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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第3章『よしゆの』
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5話「取り戻すふたりの大切な時間」

「――ただいまー」


 それからどれぐらいの時間が流れただろうか、玄関の方から大好きな声が聞こえてくる。

 まるでエサの時間の犬みたいに自分の心がおどり出し、すぐさま飛び起きてお姉ちゃんが来るのを待った。


「お姉ちゃん!」


 そしてお姉ちゃんが部屋に入ってくるやいなや、私はすかさずお姉ちゃんに抱きついて、そのままベッドへと押し倒してやった。


「ちょ、ちょっと、ど、どうしたの!?」


 突然のことに、戸惑っているお姉ちゃん。

 私はお姉ちゃんの言葉を無視して、強く強くお姉ちゃんを抱きしめ続けた。


「いいから、このままでいさせて」


 お姉ちゃんの温もりを感じることで、またしても心が癒やされていく。

 もはやお姉ちゃんは私にとって、麻薬のようなものになっていた。お姉ちゃんを感じれば感じるほど、それが中毒になる。お姉ちゃんがいなくなると、またそれが欲しくなる。


由乃ゆの……」


 優しい声で私の名前を呼び、お姉ちゃんは私の頭を撫でてくれる。

 いつもの感覚、なんてことないいつもの風景。それなのにも関わらず、私にはとても嬉しいそれだった。撫でられれば撫でられるほど、心が安らぎ、平穏な気持ちになっていく。やはり私はもうお姉ちゃん中毒になっているようだ。


「ねえ、由乃ゆの教えてちょうだい。今日はどうしてわたくしと2人きりになる事にこだわっていたの?」


 しばらくそれを続けた後、お姉ちゃんはきっと一日中疑問に思っていたであろうことを口にした。


「そ、それは……」


 その質問に、私は思わず口をつぐんでしまう。

 はたしてこの問題に対して、お姉ちゃんに言うべきなのだろうか。

 たしかにこのまま言ってしまえば、お姉ちゃんも協力者になってくれるだろう。でも、なんとなくそれはわがままなような気がしてくる。まるで、お母さんと一緒にいたいがために保育園や、幼稚園に行くのをごねる子供のように。


由乃ゆのの本当の気持ちは、言わなきゃわからないわよ? 例えそれがわたくしであってもよ。なんとなくは伝わるけれど、ハッキリとはわからない。私は由乃ゆののハッキリとした気持ちを知りたいの」


「……私嫉妬してるの、亜弥ちゃんたちに」


 その言葉を聞いて、私は話すことを決心した。

 わがままかもしれない。でも、それで少しでも事が解決に導くのであれば、伝えてみようと思う。

 それにこのまま曖昧あいまいなままにするのも、お姉ちゃん的にも気分がよくないだろう。ちょっぴり恥ずかしい、私の抱えている今の想いをお姉ちゃんに伝える。


「嫉妬?」


「最近、お姉ちゃんがみんなと仲良くしてるのを見ると、すごく嫌になるの。それにね、お姉ちゃん全然私に構ってくれなくて、すごく不満足なの。でね、それと同時にすごく不安になるの。お姉ちゃんを取られちゃうじゃないかって、お姉ちゃんがどこか遠くへ行っちゃうんじゃないかって」


「ふふ、ふふふ」


 そんな真剣な悩みを恥ずかしながら打ち明けたのにも関わらず、それを笑う姉がいた。


「あ、笑ったなー!」


 人がせっかくやっとの思いで打ち明けたのに、笑うなんてヒドイ。私は恥ずかしいってのに。


「ふふ、ごめんなさい。あまりにもかわいらしいから」


「むむーこれでも真剣な悩みなんだよっ!」


「ごめんなさい、由乃ゆの。悲しい思いをさせてしまって。でも大丈夫よ、私たちはいつまでも一緒だから」


 お姉ちゃんはさっきとはまるで変わって、真剣な声でそう言い、私を抱き寄せる。

 それに、私の心は再び穏やかになる。


「口ではそうは言うけど、本当にそうなのかな? 私たちって永遠なのかな?」 


「大丈夫よ、わたくしたちが望んでいれば、きっと永遠になれるわ」


「うーん……そう?」


 はたして本当にそうなのだろうか。このままの状態で2人が互いに望み続ければ、私たちは永遠になれるのだろうか。

 私はその言葉にどこか違和感があった。というよりは今の現状のせいで、違和感となったという方が正しいかも。

 このまま望んでいても、やはり外からの妨害ぼうがいでそれが崩壊してしまうような気がする。もちろんこれは私の勝手な予想でしかないけれど、でもなり得る可能性は現状では高いと思う。


由乃ゆのはまだ不安?」


 それを察したのか、お姉ちゃんは私の頭を撫でながら、そう訊いてくる。


「うん、特にお姉ちゃんが他の子たちと仲良くしてるのを見ると、余計に」


「んー、だからといって安心させるために、亜弥あやさんたちと一切関わらないなんてことはできないし。できる限りはわたくし由乃ゆのとの時間を大事にして、できるだけ配慮するから、今はそれで許して?」


「うん、ありがと。ねえ、お姉ちゃん……」


「なあに?」


「今日はずっと一緒にいて? ご飯は隣同士で、お風呂も2人一緒で、寝る時も1つベットでいて。それから寝る時は、私が眠るまで頭撫でて」


 私はまるで子供のように、目一杯の甘えを所望する。

 今日は散々お姉ちゃんをとられたんだから、これぐらい許してもらえるだろう。何度も言うけれど、ここはお姉ちゃんと私だけの聖域なのだ。誰にも邪魔されない最強無敵の聖域。だからこそこの聖域にいられる時間に、目一杯甘えなくちゃ。いっぱいいっぱい幸せを溜め込んだら、負の気持ちにも対抗できるかもしれないし。


「ふふ、由乃ゆのったら甘えん坊ね」


「いいの! 私は元々甘えん坊なの! それに、こうなったのも全部お姉ちゃんのせいなんだからね!」


「はいはい、わかったわ」


 それから私たちは、2人の失われた時間を取り戻すかのように、私はお姉ちゃんに甘えていた。

 一時の安らぎが戻ってきたのだ。私は本当にこの時間がやみつきになる。こうしていると、心が豊かになっていくのがわかる。

 本当にこんな2人の時間がいつまでも続けばいいのにと、私はそう強く思った。

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