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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第4章『きょうすず』
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7話「ズルいお願い」

 本日2度目の屋上。真っ赤に染まった街並を背に、私たちは立っていた。いつもと変わらず、誰もいない静かな場所。それ故に、外から昼と同じように、今度は部活の音が聞こえてくる。


「で、話って?」


 少しして、今度は常葉さんがそう話を切り出した。


「うん、単刀直入に訊くね、すずのこと好き?」


 ここまで来たらごまかしなんていらない、直球勝負だ。

 これが全て。これの答えで全てが決まってしまう。


「本当に単刀直入だねーちなみにこれって拒否権ってある?」


 常葉さんはどこかそんな突然の質問に、ちょっと戸惑っている様子だった。しかもどうやら答えたくはないみたいだ。


「ない。はっきりと答えて。ちなみに言わない限り、ここから帰さないから」


 でもここで逃がすほど、私は天使じゃない。私は隣の常葉さんの方へと向き、逃げないように両手をフェンスに当て、覆うような形になる。


「しょうがないなー、答えは……」


「答えは……?」


 本人も知らない場所で今、全てが決まろうとしている。

 私はその答えに、期待と不安の両方を持ち合わせながら息を呑んでその答えを待つ。


「やっぱ恥ずかしいよぅ……」


 常葉さんは珍しく顔赤らめ、言いよどむ。

 それに対し、親友の好きな人の意外な一面を知ってしまい、複雑な心境になってしまった。私はだいぶ悪いことをしているようだ。だって、たぶんこんな顔は幼馴染の荒川さんだって見たことないと思う。それを親友より先に知ってしまったのだから。


「恥ずかしいのは重々承知してるの。でもお願い、答えて」


「んー…………す、好き……だよ?」


 しばらくの間があって、常葉さんはようやく回答を口にした。しかもその回答は私の予想通りの答え。やはり、常葉さんはすずのことが好きだったんだ。


「ホント!?」


 私はその言葉に、思わず前のめりになって、普段出さないような声を上げてしまった。それほどにその常葉さんの言葉は、信じたいけど信じられないものであった。


「うわっ、びっくりしたー! いきなり大きな声だすからー」


「あ、ごめんごめん。ちょっと取り乱しちゃった」


「で、これがどうしたの?」


 常葉さんは不思議そうな顔をして、私にそう訊いてくる。

 そうだ、これで終わりではなかった。あまりにもその衝撃の事実を聞かされて、動転していたけれど、ここからが本番だ。


「うん、でね、私から言っちゃうのはちょっとアレだけど、どうしても言わなきゃいけないから言うね。実はすずは常葉さんのことが好きなの」


 私はそう前置きをし、すずの気持ちを本人に代わって私が代弁する。

 友達が告白代行というのも変な話だ。でも、今の現状を変えるにはこれしかない。


「うん、知ってる」


 そんな中、常葉さんはサラリととんでもない衝撃発言をする。


「え? 今なんて?」


 それがあまりにも自然すぎて、理解がすぐにできず反射的に訊き返してしまう。


「私、実は知ってるんだ。涼香が私のこと好きってこと」


「ええ!?」


 開いた口が塞がらないとはこのことだ。まさか常葉さんがすずの想いに気づいていたとは。失礼ながら、彼女は結構鈍感なタイプと思っていたのに。


「ふふふ、なんか今日のめぐみは面白いね。普段見せない表情してて面白いー」


 かくいうあなたもですけどね。というツッコミは置いておいて、すずが常葉さんを好きなことを知っていたのであれば、1つ疑問が浮かび上がる。


「すずの気持ち知ってるなら、なんで告白しないの?」


 常葉さん視点でみれば、自分とすずは両思いという事実が分かっているのだから、告白すれば必ず成功する。まさかすずが断るわけないし。

 だから、常葉さんがいつから好きだったかは知らないが、告白すればこんな長い間恋が実らないことにならなかったのに。


「あ、えとー…………それはー……そのー」


 その質問に途端に常葉さんは頬赤らめ、両人差し指をつつきながらモジモジしていた。

 どうも告白できないのには恥ずかしい理由があるらしい。


「ん?」


 もしかして意外と告白するのは恥ずかしいタイプなのだろうか。それで告白されるのを待っているとか。

 それだと非常に面倒になる。どちらも奥手だと、いつまで経っても話が進まないから。もしかして、だからこそ今日まで2人に進展がなかった……?


