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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第6章『つぐひな』
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4話「先輩とジェットコースター」

 やはり先輩が言ったとおり、昼時だからだろうか人数は少なく、ほぼほぼ並ぶことなくジェットコースターに乗ることが出来た。

 そのおかげ、とういかせいでまさかの私たちは先頭を獲得する。先に先輩が入り、その隣を私が座る。


「……あれ、先輩。もしかしてジェットコースターもダメでした?」


 私が提案した時にはお化け屋敷ほどの反応はなかったので、大丈夫かと思っていたのだが、今現在ジェットコースターに座っている先輩はどこか不安そうで、ちょっと青ざめたような顔をしている。

 私はそれが不安になって、先輩に直接訊いてみる。今度はジェットコースターだから、お化け屋敷の比ではない。

 こっちはホントに危ないから、ちゃんと確認をとらねば。


「ううん、大丈夫なんだけど……一番前っていうのが、ね……」


 苦い顔をしながら、そう呟く先輩。


「ああーそうですよね。一番前って中々スリルありそうですよね。大丈夫ですか?」


「う、うん、大丈夫……な、はず」


 どこか自信がなさそうな先輩。がっつりと私の手を握り、自分の指を私のそれに絡ませてくる。そして、それを離すもんかとがっつりと握りしめている。それからも、だいぶおびえているのが伝わってくる。

 しばらくすると、アトラクションの始まりを告げる鐘が鳴る。そして、いよいよジェットコースターは発進、ゆっくりと前へ進んでいく。少し先のところで、もう既に山が見えてくる。あそこを超えたら一気に加速して、そのまま終わるのだろう。そこへ行くまでの緊張感、これもまたジェットコースターの醍醐味だいごみだろう。

 先輩はというと、うつむいたまま私の手を強く握っている。そんな先輩など気にもせず、ジェットコースターは徐々に徐々にその山の頂点へと向かっていく。


「そろそろ来ますよ、先輩」


 うつむいていてたぶん今現在、自分がどこにいるのか分からないだろうから、それを教えておく。

 分かっている方が、心の準備もできるだろうし。そしてそんなことを言っているうちに、ジェットコースターの先頭は頂点にたどり着き、後は落ちていくだけとなった。


「――きゃっ、きゃあああああああ!!!」


 そしてふわっとした感覚があったかと思えば、すぐに勢いよく落ちていく。

 それに呼応するように、これでもかというほどに叫びまくる先輩。耳が割れそうなほどだ。ジェットコースターはぐんぐんと速度をあげていき、ねじれるように角度を変えながら、どんどんと進んでいく。そして、ジェットコースターの花形、一回転ゾーンへと差し掛かる。


「うぅぅ―――」


 そしてその勢いのまま、ジェットコースターは突っ込んで、面白いように一回転する。

 先輩はその間、ずっとうつむいたままそんな風にうなっていた。そしてこれだけでは終わらない。今度は、一回転が2回連続でやってくる。

 流石さすがにこれには私も身構え、覚悟を決める。そして、加速したまま突入していき、ぐるりと一回転、そして二回転と難なく超えていく。重力に逆らって昇っていくその姿は凄まじく、思わず感心してしまった。これで終わりなようで、ジェットコースターはゆっくりと減速しながら最初にいた地点へと戻ってくる。


「先輩、大丈夫ですか?」


 ジェットコースターが止まり、下車した後、先輩に安否を伺う。


「え、ええ……」


 先輩はどこか疲れたような顔をして、低いトーンで私の質問に答える。


「ちょっと休憩します? そこでお昼にでもしましょうか」


 お昼ご飯も食べていないことだし、休憩がてらちょうどいいだろう。


「あっ、うん。あ、あのね、愛実つぐみちゃん」


「ん、何ですか?」


「私、お昼作ってきたんだ。よかった食べない?」


「いいんですか!?」


「ええ、じゃあどこかいい場所探しましょうか!」


 それから園内のパラソルテーブルがあるところへ行き、2人で座って昼食にすることになった。


「――食べやすいように、サンドウィッチにしたの」


 先輩は自分のバッグから、お弁当箱を取り出し、それを開ける。


「うわーおいしそう! いただきまーす!」


 するとそこには見るからに美味しそうなサンドウィッチが敷き詰められていた。お腹が空いているということもあってか、思わず唾が自然と口の中にあふれる。


「お口に合うかどうかわからないけど、どうぞ召し上がれ」


 そう前置きをして、先輩はちょっと不安そうにそう言ってくる。私はそのお言葉に甘えて、まずオーソドックスなレタスとハムのサンドウィッチを手に取り、それを口に運ぶ。


「はむっ……んっ、美味しい……!」


 その味は絶品そのものだった。

 レタスのシャキシャキ具合がたまらない。ちょっとマスタードが入っているのも、味のアクセントになっていい。ひなから先輩が料理が上手というのは知っていたけれど、これほどとは。

 今度、先輩にレシピ教えてもらおうかな。


「よかったぁー……」


 その私の反応に、安堵したような表情を浮かべている先輩。それほど自信がなかったのか、それとも今日はチャレンジしたのか。いずれにせよ、そんな心配はいらないほどに美味しかった。


「――午後からどこまわる?」


 それからこれまた先輩の持ってきてくれた紅茶を飲みながら、まったりとしていた。

 そしてそんな折、先輩がこれからの予定を訊いてくる。


「ちょっと落ち着いたようなアトラクションにいきましょうよ! 激しいものばっかでしたし」


 午前は絶叫系のアトラクションだったし、食後ということもあるので、できれば三半規管等を刺激するものや、運動するものは避けてまったりとしたものに乗りたい。

 今の今まで先輩にはちょっと苦手なものばかりだったし、落ち着いた系のものならば先輩も楽しんでくれるだろう。


「そうねーじゃあ、まずは無難にメリーゴーランドかしら?」


「あっ、いいですね!」


「うん、じゃあ決まり!」


 午後から行く場所も決まり、私たちは穏やかな昼食のひと時を過ごしていた。

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