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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第3章『よしゆの』
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4話「灰色の世界」

 なんとか2時間の授業を耐え抜き、放課後を迎えた。

 もう私は一気に解放されたような感覚になっていた。これで後はもう帰るだけ、そしたらお姉ちゃんは私1人だけのもの。私は胸を弾ませながら、お姉ちゃんの元へと向かう。


「お姉ちゃん、帰ろー!」


 私らしくなく、少しテンション高めでお姉ちゃんを誘う。


「あ、由乃ゆのごめんなさい……今日これから亜弥あやさんたちと用事があるの。よかったら由乃ゆのも来る?」


 そんな私とは違って、お姉ちゃんはとても申し訳なさそうな顔をして、私の誘いを断った。

 どうやらまた亜弥ちゃんのようだ。一瞬怒りが芽生えるが、それを理性で押さえ込む。

 いけない、亜弥ちゃんは何も悪くないんだから、そんなことを思ってはいけない。


「……いい」


 『絶望』とはまさにこのことを言うのだと、身をもって実感させられた。

 さっきまであったテンションも一気に奈落の底まで落ち込んでしまう。もういっそのこと泣いてしまいたいぐらいだった。私はこみ上げてくるもの、全てを自分の力で必死に抑え込み、それが決して表に出てしまわないようにつとめる。

 ここでそんなことになってしまえば、ただ迷惑をかけるだけ。お姉ちゃんも含め、みんなに迷惑をかけるなんてそんなの嫌だ。私が我慢すれば、それで済むのだから。


「そ、そう? じゃあ、悪いけれど、先に帰ってて。そう遅くはならないはずだから」


「うん……じゃあね……」


「ええ、またね」


 私は亜弥ちゃんたちへの元へと向かうお姉ちゃんの背中を、またしても憂鬱な気分になりながら棒立ちで見送る。

 どうしてこうもみんなは私からお姉ちゃんを奪うのだろうか。段々とみんなが悪魔のように見えてきた。

 いけない、いけないのだ、そんなことを考えては。私とみんなは友達。友好的な関係を築いてきた人たちなのだ。それに色々な面でも、お世話になることもあった人たちじゃないか。そんな人たちをそんな風に見るなんて、恩をあだで返すのと同等の行為だ。

 もう余計なことを考えるのはやめよう。どうせ帰れば、時間がかかるとはいえ、いずれはお姉ちゃんと2人きりになれるのだから。そこは誰も私たちに介入することのできない空間なのだから。というより私がそうさせてやる。鍵をかけて、インターホンが鳴っても絶対に出ない。そうすれば、誰も介入できるわけがない。だから今はとりあえず帰ってお姉ちゃんを待とう。そう決意し、1人で帰ることにした。





◇◆◇◆◇





 たぶん人生で初めて1人で帰る退屈な帰り道。

 どうしてなのだろうか、いつもの歩き慣れた道なのに、もう見慣れすぎてて飽き飽きしているぐらいの道なのに、こんなにも1人で歩くと違って感じるのは。まるで世界に色が無くなったかのように、何もかもが色(あせ)せて見える。天気が曇っていて暗いからだろうか、それとも私の心が暗いからだろうか。それと同時に、帰宅するまでの時間がものすごく長く長く感じる。それはもう永遠のように長く、いくら歩いても歩いても、まだまだ寮には辿り着かない。いつもならば、お姉ちゃんとの会話であっという間なのに。


「はぁー……」


 そんな状態に、思わず溜息ためいきをついてしまう。

 だけれどそれでも心は軽くならず、むしろ重くなる一方だった。ここまで落ちてしまうと、色々と考えなくていいことまで頭に浮かんでくる。

 本当は私と寝るはずだったのに、それを奪う亜美あみちゃん。お姉ちゃんの料理は私だけの特権だったのに、それをみんなのものにしちゃった襟香えりかちゃん。最近やたらと私のお姉ちゃんを奪っていく亜弥ちゃんとまりちゃん。


「あーダメダメ!」


 みんなが悪魔にしか見えなくなってくる。私はそれを必死で振りほどき、消していく。わかってる、こんなことを考えちゃいけないのは。

 でも、だったらどうすればいい? どうすればこの私に溜まりに溜まった負の感情を無くすことができる?

 『お姉ちゃんに頼る』という手もあるけど、それではますますお姉ちゃんへの依存が高まっていく。だからこそ、お姉ちゃんが他の人に取られたらさらに多くの負の感情を味わうことになる。それは昼休み終わりに散々味わわされた。あの時の苦しみは、今までの比じゃなかった。

 でもだからといって、みんなにあたるわけにもいかないし、お姉ちゃんを独り占めなんて夢のまた夢だし……そんな結論の出ない考えが私の頭の中でぐるぐると回っていた。


「はぁ……」


 ――幸か不幸か、そんな考えごとをしていたら意外にも早く寮に着いてしまった。

 私は自分の部屋へと足早に向かう。そして部屋に入ってから着替えもせずに私はベッドへ突っ伏した。もう何も考えたくない。みんなをけなすようなことも、お姉ちゃんを想うことも私を苦しめるだけ。だったらもういっそのこと何も考えないのがきち

 どうせ、ここで待っていればお姉ちゃんがやってくるのだ。今はその時をじっと待っていよう。もう私はお姉ちゃんに甘えることにした。

 もうどうなってもいいや、あの幸せが味わえるなら。この心に残る重く暗く厚い雲が晴れていくなら、なんだっていい。それがどんなに一時しのぎにしかならなくたって、お姉ちゃんからもらう幸せの誘惑には勝てない。

 だから私はお姉ちゃんが帰ってくるのを、ひたすらにそのままの状態で待ち続け、時が流れていくのを待っていた。

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