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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第3章『よしゆの』
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8話「友達という存在」

 放課後も例に漏れず、お姉ちゃんは亜弥あやちゃんたちと例のサプライズの件でどこかへ行くようだ。

 結局、お姉ちゃんは『2人の時間に配慮する』とは言ったものの、実行には移せなかった。それによって、例のあの事を思い出す――本当に私たちは永遠なのだろうか。やはり周りの妨害によって、それが断たれてしまうのではないだろうか。

 今のこの状況がまさにそれ。私がないがしろにされて、そのままずるずると疎遠そえんになっていく。そんなことを考えると、恐怖でいたたまれない気持ちにさいなまれる。

 でも、だったらどうすればいい。この不安、恐怖、それらを取り除くためにできること。私にはそれがわからなかった。

 お姉ちゃんと一緒にいても、それは所詮その場しのぎにしかならない。結局、不安はつのる一方。だからと言ってみんなに事情を話すのも――     

 そんなことを考えながら、私は独り寂しく……かと思いきや、なんと襟香えりかちゃんがその折に私を呼び止め、一緒に帰ることとなった。めったにない、すごく珍しい下校風景だった。


由乃ゆのちゃん、最近元気ないね。何かあった、っていうかあったよね? あんまり詮索せんさくするのもよくないかなーって思ってたんだけど、流石さすがに見過ごせなくなっちゃった」


 2人で肩を並べながら歩いている最中、襟香ちゃんがそんな話を切り出す。流石さすがに私の連日の言動で、何かあったと気づいたようだ。


「うーん……確かに襟香ちゃんの言う通り、あったにはあったんだけどー……」


 とはいえ中身が中身なだけにどうしても歯切れが悪くなってしまう。

 これほど言いづらいこともなかなか無いだろう。『あなた達がお姉ちゃん取るから元気ないです』なんて言ったら、関係が悪くなってしまう。

 私はあくまでもみんなと仲良くいたいし、お姉ちゃんとは一緒にいたい。


「言いにくい?」


 そんな私の様子を察して、そんな気遣いの言葉を投げる襟香ちゃん。その質問に、私は気まずくもうなずく。


「んー……でも私たちも私たちで、このまま機嫌悪い由乃ゆのちゃんを見てるのは辛いんだよねー……」


 『私たち』という言葉を使っているあたり、他のみんなも私のこと心配しているのだろう。

 でも、だとしても『お姉ちゃんを取らないで』なんてお願いできるわけがない。それは単なるわがままだ。それは友達としての在り方としては間違ってる。だからこそどうすることもできなくなって困ってるんだけど。


「……あっそうだ! じゃあさ、ヒントちょうだい!」 


「ヒント?」


「うん、これからいくつか質問していくから、それに答えて! 答えにくかったらノーコメントでいいから!」


 言いづらいならば、こっちから訊いてある程度察するという作戦で来ましたか。

 なるほど、これなら私にとって言いたくない部分を訊かずに悩みを聞けるってね。


「わかった」


「最近元気がないのは、何か悩み事があるから?」


「うん、そう」


「その悩み事で、今由乃(ゆの)ちゃんは寂しくて不安?」


 なんかこれヒントを出してもらうというより、答え合わせになっているような……もしかして、襟香ちゃんたちはある程度私の抱えている悩みについてもう知っている?


「あっ、やっぱり」


 そんなことを思った矢先、その言葉によってそれが確信に変わった。

 まあ、たしかにこれまでの言動を見ていれば、なんとなく気づけるか。登校や、お昼にやたら2人きりになろうとするんだし。


「ねえ、由乃ゆのちゃん……大好きなお姉ちゃん取っちゃってゴメンね?」


 次に出た言葉は意外なそれだった。嫉妬しているのは私で、しかも悪魔のようにけなしていたにも関わらず、その相手に謝られるなんてこっちの方がいたたまれなくなる。


「えっ!?」


「私もおんなじだから、気持わかるんだ。すっごく嫌だよね? 下手したら怒りまで湧いてこない?」


「う、うん……でも『おんなじ』って?」


「聞いてよー! 亜弥ちゃんったらひどいんだよー! 最近、全然私に構ってくれないで、ずっと由乃よしのちゃんやまりちゃんたちと何かコソコソとやってるんだよー? それでいて、それを亜弥ちゃんに訊いてもはぐらかされるしー、やんなっちゃうよね」