「涼香から……告白されたいんだ。それが私の憧れなの、えへへ」


 返ってきた答えはいつもの常葉さんと思えない、そんな答えだった。

 この数分だけで、常葉さんのことをかなり知ってしまった気がする。やはりそれだけ自分の内を見せていなかったということなのだろう。

 でもその内を私ごときが知ってもいいのだろうか。なんとなくすずにも、そして荒川さんにも申し訳ない気持ちになってしまう。


「へぇーなんか、今日の常葉さんかわいいねー乙女って感じ」


 まさに『漫画とかに出てきそうな乙女』とういうのがふさわしいだろう。


「むー私はいつも乙女ですー!」


 常葉さんはそれに対し、頬を膨らませ、少し怒った表情をみせる。


「ハハハ、ごめんごめん」


「それにね、涼香はあんな性格だから余計に告白してほしい。告白して勇気を持ってもらいたいんだ」


 どちらかと言えば、常葉さん的にはこっちのほうが大きだろう。

 やはりすずの性格から言えば、どうしても受け身になってしまう。それを変えるためにも、『あえて』告白しなかったのだろう。


「やっぱ考えてることは一緒かーじゃあさ、手伝ってほしいんだ」


「手伝う?」


「うん、すずに告白しやすい環境をこちら側が作ってあげるの。そうすれば、すずも告白する気になってくれるだろうし」


 すずが否が応でも告白しないのは、それはそれをできるだけの環境が今はないから。

 そう考えた私は、ならば一層のこと告白しやすくなるような環境をこちらが作ってしまえばいいのである。

 もはや、私という部外者の干渉は一定のラインを超えている。だからもう何をしたって大差はないだろう。


「いいけど、具体的になにするの?」


「まず、今度告白する機会があったら、ちゃんとすずの告白が終わるまで黙って待っててほしいの」


「ああ、じゃあやっぱりあの時私が余計なことを言ったのが悪かったんだ―……ごめんねー告白されると思ってたら、気持ちが先走っちゃって」


「気持ちはわかるよ。でも、それがすずのプレッシャーになってるから」


「わかった、今度は気をつけるよ」


「ありがと。それで次に、明日以降すずに積極的に2人きりになってほしいの」


「どうして?」


「今までよく考えてみると、常葉さんとすずが2人きりになる状況ってあんまなかったと思うの。私と荒川さんがいるから、作りにくかったんだと思うんだ。それに慣れてないからすずが恥ずかしくなっちゃうんじゃないかな、って考えたわけ」


「ほーう、なるほど」


 私の作戦に、腕を組んで感心するように何度か頷く常葉さん。


「だから2人きりの状況を作って、それに慣れさせれば、恥ずかしさもなくなるかも」


 これで話しかけやすくなれば、以前よりかはマシになるだろう。

 そりゃ、好きな人に告白するのは誰だって緊張する。でも、すずのは異常。だからこれでそれを改善していこうと思う。


「いい作戦だね、了解」


「あと、その2人きりの際にできるだけ好きだっていうアピールをしてほしいんだ」


「アピール?」


「うん、あんまり露骨すぎるのじゃなくてさりげない感じのやつで。それをすると、常葉さんが自分を好きなんじゃないかって思い始めるから。そうすれば告白する自信にも繋がるから」


 とは言っても、そう簡単に行くわけがない。

 自分の想いを寄せている人に対して、『もしかして自分のこと好き?』なんて意識がいくわけがない。むしろ、自意識過剰にならないように努めてしまうのが普通だろう。それがすずならなおさらだ。

