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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第2章『あみまり』
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8話「他の家庭で生活するということ」

 由乃よしのたちの部屋で目覚める朝。その見慣れない景色がとても新鮮だった。そんなことを思いながら、私はベッドから起き上がり、伸びをする。


「昨日は眠れましたか?」


 私が起きたのに気づいたのか、由乃よしのはこちらにそんな言葉を投げかける。


「うん! 由乃よしののおかげでぐっすりだったよ、ありがとう!」


「それは幸いです」


「あれ? 由乃ゆの、なんか不機嫌そう。何かあった?」


 ふと横を見ると、座っていた由乃ゆのの様子がおかしい。朝だからというわけではなく、本当に機嫌が悪い、そんな感じがした。


「なんでもない」


 どこかいじけたような表情をみせている由乃ゆの


「なら、いいんだけど……」


 これ以上この話を深く掘り下げても無駄だと思い、そう言って話を切り上げる。

 たまには機嫌が悪い日ぐらいだってあるし、それが今日なのだろう。そういうことにしておこう。


「ちょ、朝食にしましょう!」


「あ、ああ、うんそうだね! じゃあ、顔洗ってくるよ!」


 そう言って私は洗面所の方へと歩き出す。


「――じゃあ、いただきまーす」


 それからみんな準備が整い、揃ったところで、私はそう言って朝食を食べ始める。


「いかがですか?」


「いつもながら、おいしいよ! おいしいんだけど……」


 由乃よしのの料理は本当においしい。

 アレの料理とは、比べる事自体が間違っているほどにおいしい。

 だけど、私にはその料理に少し不満があった。私は伏し目がちに相手の様子をうかがいつつ、そう歯切れ悪く返答する。


「おや、何か嫌いなものでもありましたか?」


 その私の様子に思いを察してくれる由乃よしの。その言葉のおかげで、話しにくくなくなった。流石さすが由乃よしの、気が回る優しい人だ。


「あーうん、私ブロッコリー苦手なんだよねー」


「なんと、そうだったのですか! 申し訳ありません!」


 その事実に心から申し訳なさそうに、深々と頭を下げ謝罪をする。


「いやいや、言わなかった私が悪かったんだから! だからさ、どっちか私の分も食べてくれない?」


「では、ここはお詫びの意味を込めて、わたくしが頂きますね」


 そう言って由乃よしのは私のブロッコリーを箸で取り、口に運ぶ。 


「ありがとう。あとさ、ちょっと図々しいこと言っていい?」


 だが、作ってくれた由乃よしのには本当に申し訳ないが、実は不満はまだあった。なのでその流れで、ついで程度に伝えてみる。


「ええ、何でしょうか?」


「目玉焼きも半熟の方が好きだったり……だから、できれば次からそうしてくれると嬉しいなぁーなんて」


「あぁっ、度々申し訳ありません!」


 申し訳なさそうな顔をして私に謝る由乃よしのの図を見て、私の心が痛む。

 結局、居候いそうろうがわがまま言っているだだけだし、何もしていない私が言える立場じゃない。でも同時に『まりだったら』と考えてしまう自分がにくい。

 あんなわからず屋のことなんて忘れたいのに。にもかくにも、新居に慣れるまではまだまだ時間がかかりそうだ。


「いやっ、本当なら自分でやれって話なんだけどね。私料理出来ないからさー……お菓子なら作れるんだけどなぁー」


「でも人には向き不向きがあるし、無理にやろうとすることはないんじゃないかな? まだ初日なんだし、どれだけ続くかはわからないけど、次第に馴染んでいけばいいんじゃない? 私たちは別に亜美あみちゃんの生活に合わせることに嫌ってわけじゃないから」


 そんな私にフォローを入れてくれる由乃ゆの。その優しい気遣いが今の私にはすごく嬉しかった。とくに居候させている人からそう言われると、すごく助かる。


「それもそうだね、ありがとう由乃ゆの


「それにしてもお姉ちゃん! この状況を楽しんでない?」


 いぶかしむような顔をして由乃ゆのはそう姉に問い詰める。


「あら、気づいた? だって、これってまるでお姫様の世話をするメイドになった気分で、面白くて」


「お姫様って……お姉ちゃんそれ思いっきし亜美ちゃんが『わがまま』って言ってるようなものだよ」


「私、やっぱりわがままだよね……」


 その言葉にだいぶショックを受ける。私自身だって、正直そう思っているのだから。

 それをハッキリと言葉で言われると、心に刺さるものがある。


「いえ、違うのですよ、お姫様! 決してもっと言うと、子供を育てる親の気分になってるだなんて思っていませんから!」


 完全にメイドの役になりきって、昨日のことをぶり返してくる由乃よしの由乃よしのってこんなにも茶目っ気があったんだと気付かされる。この事件で案外、友達の知らない一面が見れた気がする。


「あ、それまた言った! もう!」


 ただし、その発言は許さない。子供じゃないもん!……たぶん。


「ふふふ、冗談はこれぐらいにしておいて、私も気にしておりませんから、なんでもおっしゃってくださいね」


「うん、ありがとっ」


 由乃よしのにしてやられて、悔しい気持ちで、そっけなく感謝の言葉を述べる。

 とにかく今は時間をかけて慣れていけばいい。そんな急に共同生活を始めて最初から全部が合うわけじゃないんだから。時間が進む中でうまく調整していけばいいんだ。だからとりあえずは合わせることを努力しよう。

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