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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第1章『あやえり』
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3話「ぎこちないふたり」

 問題を残したまま迎えたその翌日。

 私はいつものように制服に着替えて、キッチンで朝食の準備をしていた。

 それに対し、亜弥あやちゃんは今だ寝たままだった。いつものように起こそうかと思ったけど、やっぱり気まずいこともあって、それができなかった。


「――おはよーえり」


 しばらくすると、起床した亜弥ちゃんがパジャマ姿のままキッチンへとやってくる。その声はいつも通りで、何ら変わらない感じだった。


「あっ、おはよう亜弥ちゃん! 体の調子はどう? 学校行けそう?」


 作業の手を一旦止め、具合をうかがう。

 私はあくまでも昨日のことがなかったかのように平静へいせいよそおいつつ、いつものよう対応した。


「うん、大丈夫だよ!」

 

 それに、亜弥ちゃんはいつものような明るい元気な笑顔をみせて返事をした。この調子ならば、今日は学校へ行っても大丈夫だろう。


「そっかよかった」


 その元気な声に胸を撫で下ろす。

 やっぱり亜弥ちゃんは元気な方がいい。だってあの弱った亜弥ちゃんは、どうしても不安になるもん。


「……ねえ、えり」


 そこから少しの間があって、どこか気まずそうな表情をして亜弥ちゃんが私の名前を呼ぶ。


「ん、何?」


 その雰囲気から、間違いなく『昨日のこと』を話し出すのだろうと思った。その心構えをして、次の言葉を待つ。


「昨日の告白は忘れて? 私風邪でどうかしてたみたい……」


 亜弥ちゃんは明らかに引きつった笑いをしながら、そんな事を言ってくる。

 普段のそれとは違う、その笑顔。いつもの元気なそれではなく、どこか切なさやさびしさが混じった笑顔だった。


「亜弥ちゃんは……それでいいの?」


 だから私は亜弥ちゃんに念のため、もう一度確認する。

 これはちょっと亜弥ちゃんを試している部分もある。本当にそう思っているのかどうかを。

 ずっと一緒にいた私ならきっと、わかるはずだから。


「…………うん、いい」


 私の問いに、しばらくの間があって、亜弥ちゃんはうなずく。

 けど、その表情はどこかまだ未練みれんがあるような表情に思えた。本心を心の奥底に閉じ込めて、鍵をかけている、そんな感じ。


「ふーん、そっか……わかった」


 私はそう言って、キッチンの方へと向き直って、止めていた料理を再開する。

 その亜弥ちゃんに示された『逃げ道』に、私の心の悪魔がささやきき、誘惑してくる。そんな自分に罪悪感を覚えた。わかっている、これではダメだって。

 それに、亜弥ちゃんはまだ完全には諦めきっていない。さっき試した時の表情、なんとなく未練がましい顔をしていた。その言葉も、あのもまだ諦めきれないからこそのもの。

 たぶんきっと、亜弥ちゃんはずっと告白する機会を待っていたんだと思う。そしてここにきてようやく、亜弥ちゃんは勇気を振り絞ってやっとの思いでその言葉を出せた。

 だったら、私もそれなりの対応をするべきだと思う。ここで逃げるのはよくない。

 でも、今すぐに答えを出すことはできない。私は亜弥ちゃんへの気持ちがまだ分かっていないから。

 そのためにも今日は一から見つめなおし、自分なりの答えを見つけよう。私は再び気合を入れ直して、決意を固めたのであった。


◇◆◇◆◇


 今日は珍しく、私と亜弥ちゃんの2人きりで登校することになった。

 普段は6人の大人数で、こうやって2人で登校するのは久しくなかったので、いつもなら新鮮な事で嬉しいけど、ただ今日に限っては、それは私にとって不運なことだった。

 寮から学園はそう遠くない。歩いていける距離になる。学園は完全寮制のため、同じように登校している生徒たちがポツポツといた。もちろんその中には私と亜弥ちゃんも含まれる。

 いつもの通学路を2人並んで歩いていく。

 春の陽気で、風はなくなにも羽織らなくてもちょうどいい気温で、とても爽やかな朝なのだが、


「……」


 2人流れる空気がなんといっても気まずい。

 歩いてる最中も、会話がこれでもかというほどない。いつもなら亜弥ちゃんが楽しそうにお話をしてくれるのに。

 昨日からの一件のせいなのか、妙によそよそしい。

 私と隣に並んで歩いているのに、反対の方向ばかり見ながら歩いている。


「今日一限なんだっけ?」


 なのでこの空気から逃れるために、頑張って話しかけてみても――


「数学」


 なんてそっけなく返されてしまう。

 なんだかいつも通りの感じでなくて、こっちまで調子が狂ってしまう。


「数学かー、あっ、数学って昨日もあったから、先に誰かからノート借りないとだね」


 でも私も負けじと会話を続けていく。

 欠席した人の大変なところがこれ。1日の全ての教科で1授業分みんなより遅れをとってしまい、さらにノート提出なんかもあるため、誰かから借りて写させてもらう必要がある。

 仕方のないこととはいえ、一日分のノートを写すなんて、今から気が重い。


「そうだね」


 なんか私がふくらませた話を、針で風船を刺して割るかのように、亜弥ちゃんはまたまたそっけない相槌あいづちで話を終わらせてしまう。

 会話の最中も相変わらず目を合わせてくれず、別のところばかり見つめている。


由乃よしのちゃんあたりに貸してもらおうね」


 根気よく、粘り続けてみるけど、


「うん」


「……」


 あえなく撃沈で、会話しゅーりょー。ダメだ、こりゃ。

 会話が全く長続きしない。

 でもなんとなくだけど、亜弥ちゃんの素振そぶりなんかを見る限り、私を嫌っている、避けているというよりは、気まずくていつもの調子が出ないという感じがする。

 やっぱまだ告白のことが忘れられずに、それ以前の状態に戻れられないのだろう。あるいは、どう接すればいいのかわからないとか。

 いずれにせよ、しばらくは亜弥ちゃんは私に対しこんな感じなのだろうか。調子が狂うのもあるが、ちょっと距離があいたような気がしてなんとなく寂しい。早く私たちの関係がもとに戻って欲しい、と私は切に願う。

 それからも私たちは相変わらず会話は長続きせず、2人で登校する意味があるのかと思えるほど、暗い登校風景となってしまった。

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