2話「お姉ちゃんとの心地の良い時間」
午前の授業を終えて、お昼休みを迎えていた。
私は早速お弁当を持って、後ろの席のお姉ちゃんの元へと早足で向かっていく。他の人にとられてしまわないようになるべく急いで。
この時ばかりは私が前の席だということを悔やむ。お姉ちゃんとの席が遠いから。黒板が近くて、前の人の頭で見えなくなるってことがないからそこはいいんだけどね。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「今日は2人きりでお昼食べようよ!」
「またぁ? どうしっ……あっ、まさか、襟香さんたちと何かあったの?」
そんな私の提案に、お姉ちゃんは深刻そうな顔をして、私に変な勘ぐりを入れる。
「ううん、なんにもないよ」
まさか、そんなことがあるはずがない。亜美ちゃんとまりちゃんならまだしも、私と誰かに何かが、って事はありえるはずがない。そんなことが起こる要素がまるでないし。そもそも私にする気が全くない。
「じゃあ――」
「2人で食べたいの」
お姉ちゃんの声を遮り、真剣な表情をして、私はお姉ちゃんの目を見つめて訴える。
私はただ2人で食べたい、それだけのこと。それ以上でもそれ以下でもない。これは嘘偽りのない、本心。
「……わかったわ。で、どこで食べるのかしら?」
そんな真剣な表情の私に根負けしたような感じで、でもオッケーを出してくれるお姉ちゃん。
「うん、裏庭にいい場所があるんだ、そこいこ!」
そしてそう言いながらも、私はもう既にお姉ちゃんの手を取り、さっさとこの教室から出ていこうとしていた。
すぐ近くには襟香ちゃんたちもいるんだし、早く逃げなきゃ。
「ちょっと、そんなに急がないの!」
私は気持ちが思わず弾んでしまい、お姉ちゃんを引っ張る形になっていた。もちろん取られてしまわないようにする意味もあるけれど、それ以上にやっぱりお姉ちゃんとの時間が嬉しかった。グループの中の2人の時間ではなく、2人だけの時間を過ごすことができることがこの上なく嬉しい。それが朝の登校する時にわかった。
もちろんやり方が強引なのは百も承知だ。でも、今私が抱えている不安や、恐怖を癒やしてくれるのはやはりお姉ちゃんなのだ。お姉ちゃんといれれば、そんな不安や恐怖なんてものは忘れられる。その上、これ以上の不安が募ることがなくなる。だから私はお姉ちゃんと共にいたい。
「――ここ、ここ!」
それからしばらく走って、辿り着いた場所は体育館の裏側のベンチ。
誰がしたのか、意外にも人の手入れが行き届いていて、そのベンチはキレイ。しかもこんな場所、わざわざ好き好んで人が来るわけがない。つまり2人きりになれ、なおかつ誰にも邪魔されない空間はここしかないのだ。
これで、お昼休みの間だけでもお姉ちゃんを独り占めできる。
「へー学園にこんなところがあったのねぇー」
お姉ちゃんも知らない場所のようで、感心している様子。
「さあさあ、食べよう!」
私はそう言って、お姉ちゃんをベンチに座るように催促する。
「ええ、そうね」
そう言って、私たちは昼食の準備を始め、食べ始める。
「お姉ちゃんの料理はおいしいね」
「そう、ありがとう」
私の珍しいその言葉に、嬉しそうな顔をみせるお姉ちゃん。その嬉しそうな顔に、私の心が癒されるのがわかった。
やっぱりお姉ちゃんとのこういう時間が私にとって、とても幸せな時間になる。私はそんなお姉ちゃんから幸せをもらいながら、昼食を食べていた。
「――あら、どうしたの急に?」
それから昼食を食べ終えた後、2人でボーッと過ごしていた。そんな折、私はお姉ちゃんの左腕に抱きついてみる。理由は、もっと幸せが欲しかったから。たぶんこうしていればもっと幸せを感じれるはずだから。
「このままでいさせて」
その思惑通り、ただ抱きついているだけなのに、ものすごくそれが幸せに感じた。それだけで心は穏やかになり、さっきまで感じていた不安や心配が本当に嘘のように消えていった。
「ふふ、変な子ね」
ここは人がいないからか、それとももう慣れてしまったからか、お姉ちゃんはそれを制止するようなことはしなかった。それどころかお姉ちゃんはなんと、私の頭をあいている右手で撫でてくれたのだ。それによって更に私の中から幸せが溢れ出していく。まるで天国にでもいるような気分に苛まれる。本当に幸せで温かい時間だった。この時間がいつまでも、ずっと続けばいいのにと思ってしまう。
「――あ、チャイム……さあ、そろそろ戻りましょうか」
それからしばらくの間、その状態が続き、私は幸せな時間を満喫していた。
だが、それに終わりを告げるまさに鐘の音が鳴ってしまった。
「えっ、もう!?」
まだ全然時間が経っていないような感じがしていたのに、実際にはもう結構経っていたようだ。楽しい時間は過ぎるのが早いとは言うが、まさにそれだった。少し、というかだいぶ名残惜しいけれど、しかたない。私はそう諦めて、お姉ちゃんから離れ、お弁当をもって教室へと戻っていった。もちろん帰る途中でもちゃんと手を繋いで行く。だって、戻る僅かな時間でもあの幸せを味わいたかったから。それほどまでに私は幸せに飢えているみたいだ。