 でも、それでちょっとでも、ほんの僅かにでも『勇気』が芽生えたのであれば、後はそれを押していくだけ。そのためにも、これは抑えておかねばならない。


「なかなかの無茶難題っぽいけど、わかったよ。でもさ、いいの?」


「まあ、卑怯なことをしてるっていうのはよくわかってるから。でも早く告白させるには最適な作戦だから」


 私たちにはもう時間がない。このまま互いが意地を張っていたら、たぶんどちらも共倒れする。そうなる前に、多少ずるいとしても、ここは果敢に攻めるべきだ。


「あ、いやそういう意味じゃなかったんだけど……まあいいや、じゃあ具体的に明日から昼食とかも2人でってことだよね」


 私の解釈と常葉さんの意図に食い違いがあったようで、常葉さんは一瞬、困り顔をしてから具体的な案を出す。


「そうそう」


「これでうまくいくといいね」


「うん……ん?」


 ふと思った。荒川さんは常葉さんのことが好き。でも、常葉さんはすずのことが好き。つまり、荒川さんはいくらなにやっても結ばれることはない。それに加え、私は荒川さんの気持ちを知っている。この作戦を進めてしまうと、荒川さんの気持ちを踏みにじってしまうことになる。もしかすると最悪の場合、関係悪化に繋がってしまう?


「どうしたの? もしかして唯のこと心配してる?」


「ふぇっ!?」


 常葉さんの私の心を見透かしたような言葉に、思わず変な声が出る。

 なぜ、しかもこのタイミングで、今まで出てこなかった名前が出てきたのか。まさか読心術でも心得た?

 いやいや落ち着け私。そんなわけがない。でもだったらどうして――


「ど、どうしてそれを……?」


 突然のその発言に、戸惑いを隠せない私が恐る恐るそれについて常葉さんに質問をしてみる。


「ごめん……私全部知ってるんだ。涼香が私を好きなことや、めぐみが涼香を好きなことも。そして唯が私のことを好きなことも」


「えー!? 意外……割りと疎いタイプかと思ってたのに……」


 その答えはあまりにも意外な答えだった。本当に常葉さんはどこか鈍感っぽくて、そういうことには全く気づかない人だと思っていた。


「しつれーだねーまあそういう風にしてるから、そう言われるのもしょうがないんだけど。私って結構、人のことをよく観察しているからさ、なんとなくそういのが分かっちゃうんだ。そういう風な態度とか雰囲気が見えてきちゃうの。でもそういうのって大抵さ、関係にヒビが入っちゃったりすることも多いし、自分関係で仮にその子を好きじゃなかったらその子を悲しませることになるから、だからわざと気づかないふりしたり、あえて心の中を見せないようにしているの」


「へーだから荒川さんも常葉さんの気持ちがわからなかったんだ」


「うん、それに私から告白しない理由にそれも含まれてたんだ。これでめぐみや唯との関係が悪くなることを気にしてたの。でも、これってただ面倒事から逃げてるだけだよねー結局、告白されたら受け入れないわけにいかないんだし」


「大丈夫だよ、みんなそうだから」


 私だって自分の面倒事から逃げたくなって、すずに告白をさせるように迫ったんだから。

 結局、みんな自分勝手で、それぞれの自分の想いを満たすために行動しているだけ。でもそれが人間らしいっちゃ人間らしい。


「ねえ、話をぶり返すようで悪いけどさ。いいの? このまま作戦進行して。めぐみは涼香のことが好きなんでしょ?」


 常葉さんはさっきの発言に補足を加えて再度問いかける。


「うん、これは私が諦めるために2人に付き合ってもらう作戦だから」


「ふふ、ふふふ」


 私の発言にどういうわけか笑い始める常葉さん。


「え、今のに笑う要素あった?」


 それに対し、なぜ笑ったのかわからずただただ困惑する。


「あ、ごめん。やっぱ涼香とめぐみは友達なんだなーと思って」


「どういうこと?」


「気を悪くしたらごめんね。めぐみも結局、告白しないで逃げてるだけだよね。たぶんめぐみは涼香に対する想いが強くなって、こんなことしたんだよね。付き合ってしまえば否が応でも諦めなきゃならないから。でも、それって結局涼香と同じだよね。理由は違えど好きな人に告白できないで、形は違えど想いを自然消滅させようとしてる」


