3話「天国から地獄へ……」
だが、そんな幸せな時間はそう長くは続かなかった。教室に戻った後、すぐさま私の中から負の感情が湧き上がった。
というのも、私たちが戻るやいなや、亜弥ちゃんたちにお姉ちゃんを奪われてしまったからだ。何か訊いている様子だが、私の席からではよくわからない。お姉ちゃんのところへ行ってもいいが、それだと余計にこの負の感情が増しそうなのでやめた。
最近こんなことばっかだ。亜弥ちゃんたちは何かにつけては、お姉ちゃんを取って行ってしまう。そのせいで、さっきまであった幸せの感情が一気に吹き飛んで、消えてしまいそうなくらいに内から負の感情がこみ上げてくる。私はそれを抑えようと、とりあえず机に突っ伏す。
お姉ちゃんと2人きりでいたい。
お姉ちゃんを独り占めしたい。
お姉ちゃんを私のものにしたい。
お姉ちゃんと永遠になりたい。
私の内から欲望がひしひしと湧き上がってきた。思いがけずそれが外に出てしまわないように、私は必死でそれを抑えた。グッと堪えて我慢した。
そうだ、後ろ向きに考えるから、悪い考えがたぎってしまうのだ。逆に、前向きに物事を考えてみよう。
後2時間授業をすれば、帰宅できる。
そうすれば、お姉ちゃんと2人きり、独り占めできる。
お姉ちゃんに思いっきり甘える事ができる。
誰にも邪魔されず、誰にも真似できない2人だけの時間が待っている。
むしろこの2人だけの時間は、私に与えられた特権。
つまり、この時間は私にしか味わうことはできないのだ。
私は特別な存在。そう私は誰とも違う、お姉ちゃんにとって唯一無二なる存在なのだ。
私は必死で前向きなことだけを考え続け、心を落ち着かせ、こみ上げてくるものを抑えることに成功した。とりあえず、後2時間でお姉ちゃんと2人きりになれるのだから。またその時には幸せな時間がやってくるのだから。
どうか神様、このまま何事もなく放課後を迎え、2人きりで帰らせてください。
私は祈るような思いで、次の授業の準備を始めていた。