 そうか、そうだった。亜弥ちゃんはサプライズでお弁当作りを頑張っているのだから、当然襟香ちゃんは何をしているか知らないんだ。だから私と同じ境遇で、自分の大好きな人と一緒に入れずに悩んでいるんだ。

 そんな襟香ちゃんに、なんか親近感が湧いてしまった。


「あーその気持ちすごいわかる! なんか冷たくあしらわれてる感じがして、私のことどうでもいいのかなーって思っちゃうよね!」


「ねー、でもね……私は不安ではないんだ」


「え、どうして?」


「だって、私は亜弥ちゃんのことを信頼してるから。きっと私に言えないけど、それは決して悪いことじゃないことをしてるってわかるから。一番大好きな人のことだもん、信じてあげなくちゃ」


「すごい、なんかうらやましい」


 私たち姉妹より深く繋がった素敵な関係。それは決して断たれることなく、しっかりと、もはや絡みついているといっても過言ではないほど、ちょっとやそっとでは離れない。そんな2人を純粋に羨ましく思った。


「へへ、そう言われると照れるなぁー……まあ、私たちは恋人だから、っていう保証があるからかも」


「いいなー」


「そう思うなら、由乃ゆのちゃんもその保証を手にしちゃえばいいんじゃない? それがないから不安だし、嫉妬しちゃうんだろうし」


「でも、どうやって?」


「だから、恋人になっちゃえばいいんだよ! 私たちみたいにさ、そしたら誰にとられようとも『恋人という安心』には勝らないはずだよ」


「そっか、それだ!」


 あまりにも『姉妹』という関係が当たり前過ぎて気が付かなかった。

 私が探していた答えは、意外と単純なものだった。私たちの関係を進展させてしまえばいいのだ。ただの姉妹という浅い関係から、他人が誰も寄り付かない深い関係に。

 そうすれば、もう誰と仲良くしていようが不安になることもない。特別な関係であるという、いわば確証があるのだから。それに恋人であるということで、周りも私たちに気を遣ってくれるだろう。

 さらに言えば、恋人なのだからくっついていても違和感がなく、それのおかげでさらに寄り付きにくくなること間違いなしだ。


「よかった、答えにたどり着いたみたいで」


「ホント、ありがとね!」


 私は襟香ちゃんの手を握りながら、そう心の底から感謝をする。

 一時的でも嫉妬してたのに、都合が良すぎるとは思うが、本当に襟香ちゃんが友達でよかった。そうじゃなきゃ、この答えになんて到底たどり着けてはいなかっただろう。


「いえいえ、これで由乃ゆのちゃんの元気な笑顔が見られれば、私たちは万々歳だよ!」


 よし、これでやることは決まった。

 でもこれにはある1つ重大なことがある。それはお姉ちゃんの気持ちだ。これは一方的な感情ではなく、お互いがお互いを想い合う気持ちが必要になる。

 そのためにも、お姉ちゃんの気持ち探しをしなければならない。でも思いあがりかもしれないけど、きっとお姉ちゃんは私のことを愛していると思う。それでも決して結論を急がずに、ゆっくりと確実に気持ちを確認したい。告白してダメでした、なんて恥ずかしいし、かっこ悪い。

 今日はとりあえず、帰ってくるのを待って、癒されるの優先。気持ち探しは明日からかな。そう心の中で決意し、それから襟香ちゃんと別れ、自分の部屋へと戻った。

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