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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第2章『あみまり』
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14話「説得失敗」

Φ


 襟香えりかちゃんたちがどこからか戻ってきた後、2人の様子がどこかおかしい。

 明らかに私を意識したような感じで、チラチラとこちらを見ては、目が合うとすぐにらしてしまう。これは確実にさっき出かけていた時に、私関係で何かがあったのだろう。


「ねえ、まりちゃん? 亜美あみちゃんにもう一回だけ謝る気って……」


 ようやく話を切り出した襟香ちゃん。予想通り、それは私関係の話であった。

 でもその顔は、ダメ元で訊いているようなそれだった。


「ないよ。あるわけないでしょ?」


 あんな仕打ちを受けて、もう一度謝りたいという人はいないだろう。

 もう一度やったって同じ結果になるのだから、意味がなさすぎる。


「だよねー……でもそこをなんとか、寛大かんだいな心で……!」


 襟香ちゃんはよっぽど仲直りさせたいのか、手を合わせて私にお願いする。


「ごめん、いくら襟香ちゃんたちの頼みでもムリなものはムリ! もう絶対にアイツとは口を訊いてやらないんだから!」


 それでも謝りたいという気にはならなかった。というかもう吹っ切れて、仲直りしたいという気持ちが微塵みじんもない。だってもう既に1人で歩んでいくと決めたのだから。


「そっかー……」


 襟香ちゃんはその答えに、悲しそうな表情を見せる。


「ああ、そんな悲しそうな顔をしないで。いずれは私たちはこうなる運命だったんだよ。溜まっていたツケが今になって爆発した、それだけのことなんだって」


 結局のところ、積もり積もった不満や苛立ちが巨大な爆弾となっていって、実際いつ爆発してもおかしくなかったのかもしれない。たまたまあのゲームの一件が起爆剤になったというだけで、それがなくてもいずれは爆発していただろうし。だからむしろ爆発してよかったのかもしれない。新たなる道が私には見えたのだから。


「んー、私は決して2人は終わる運命じゃないと思うけどな。それにね、まりりんは知らないと思うけど、あのケンカした後、あーみん泣いて帰ってきたんだって」


 私の言葉に、亜弥ちゃんは横からそう意見を述べる。そして、意外な事実を聞かされる。


「ふ、ふーん」


 それに内心では驚きつつ、でもそれを表に出さないように平静へいせいよそおう。まさか、あの後で泣いていたなんて思いもしなかった。

 むしろ怒って、由乃よしのたちに私の文句ばっか愚痴ってるものだと思ってた。だからその事実はすごく意外で、まさに『動揺する』という状態がふさわしい私だった。


「きっとこれって本当に仲(たが)いしちゃったから、泣いちゃったんじゃないかな?あーみんだってきっとこの関係を望んではいなかったと思うよ」


「私が謝った時に、勝ち誇ったような顔してふんぞり返ってたアイツが?」


 あの言動で、とても本心ではこんな状態を望んではいなかったとは思えない。むしろ、私が屈服したことに喜んでいただけだと思う。……でもそう考えると、アイツもアイツで私が屈服して言いなりになる未来を望んでいたわけだ。

 つまりどういう形であれ、ケンカした状態でなくなることを望んでいたわけだ。その理論で行くと、案外亜弥ちゃんの言ってることは正しいのかもしれない。


「それもさ、結局見栄っ張りなんだよ。本心では仲直りしたいって思ってるよ。このまりりんのいない生活を送って、どれぐらいかはわからないけど、まりりんの大切さがわかったと思うし、もう大丈夫だよ」


「それでも、私はもう決めたから、1人で生きてくって。むしろ、このまま依存している方が危ないよ。大学とか大人になって離れ離れになったとき、自立できてなきゃダメでしょ? そもそもこの学園はそのためにあるんだから」


 仮に仲直りができたとして、そうなったらまた互いが依存した状態に戻るというわけだ。これがずっと続いて、いつか2人がどうしようもない理由で1人になる日が来た時、私の方はまだ何とかなるかもしれないけれど、アイツの方は大問題になる。

 家事も出来ない、料理も出来ない、しかも1人で眠れない。これじゃまともに生活できない。

 アイツのためにも、私の依存を断ち切った方がいいと思う。そのためにももうここで関係を終わらせたほうがいいんじゃないかな。


 そもそもこのリリウム学園は生徒の自立をうながすために作られたんだし、だからこそ寮ではなるべく自炊になってるわけで。

 だったらその意に反しまくってる亜美、そうさせてしまっている原因の私ってダメダメな生徒なわけで。だからこそ、もっと亜美に自立できるようにしてあげないと。


「本当にそれで後悔しない? 勢いに任せて判断してない? 一度冷静になって考えて。まりりんは物事を冷静に判断できる人だと思うよ。それでも同じ結論が出るならもう私たちはそれに従うよ」


「もし同じ結論なら諦めるってこと?」


「うん、そうだね。でも、私は信じてるから、まりりんのことを」


 亜弥ちゃんはまっすぐな目をして、私にそう告げる。

 その瞳から嘘偽りのない、真実の言葉だというのがわかった。


「わかった。ちょっと考えてみるよ」


「うん、ありがと――」


 正直な話、後悔していなかと言われれば、ハッキリと『していない』とは言えなかった。

 だって、私自身、その答えに対して自信が持ててないから。私の判断は言ってみればその場しのぎで、後のことをまるで考えていないからだ。私がいくら自分の欲を克服しようたって、それが絶対にできる『保証』や『確証』はどこにもないから。もしかしたら克服できるかもしれないし、できないかもしれない。それは神のみぞ知ること。だからこそ、今はこの判断と並行して冷静になって考えてみようかと思う。もしかしたらその結果、もしかするかも……

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