1話「前触れ」
それは大型連休の中日、一日だけ登校しなければならない、ちょっと憂鬱なそんな日のことだった。
お昼休み、珍しくひなの部活――テニス部の先輩が私たちのクラスに顔を出してきた。大方、ひなに部活のことで用があって来たのだろうと高をくくっていたのだけれど、
「――えっ? 私!?」
意外や意外、その用事の相手は私であった。
何で私なんだろう、と驚きつつも私は席から立ち上がって先輩が待っている廊下へと向かう。
「先輩、こんにちはー! どうしたんですか?」
私はごくごく普通のいつもの調子で、先輩に挨拶して用件を伺う。
「ねえ、愛実ちゃん、ちょっといい?」
対して先輩はどこか緊張した面持ちで、私を見つめては目を逸らして、うつむいてしまう。
そんななんだかハッキリとしない先輩を見て、どんな用事なんだろうかと不思議に思う私がいた。
「はい、なんですか?」
「あ、明日って……あいてる?」
先輩は不安そうな表情で上目遣いになって私にそう問いかける。
まるで怯える子犬みたいな感じだった。
「ええ、特に予定はないですけど……」
「ホント!? じゃあさ、明日遊園地に2人で行かない?」
私のその言葉で、水を得た魚のように急に元気になって嬉しそうな表情で、そのままの勢いをつけて私を誘ってくる。でも、私にはその言葉に違和感があった。
「2人で?」
私と先輩は言ってしまえば、ひなで繋がった仲なのだ。
だから基本単位はいつも私とひなと先輩の3人でどこかへ行ったり、話したりする。その上、私と先輩が2人きりという状況も、まず滅多にないことだった。
だからテニス部に入っていない私と、先輩が2人でどこかへ行く、というのはもちろん嫌じゃないけれど、どこか引っかかる部分があった。
「うん、できれば」
そして何より、私はひなを一緒につれて行きたかった。
別に2人だと気まずいとかそういうのじゃない。ひなが先輩のこと、大好きだから。私がいても、ひななら先輩と一緒に遊園地だなんて大喜びだろう。
でもこの感じ、先輩の真剣な表情から見ても、あくまでも先輩は私と『2人きり』で行きたいようだ。まあ、無理に連れて行きたいと言っても悪いし、ここは年長者の意見を尊重することにした。
「……私はいいですけど」
「ホント!? じゃあ、駅前に9時集合ね!」
私の答えに、とても嬉しそうな表情を浮かべ、すぐに集合時間と場所を決める先輩。
「は、はい、わかりました」
そんなどこかテンションの高い先輩に圧倒されつつ、私は深く考えることもせずに、先輩の誘いを了承した。2人きり、というのがちょっと緊張するけど、これからのことを考えると、ここで先輩と仲良くなるのもいいのかもしれない。むしろ今までがあんまり接点がなかったから、これがきっかけになれば。そんな気楽に考えながら、私は教室へと戻っていった。
――だが、この選択が後に大きな影響を及ぼすこととなるのであった。今
思えば、ここで断っておくべきだったのかもしれない。たとえどんなに先輩が悲しそうな目で見つめて、帰っていったとしても、その方がむしろ幸せだったように思える。
そう、これは大きな誤ちを犯したある1人の物語。




