11話「吹っ切れたまり」
「――お、帰ってきたーどうだった?」
部屋に入ると、期待したような顔で玄関に向かってくる亜弥ちゃんたち。
私はそれに気まずさを感じながらも、顔を横に振る。
「あれー? どうして?」
その返答に納得のいかない様子の2人。
「とりあえず、中で話そ」
「う、うん……」
神妙な面持ちで2人は私を迎え入れる。
その姿に、どうしても気まずく、重たい空気が流れる。でも逆にその空気のおかげか、頭が冷えて、冷静さを取り戻しつつあった。
「――で、なんでダメだったの?」
とりあえず中へと入りみんなが座った所で、少し話しにくくはあるが、事情を説明する。
「えぇ……どうしてそうなったの」
事情を聞いた襟香ちゃんは、呆れた様子で私にそう訊いてくる。
「いやーその、なんというか、つい売り言葉に買い言葉って感じで……」
正直、自分でも驚くほどにキレていた。今いざ冷静になってみると、ちょっと言い過ぎたような気もする。
でもやっぱりアイツのことを考えると、これぐらいで丁度よかったのだろうと思い直す。実際、素直に謝らなかったアイツが悪いわけだし。
「まりりんが大人になれば、解決できたのにねぇー」
「でも! 私が下手に出たら、アイツが調子に乗って偉そうにするんだよ!? それをみすみす見過ごせる!?」
いくら大人になれとは言え、あれは流石に看過できない。
あんなのと仲直りするぐらいなら、もう関係を終わらせた方がいいに決まってる。
「はぁー……こりゃダメだ」
ほとほと私の怒りに呆れたのか、両手を挙げて諦めムードの亜弥ちゃん。
「ダメ、みたいですね、亜弥ちゃん」
襟香ちゃんも襟香ちゃんでそれに乗って、同じようなポーズをとる。
「いいの! これで逆に吹っ切れたわ。もう二度とアイツなんかと仲直りしない! だから落ち着いたら、この部屋からも自分の部屋に戻るね」
これで心のわだかまりが解けた。スッキリした気分になれた。
アイツとはもう関わらない、私1人だけの新たな人生を歩んでいこう。それでアイツがどうなったって私の知った事か。
「え、まりちゃん戻っちゃうの?」
「うん、これ以上迷惑かけるわけにも行かないし、そもそも冷静に考えてみたら、これってどっちか1人が出ていけば、残った方も自動的に1人になるんだから、わざわざ2人が別々の部屋に行く必要なんてなかったんだよ!」
私は別に家事はできるから、お世話欲以外で襟香ちゃんたちに依存する理由はないのだ。
だから別に1人でも、やろうと思えば生活できるのである。その方が2人の関係の邪魔をしなくていいし、迷惑をかけることもなくなる。
「まあ、たしかにそうだけどさ……それだとまりりんはお世話できなくなっちゃうけど、いいの?」
「うん、だから落ち着くまでここにいるの。お世話したい欲にかられるなら、それを克服しちゃえばいいんだよ!」
「あーなるほどねー、まりちゃんがその欲をここで抑えて、そうしたい欲が沸かないように特訓するんだ」
まさに襟香ちゃんの言ったとおりで、ここで襟香ちゃんに完全にまかせて、自分はその欲求を抑え続ける。そうすればいつかはそれに慣れ、一人立ちできるようになるという算段だ。
「そういうこと! まあそれに別にアイツだけにお世話することが全てじゃないしね。やろうと思えば、襟香ちゃんたちにお世話してあげることだってできるんだから! 後は……数学だよねー……」
「そうだよ! それはどうするの? あーみんとはもう話さないっていうんなら、数学の教師は誰が?」
「んー今のところ候補は由乃ちゃんかなーあっちサイドの人だけど、何かと頼りにはなるし」
何かと万能な由乃ちゃんならなんとかしてくれるはず。
別にあっちサイドだったとしても、呼び出すなり学校で2人きりになるなり、いくらでも方法はあるのだからなんとか対応はできるだろう。
「そうだね、えりがダメなら、もうよっしぃーぐらいだもんねー」
「まあ、そこはおいおい考えるとして、改めてお世話になります、よろしくお願いします!」
それに若干引いている2人だったが、私はそれを無視して普段の生活へと戻る。
むしろ今回のことはよかったように思える。アイツとの関係、今まで抱えていた不満、そういった全てを吹っ切ることができたのだから。
ただ、まだ問題は山積みだ。6人が実質分断されているから、櫻井姉妹ともあまり仲良くできなくなってしまうし、さっきいった数学の問題、櫻井姉妹にお世話になりっきりなアイツの生活費の問題や縁は切ってもルームメイトではあるということ。
ルームメイトに関して言えば、部屋替えはそう簡単にはできないし、そもそもその相手がいない。といったように様々とあるけれど、とりあえず今は時間をかけてゆっくりと解決していこうと思う。
ああ、これから1人で気楽な生活が送れると思うと、心が晴れる。そのためにも、早いところお世話欲を克服しなければ!