6話「Love Triangle」
寮に戻ると、部屋には誰もいなかった。たぶん、ひなは1人で退屈して暇潰しにどこかに出かけているのだろう。
私は部屋に入ってすぐさま、着替えもせずにベットへと直行し、うつ伏せになる。
今、私の頭はパンクしてしまいそうなほど混乱している。とりあえず今一度、冷静になって今の状況を整理してみよう。
先輩は私のことが好き。ひなは先輩の事が好き。そして、私はひなのことが好き。
そしてその三人の中で、私だけが全員の想いの矛先を知っている。
さらに私は今、先輩といわば『恋人ごっこ』のようなものをすることとなった。
改めて考えてみても、状況は最悪。私が完全に2人の板挟み状態になってしまっている。
仮に私がどの道を選択しようとも、結果的に誰かが悲しんでしまうことになる。それでゆくゆくは、3人の関係に亀裂が入る可能性がある。
でも、だからといってこのまま何もしないで現状維持なんてできるはずがない。絶対どこかで歯車が噛み合わなくなる。
でもどうすればいい? どうすればこの問題を解決できる?
それが私には分からない。どんなパターンで考えても、悪い未来しか見えてこない。
でも、早く答えを出さなければ、そうしなければ――
「――ぐみ、愛実!」
「うわっ!? なんだ、ひなか、ビックリしたー……」
突然に肩を叩かれ、それに驚き、後ろを振り向くとそこにはひながいた。
どうやら私が考え事をしているうちに帰ってきたみたいだ。私はベットから起きて、ひなの方へ体を向ける。
「どうしたの? なんか考え事してたみたいだけど」
「うん、まあちょっとね」
その質問にバカ正直に話すわけにはいかないので、適当にごまかす。
もちろん、これであしらえるほど、ひなは単純な人だとは思ってはいないけれど。
「着替えもせずにベット直行ってことは……今日なんかあった?」
なかなか鋭い所を突いてくるひな。朝の時みたく名推理をする。
けど、できればそこを突いてきてほしくはなかった。
この状況を平和に乗り切る方法まで考えなくてはいけなくなるから。そんなこと今の私にできるほどの余裕はもうない。
「……なんにもないよ、ただちょっと疲れちゃっただけ」
「嘘」
さすがに小学校から一緒のひなでは、私の嘘は通用しない。これが時に非常に面倒になってくる。私の見られたくない心を見透かされてしまうから。
でも、どうしてこういうどうでもいいことには気づけて、私の本当の気持ちには気づいてくれないのだろう。気づいてくれれば、同じ痛みを共有できるし、心強いのに。
「嘘じゃないよ……」
「あんまり訊かれたくないようなことなんだろうから、これ以上は言及はしないけどさ。必要なときは私のこと頼っていいからね、私たち友達でしょ?」
「う、うん……そうだね……ありがと」
ひなの善意が私の心に刺さる。ひなも先輩も悲しませないためにも、ここは仕方がない。
ただひたすらにバレないように、嘘をつき、あの事は隠しておこう。
「そうだ、愛実はご飯食べてきたの?」
「ううん、まだ」
「じゃあ、私もまだだから一緒に食べよ!」
「うん、ていうか作るのは結局私でしょ?」
「まあ、そうだけど、えへへ」
「もう、じゃあすぐ着替えて、用意するからちょっと待っててね」
とりあえず考えてばかりいても、答えなんて見つからない。『今は現状維持で行こう』と私は心に決めた。 なにも今日中に答えを出さなければならない問題じゃない。それにいつかは噛み合わなくなったとしても、それはたぶん、そんなすぐじゃないはず。
だったら、噛み合わなくなるまでゆっくりと答えを見つけていけばいいのだ。そんな楽観的な考えを現状の答えとして、とりあえずこの問題を片付けることにし、私は日常へと戻っていった。




