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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第2章『あみまり』
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18話「仲直りのはずが……?」

 放課後、自分たちの部屋にて。いつかの日みたく、私と亜美は向かい合わせで座っていた。

 そしてその時と同じように、沈黙の時が流れている。

 でも、今回は1つ違う。亜美あみの表情が穏やかだということ。だから私も話を切り出しやすかった。


「ねえ、話す前に……さ、こっちおいでよ」


 私は照れながらも、手招きして亜美をこちらへ呼ぶ。


「え? こっちって?」


「私の隣。近くで話したいから」


「う、うん……」


 言われるがままに私の隣に座る亜美。久しくこの距離を味わっていなかったので、とても新鮮で、でもどこか懐かしい感じがした。


「本題に入る前にさ、話したいことがあるんだ」


 ふと横を見ると、緊張している様子の亜美。亜美にとっても私の隣は久々、だから緊張しているのだろうか、目が泳いでる。


「知ってる? 私たちの名前ってアナグラムなんだって」


「アナグラム?」


 亜美はやはり知らないのようで、不思議そうな顔をして私の言葉を復唱する。ならば、亜美も自分の親からあの事を聞いていないっぽい。


「つまり、私の名前をローマ字で入れ替えたら亜美の名前になるってこと……ほら、『Aisaki Mari』と『Ikarasi Ami』でこうやって使われている文字を合わせるとピッタリでしょ?」


 私は簡単に説明した後、紙に間を空けて縦に自分たちの名前を書き入れ、線で引っ張って文字同士を繋げていく。


「ホントだ!」


 アナグラム初めての亜美は、ある種の感動にも似たような声で驚いていた。


「だからってわけでもないんだけどさ、私たちはそれほどに名前で縛られているぐらいになくてはならない存在なんだよ。今回のことでわかったよね? だからさ、仲直りしよう? 今回はどっちも悪かった。だからお互いが同時に謝ろう?」


「うん、そうだね。いっぱいお互いがお互いの悪口を言っちゃったしね」


 そう言うと、私たちは言葉にしていないのに、互いが自然と正座になる。


「せーのっ」


「「ごめんなさい!」」


 そして息を合わせてから、互いに同時に深々と礼をして謝罪をする。


「ふふ」

「へへー」


 謝罪が終わって、頭をあげると自然と互いは見つめ合う形となり、自然と笑みが溢れていた。これで晴れて、私たちは仲直りを成し遂げることができた。

 そのことが嬉しくて、嬉しくて、自然と心から優しくて温かい気持ちが溢れ始めた。


「私たちいい友達をもったね、亜美」


 これだけ私たちのことを真剣に考えてくれて、どうにかしようととしてくれる友達。本当に感謝するばかりだ。たぶん、私たちだけだったら、絶交したまま終わっていたと思う。


「うん、最高の友達だね」


 亜美は満面の笑みをして、返事をする。この笑顔をみて、仲直りしたことに実感が湧いて、再び私の心に嬉しさが湧き出てくる。


「これからいっぱいいっぱい恩返ししないとね」


 してもらってばかりではいけない。こちらもどういう形であれ、お礼をしなければ。まずは亜弥ちゃんに料理を教えてあげることからだろうか。


「うん、後、まりにも!」


「ふふ、じゃあ家事できるように頑張ろうね。私も数学も頑張るから」


「うっ、そ、それは……」


 痛いところをつかれ、ちょっと困り顔をする亜美。

 でもなんとなく思うに、それは案外亜美の食わず嫌いなような気がする。意外とやってみればちゃんとできる子だと、私は思う。


「もう、ふふ。ちょっとずつでいいから、最初は私のお手伝いでもいいしさ」


 何も最初から1人でやれという訳ではない。最初の内は私と一緒にやっていけばいい、それで慣れていければ次第に1人でできるようになるはずだから。


「う、うん! 頑張る!」


「後さ、よかったらお菓子作りも教えて?」


「うん、私の腕前でよければ、だけど」


「亜美から教えてもらえるから嬉しいし、頑張れるんだよ」


 やっぱり勝手が分かっている亜美が一番私の先生としてはいい。それに一緒にやるというのがミソだ。1人だとどうしても寂しいし、何より自分の成長が自分で判断がつかない。


「ふぇっ!?」


 突然のそんなセリフに驚き、頬を赤らめる亜美。


「ふふふ、よし、じゃあ荷物持ってこよっか。」


 そんな姿は長年一緒にいる私でも珍しいそれで、可愛らしくて、つい笑みが溢れてしまう。なんとなく約得だなと思いつつ、私は立ち上がり、襟香ちゃんたちの部屋へと歩を進めようとする。


