3話「お宅訪問 Part2」
「おじゃましまーす」
唯たちの部屋について、私はそうお決まりの挨拶をしながら、部屋へと入る。
「どうぞー」
その合図と共に、私たちは唯たちの部屋に入ってく。
やはりというか、当たり前だが、部屋の中の構造は私たちのそれを対して変わらなかった。だが、やはり小物や物の配置が微妙に違っていて、それはそれで面白かった。
「おー結構キレイに片付いてるねー」
案外、というと失礼かもしれないが、私たちの部屋よりもかなり入念に掃除されていて、家具たちがまるで新品のようにキレイだった。
だいたい自分の部屋なんて、来て友達ぐらいだから、ちょっと探せばホコリが見つかりそうなものだが、それもなかった。どちらか……まあ大方、唯の方なんだろうけど、案外キレイ好きだったりするのだろうか。
「ま、人並みに掃除はしてますからねー」
「あれ、あのぬいぐるみがいっぱいあるベッドって――」
辺りを見渡しながら、ふとベッドの方へと目を向けると、1つはなんにも置いていない普通のベッド。だけれど、もう1つの方は寝返りでもうったら、ベッドから落ちてしまうんじゃないかと思うほどにぬいぐるみで溢れていた。普通に考えて、常葉さんの性格的にぬいぐるみ好きな趣味なんてないだろうから、あのベッドは――
「う、うん、私のベッド……」
どこか恥ずかしそうに、モジモジしながら白状する唯。
「へーそういうの好きなんだぁー意外」
たしかに言われてみれば、そんな趣味があってもおかしくはないのだろうけれど、今の今までそんな素振りや、発言はなかったから意外だった。
「こ、子供っぽいよね……?」
「いや、可愛い趣味だと思うよ」
「あ、ありがと……」
なんやかんや言って結局、唯の恥ずかしいところばかり見つかっている感じがする。
私は言っても虫程度だし、本の趣味なんてもう既に知られていることだし。だからこそ私は図書委員を務めているんだし。
「ちょっと見てもいい?」
「うん、いいよ!」
私は早速そのベッドへと向かい、そのぬいぐるみを1つ手に取ってみる。
「あらかわゆい」
「え、何?」
私のその言葉に、唯はちょっと不思議そうな表情で私を見つめていた。
「え?……あ、ああー、いや『あら、かわいい』って言おうとしたら噛んだってだけ」
ちょっと考えて、なぜ唯がそんな返事をしたのかがわかった。
「あっ、なんだそういうことか」
唯は軽く笑いながらそんな返答をする。
でもたしかにそうだ。『荒川唯』をぎなた読みすると、『あら、かわゆい』となるわけだ。『かわゆい』ってなんだよって感じだが、でもニュアンス的にも、言い方も可愛い。案外この言い方いいかも。
「でもなんかいいね、『あら、かわゆい』って。今度から可愛いものみた時はそう言おうっかなぁー」
おもちゃを買ってもらった子供みたいに、私は早速そんな風に唯をちょっとおちょくってみる。
「ちょっ、やめてよー!」
半分冗談っぽくそう言って、私のそれを拒否する。でも、顔を赤らめている辺り、半分は本当なんだろう。
「冗談、冗談。でさ、思ったんだけど、これってもしかして唯の手作りだったりする?」
「えっ、何だ分かったの!? そう、これ全部手作りなんだー!」
その質問にとても驚いた表情をみせ、そう答える唯。
「へーやっぱそうなんだぁー! いや、なんとなくそんな気がして」
ホント、感覚的でしかなかったけれど、なんとなく手作り感というか、そういう温かさが感じられたから。
私には珍しく、ものすごく言葉が抽象的だ。
「うん、まあ手芸部に入れるほどうまくはないんだけど、昔にお母さんに教えてもらったことがあって」
「それでずっと続けてるんだ、すごいね」
これだけの量だ。たぶん、素人目で見ても相当の時間と技術がいると思う。だからこれは昔からの趣味なのだろう。長く続く趣味があるというのはとてもすごいと、素直に感心する。
「え、そ、そうかな」
「あ、照れてる。あら、かわゆい」
そんな照れ顔をされては、イジらずにはいられない。
なんか、私と唯の2人きりの時のポジション、というか役割が決まってきたみたいだ。私がイジって、唯がイジられる。唯本人は絶対に否定しそうだけど。
「もぉー! めぐみ!」
「ふふ、ふふふ」
「ねぇーこれ結局、私が恥ずかしいとこばっかめぐみに知られてない?」
唯の方もようやく事態に気づいたようで、怪訝そうな顔をしてそう訊いてくる。
「あ、気づいた? まあ私の恥ずかしいとこなんて大してないからねー」
あの時に突然だったとはいえ、思いつかなかったあたり、やっぱり私にはそうそう見られて恥ずかしいところなんてないようなきがする。
まあ自分が自覚してないだけかもしれないが。今度、すずにでも訊いてみようかな。
「むぅー不平等……」
それに唇を尖らせながら、不満足そうにボヤく唯。
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない! それよりもさ、これからどこか食べに行かない? この時期でも空いている店知ってるからさ」
恥ずかしいところばかり見られて、少しご機嫌ななめの唯をなだめながら、私はらしくもなくそんな提案をしてみる。
こういうストレスが溜まった時は食べるに限るし、丁度時間もいい時間だから。
「ああーなんかめぐみならそういう静かな店知ってそう。なんか裏路地とかにひっそりやってる店とか詳しそうなイメージ」
「うん、全くもってそのイメージ通りです。じゃあ、準備もあるだろうから1回解散して、後で寮の玄関で落ち合おっか」
「りょーかい! めぐみのオススメの店ってちょっと興味あるかも」
「まあ、そんな高尚なものじゃないけどねーじゃあ、私は一旦部屋に戻るねー」
そんなわけで、私たちは出かけることとなった。
私からこんな誘いをしたのは、さっきのストレス解消もあるけど、本当はもっと唯と仲良くなりたいと思ったから。
今まではすずのことばかりで頭がいっぱいで、そんなに常葉さんや唯たちと『友達』をやってこなかったように今振り返るとそう思う。だから丁度いい機会だし、こうやって仲を深めていこうと思う。そんな思いを固め、私は唯の部屋を後にした。




