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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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8話「関門を乗り越えた先に待ち受けるもの」

 刻々と時は過ぎていき、4時限目が終わり、ついにお昼休みとなった。

 来てしまったのだ、その時が。私はひなにバレることの恐怖と不安にさいなまれながら、そそくさと見つからないようにお弁当を持って、教室を後にする。

 10分休みの間に先輩から送られてきたメッセで、食べる場所は屋上で、ということとなった。なのでその指示通りに、私は屋上へと向かう。

 その足取りが重たいのは間違いなかった。屋上までの階段では、悪い意味で心臓がバクバクと鼓動を打っていた。そして、ついに屋上にまでたどり着き、その扉を意を決して開ける。


「――あっ、来た来た! 愛実つぐみちゃん、こっちこっち!」


 そこにはやたらテンションが高そうな先輩が既にベンチに座って待っていた。

 私に気づくと、手招きしながら私を呼ぶ。私はそのまま先輩の元へと行き、隣に座った。


「待ちました?」


「ううん、大丈夫だよ。じゃ、食べよっか」


 もうその表情が完全に恋人と一緒にいる時のそれ。照れつつも、どこか嬉しい感じ。

 もっとも、先輩は私のことを好きなわけだから、言ってしまえば、好きな人と2人きりの食事なわけだ。そりゃ、嬉しいことこの上ないだろう。

 ただ、私にとっては決して幸せな空間ではなく、むしろ不安しかない空間だった。


「……」


 それから私たちはパクパクと昼食を食べていた。

 ただ、どういうわけか今日は口数が少ない。

 この間なら、先輩が楽しそうに喋りかけてくれていたのに。やはり私に想いを伝えた後初めての、しかもこの2人きりの状況だから本調子じゃないのだろうか。それとも、こういう状況下で何を話していいのかわからないとか。


「……お弁当、って愛実ちゃんが作ってるんだっけ……?」


 それからしばらく経ち、沈黙を破るように先輩はそんな質問というか、確認をする。


「ええ、ひなは料理ダメなので」


「ふーん、そっか……食べてみたいな、なんて」


 どこか物欲しそうに、私の弁当を見つめる先輩。

 明らかに獲物を狙っているような動物の目をしている。


「えっ!? 別に普通ですよ?」


 私の料理なんて、たいした特別なものはない。

 普通通りにやって、普通通りのデキ。もちろん、人様に食べさても大丈夫なレベルだけれど、食べさせられるほどの自信はない。


「いいの、私が食べたいの……食べさせて」


 そう言って、先輩は目を閉じ、口を開ける。

 これはつまり、私が先輩に食べさせてあげなければならないということ。屋上には周りに人がいないとはいえ、これをするのはやっぱり恥ずかしい。

 だが、ここではたぶん『しない』という選択肢は私にはなさそうだ。私はいよいよ覚悟を決め、箸でとりあえず卵焼きを持って、それを先輩の口へと運ぶ。もちろん、あのお決まりの言葉は言わない。だってものすごく恥ずかしいから。


「ん……んん! おいしいね!」


「いえいえ、そんなことないですよ」


 お世辞だったとしても、そう褒められるとちょっと気分がいい。

 思い返すと、私の手料理をひなたち以外の人に振る舞ったことってない。だから、この評価はなんとなく自分の腕が認められたようで、嬉しかった。


「じゃあ、今度は私の番。はい、あーん」


 といって、恥ずかしそうにしながら、箸でミートボールを持って私の方へと差し出す。しかも、私がけたあのお決まりの言葉を使って。


「あ、あーん」


 それにつられてしまい、その言葉を言いながら私は口を開ける。

 すると、ちょっとして口にミートボールが入ってくる。


「おいしいです!」


 その味は昨日のお昼に食べたものと同じぐらいおいしかった。ただこのやりとりがものすごく恥ずかしい。ちょっと体も熱い。

 それに対し、先輩は満足してくれたようで、嬉しそうな表情を浮かべ、自分の弁当を再び食べ始めた。


「…………ね、ねえ。愛実ちゃん。次の休み……さ、映画見に行かない?」


 それからしばらくまた無言が続いた後、先輩はそんな誘いを申し出る。

 おっと、またデートの約束だ。もしかして先輩はこうして間髪入れずに約束を取り付けることで、私が先輩から離れていかないようにしているのだろうか。それとも私があの先輩の、頼みを聞き入れてくれたことが嬉しくて、その弾みでこんなにも入れているのだろうか。

 いずれにせよ、私にとってはひなに怪しまれる確率が増すだけなので、怖くてしょうがない。


「え、映画ですか?」


「う、うん。友達にチケット2枚貰っちゃって、どうかなーって」


「……い、いいですよ。行きましょう!」


 作り笑顔で快くそう答える。

 というか、この状況下でそう言われたら、答えないわけに行かない。先輩の私の答えを待つ時の不安そうな顔といったら、もう断りようがない。


「やったぁー!」


 ホント可愛らしく嬉しそうにする先輩。ホント、ひなに見せてあげたい。大袈裟おおげさかもしれないけど、泣いて喜びそう。


「こ、今度はどこで待ち合わせしますか?」


「え、えっとー……私の寮に来てもらって、そこから行くってのはどう?」


 まるで乙女みたいに、どこか恥ずかしそうにしてそう提案する。

 たぶん、これはあくまで私の予想でしかないけれど、今日のお昼を一緒にした理由はこれのためな気がする。おそらくだけど、前もってプランニングしていそう。なんとなくそんな図が浮かぶ。


「え、いいですけど、前みたいに駅前集合でもいいのでは?」


「あっ、その……ちょっとでも長く愛実ちゃんと一緒にいたいから」


 顔を真っ赤にして、そんな恥ずかしいことを言ってのける先輩。そう言われると、こっちまで恥ずかしくなってくる。


「ふふ、わかりました。じゃあ、迎えに行きますね」


 照れ笑いをしながら、それを承諾する。

 先輩が私の寮に、迎えに来るなんてことがないだけマシだろう。ひなに変に勘ぐられることもなくなるだろうし。


「う、うん」


 照れて乙女になっている先輩。こんな可愛い先輩を、本来ならひなが見るべきで。

 たぶん、ひながこれを見れたなら、悶絶もんぜつするんだろうな。

 というか、今気がついたけれど、これもう完全にただのカップルの会話になっている。カップルが休みにデートの計画を立てているみたいに。周りに誰もいないからいいけど、これをひなに見られたら殺されてしまいそうだ。



 ――というわけで、次の休みもまたデートをすることとなった。

 一応、名目上は『先輩と遊びに行く』ということなのだろうが、先輩としてはもう完全に『デート』と思ってそれを味わっていることだろう。エスカレートして、本当に勘違いしなければいいのだが。私はそんなことを思いながら、昼下がりの時を過ごしていた。

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