「……まり」


 だが、それを亜美は私の袖を引っ張って制止する。


「何?」


 突然に引っ張られ、しかもその声がとても真面目だったので、どうしたのかと心配になり、顔を亜美の方へと向けた、すると――


「んっ……んんッ!?」


 いきなり顔が目の前に現れたかと思ったら、なんとそのまま私の唇が奪われてしまった。

 正真正銘、まだ誰にも奪われたことのないその唇を。

 初めての感触も味も、その唐突の出来事に混乱してしまい、味わっている暇もなかった。


「……な、なななな、何してんの!?」


 頭の中真っ白で、いてもたってもいられない状態で、まりにその真意を問う。


「私たち結婚しようよ」


「はっ!? はぁあ!?」


いきなり突拍子もないプロポーズをされて、私はどう反応していいかすらわからなかった。というかこのおバカの思考についていけない。


「だって、私たちはお互いがいないと生きれないんだよ? どちらも欠けることのできない存在なんだよ? それってもう友情の絆とかを通り越して、愛だよ! お互いが気づいてないだけで、私たちはお互いのことを愛しているんだよ!! だったら結婚してもいいでしょ?」


 まるで演説するかのように、身振り手振りで熱弁し、理由を述べる。


「だからっていくらなんでも階段を飛ばし過ぎ! 付き合ってもいないのにいきなり結婚なんて!」


「いいじゃん、大して変わらないよ」


「ていうか、この学園の校則で結婚なんてできないでしょ!」


「むぅーなんでそんなに否定するかなーもしかして私のこと嫌いなの? 私の勘違いだった?」


 亜美は悲しい目をして、そんなズルい質問をする。


「そ、そうじゃなくて……」


 『嫌い』なんてことは絶対にない。本当に嫌いだったらこんなにずっと一緒にはいない。むしろ、その想いはたぶん――


「ねえ、はっきり言ってよ、私のこと好き?」


 私が答えに戸惑っていると、亜美は私を抱き寄せ、耳元でそんな言葉を囁いてくる。


「……す、好き」


 いよいよ逃げられない状況に追い込まれ、私は小声で本音を語る。

 あのキスで私は気付かされていた。前に、襟香ちゃんには好きだと確信を持つためには『キスでもすれば』と正直なところ冗談でいったけど、思いの外、言い得て妙だったようだ。

 心が今までにないくらいにドキドキしている。でも、嫌なドキドキじゃない、幸せなドキドキ。


「え、聞こえないなーもっと大きく」


 せっかく本音を言ったのに、亜美はわざとらしく聞こえないフリをしてもう一度言わせようとする。この抱き合っている距離なら、絶対に聞こえてるはずなのに。亜美はズルい。


「あーもう、好き好き! 大好き! もう私は亜美なしじゃ生きられないです!」


 私はもうヤケクソになって、自分の想いをありったけ亜美にぶつける。顔が火照っているからか、体が熱い。言い過ぎかもしれないが、沸騰しそうな勢いだ。


「よく言えましたー! じゃあ、今度はまりからしてほしいなぁー」


 私の頭を撫でながら、そんな無理難題を言ってくる亜美。


「う、うぇ!? そ、そそ、そんなの……無理だって……」 


「もうまりったら、うぶなんだからぁー……してほしいなぁー」


 とろけそうなぐらい甘い声で私を誘惑する。でも今の私はそれに乗ってしまうぐらいに、愛に溺れていた。


「んっ……はい、これでいいでしょ?」


 だから今度は私から、その愛しの唇に軽いキスをしてあげる。

 ホントのことを言えば、もっと長いキスをしてみたい。

 けれども、今の私はそんなことをしたら歯止めがきかなくなってしまう。だから今日はここまで。


「えー短いー! もっと!」


 まるで子供のように、亜美はキスのおねだりをしてくる。


「……もうダメ! 1日1回限定!」


 私はなんとか理性を取り戻し、そのおねだりを却下する。もう既に2回している気がするが、気にしない。


「ちぇー……」


「亜美の気持ちはわかった。でも、やっぱり結婚は急ぎすぎ! 私たちにはまだまだたっぷりと時間があるんだから、今は恋人まででってことにしよ?」


「……しょうがないなーまりがそこまでいうなら、そうする」


「うん、わかったならよろしい」


「そうだ! 恋人になったんだから、初デート行こうよ!」


 亜美は目をパーっと輝かせ、初デートの提案をする。


「いいねー、亜美はどこ行きたいの?」


「遊園地! お昼はもちろんまりのお弁当ね!」


「はいはい、何かリクエストはある?」


「えーとねー――」


 こうして私たちは何とか仲直りをする事ができた。しかも、恋人になるというおまけ付きで。

 しかし私たちはそう遠くない未来にまた喧嘩することになるだろう。もう既になんとなくそんな予感がする。でも、それが私たちらしさであって、だからこそ私たちの仲は続いているんだと思う。

 まさに『喧嘩するほど仲がいい』を体現している私たちだと、そう思う。

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