしながら、遠いところを見ながらそう呟く。
「え、そう?」
私にはいつもとなんら変わらない先輩にしか見えなかった。いつもの先輩の姿が今日も可愛いという意味なら話は別だが、たぶんそういうことを言いたいのではないのだろう。
でも、今日の先輩を思い起こしてみても、特に気になる点は見当たらなかった。
「あれ、気づかなかった? 今日いつもと髪留めが違うんだよ? しかも、分け目も左右逆だったし」
そんな細かいところまで見ているとは、恋の力恐るべし。
私だってそんなひなの細かいところまでは気づけない。そんなに愛されて、やっぱりちょっと先輩に嫉妬してしまう。
「あーそうなんだー」
「うん、それに何か今日先輩嬉しそうだった」
それはたぶん、ひながいたとはいえ、私と共に下校できたからだと思う。
ただ、そんなことは口が裂けても表に出すことはできないので、そっと心のなかにしまっておく。
「……そういえばさ、ひなは告白しようとか思わないの?」
先輩の告白を受けてから、そんなことが気になる私。
思い返してみれば、ひなが先輩を好きになったのは1年生の時のこと。言われてみれば、私がそれに気づいてからひなは自分の想いを先輩に告げようとする様子はなかった。
でも、だからといって何もしなかったわけではなく、アピール……というかさっきみたいに褒めちぎったりするみたいなことはしていた。だから、実際に私の好きな人の、その辺りの考えが気になってくる。
「うぇ!? こ、ここ、告白!?」
この反応からみるに、する気はまったくないようだ。というより、その考え自体まるでなかったようにみえる。
「しないの? 好きなんでしょ?」
これは思いっきり私に刺さっている言葉だった。
私も好きなのに、告白はしない、というよりできないから。わざわざ好きな人に好きな人がいるのにも関わらず、告白する人なんていないだろう。
「んーでもぉー……先輩、今テニスで忙しいし……なんて言うんだろ、『高嶺の花』みたいな感じなんだよね」
ひならしくなく、モジモジとした様子で言い訳がましい理由を述べる。
どちらかと言えば、『憧れの先輩』という面が大きいのだろうか。たしかに、先輩はちょっとどこぞのお嬢様っぽい見た目だし、言動もそんな感じ。
だから、自分がそんな人と同等の立場になるのは恐れ多い、みたいな。
「へぇーそっかー」
「うん、だから今はいいかな。ほら、それにテニス終わったら今度は受験だし!」
とことんまで先延ばしにするひな。
こういうところは意外と奥手なのかな。もっとも私はそういうところも含め、ひなを好きなったんだけれど。
それから私たちは他愛もない会話をしながら、寮へと戻り、いつも通りの生活を送っていた。