「そんなこと自分が一番わかってるよ。私はこの中で一番ズルいことしてる人だから。でもこれでいいの。どうやったって私の想いは届かないんだし。それを無理やり届かせようとすると、それ相応の痛みが伴うし」


 私の想いは実る確率が非常に低い。そうなのであれば、ムリに想いを伝えて失恋するよりも、好きな人の恋を叶えて失恋した方が納得もいくし、その後もそのままの関係でいられる。もちろんそれは自己満足なのかもしれない。そもそも本人は結ばれることを望んでいなかったし。

 でも、それでも私はすずに幸せになってほしい。

 だって、私にとってすずの幸せは私の幸せなのだから。


「まあ、私も大概なんだけどねー唯の気持ちを知りながら知らないふりをしてるわけだし」


「ねえ、実際荒川さんのことってどう思ってるの?」


「私の一番の親友、もちろんめぐみも涼香も親友だけど、唯はその中でも特別。でもだからかな? 私には恋愛対象としては見れないんだ。あくまでも長く連れ添ってきた親友で、それ以上にはなれない」


「私とは正反対だね」


「確かに、そうだね」


「じゃあさ、質問続きになるけど、どうして常葉さんはすずを好きになったの?」


「え、それ訊く?」


 急な恋バナに、またしても恥ずかしそうな表情になる常葉さん。


「いや、ちょっと気になって」


「恥ずかしいよぉ……」


 乙女モードに逆戻りする常葉さん。なんかちょっと楽しくなってきた。


「いいじゃん、教えてよ!」


「んー、いわゆる一目惚れ……ってやつかな?」


「へーそうなんだー」


 フィルターかかっている私が言うのもなんだが、あれだけの美少女であるすずは、やはり一目惚れされやすいのか。そうなると、私たち以外にもすずに好意を寄せてる人はいるのかもしれない。


「うん、中学の時にすっごいかわいい子がなんか困っているみたいだったから、ちょっとお知り合いになりたいなーって感じで話しかけて、その困り事を助けてあげたことがあったの。それが私と涼香が友達になったきっかけ。まあ実際は私の方から一方的になったといっても過言じゃないんだけどね。それから何かにつけては涼香に会いに行くようになってた」


「ふーん、私と同じなんだね」


「え、同じって?」


「ああ、私も一目惚れなんだ。入学当初にすずにナンパ気分で話しかけたのが友達になったきっかけなんだ」


 忘れもしない中学入りたての頃のこと。あれから私たちの関係は始まった。

 あの頃は『かわいい。仲良くなりたい』っていう気持ちで声かけたけれど、今思うとやっぱナンパっぽい。


「へーそうだったんだー。やっぱひと目見ただけでかわいいって思うよね!」


「そうそう、なんかこうオーラみたいなのが出てるんだよね!」


「うんうん!それにいっつも惹きつけられちゃうんだよね―」


「「ふふふ」」


 お互いを見つめ合い笑い合う2人。まさかの好きな人自慢大会になってしまった。こんな共通の話題を見つけてしまうとは。


「――さて、そろそろ帰らないと唯たちも心配するから帰りましょうか」


 それからしばらくすず自慢大会をした後、常葉さんがそう話を切り出す。


「だね、じゃあ明日からよろしくね」


「まかせなさーい!」


 とりあえず協力してもらえることとなった。明日から早速実行していくこととなる。これですずの気持ちに少しでも変化があればいいのだが。

 ただ、これは長期的な作戦となる。つまりそれまでの間、私たちはただのクラスメイトというわけ。作戦実行中にも、恐らく私たちの間に何か動きはあるだろう。普通に考えて、そんな長期的にこの関係がもつ訳がない。どちらが折れるのが先か、いよいよ私たちの我慢比べ大会が始まるわけだ。

 私も私で辛いし、すずもすずで辛いから早くすずには告白してほしいのだが。そんなことを思いつつ、私は常葉さんと共に屋上を後にした。

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