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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第2章『あみまり』
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6話「満喫する亜美」

「――なんか3人でこうして出かけるのってなんか新鮮だね」


 向かう道中。ふと、私はそんなことを思い、口にする。いつもは少なくてもアレがいるから4人で、こういうシチュエーションもなかったから、正真正銘の初めてだ。


「そうですね。なんとなく不思議な感じがします」


「いつもは偶数だもんねー」


亜美あみさん、ゲームセンターはここから遠いのですか?」


「ん、まーそこそこ……かな? 駅の近くだから」


「じゃあ、バスに乗って駅に?」


「うん、そう。時間調べてないけど、まあ多分あるでしょ」


 そんな気楽に考えながら、私たちはバス停へと向かう。流石に駅行きのバスなんていっぱいあるだろう。今日はアレのことなんて忘れて、パーッとしよう。



◇◆◇◆◇



 ゲームセンターに着いて、早速、私たち3人は中へと入ってく。由乃よしのは興味津々なようで、あちこちを見渡している。


「ここがゲームセンター……結構騒がしい場所ですね……」


 ゲームのある場所へと行くと、慣れない場所に戸惑っているようだ。


「まあ、うるさいっちゃうるさいよねーでもすぐ慣れるよ」


 色々なゲームが音を流しているのだから、当然っちゃ当然だ。でもそれがゲームセンターだから仕方がない。


「じゃあまずは何するの?」


「とりあえずやっておきたい音ゲーやっていい?」


 多分、この時期ならやりこんでいる音ゲーに新曲が追加されているはず。どうせなら紹介がてらプレイしたいと思った次第だ。


「うん、いいよー」


「あの、『おとげー』とは……?」


 筐体きょうたいへ向かう途中、由乃よしのがそんな質問を投げかけてくる。まさにゲーム初心者な発言に、本当にゲームとは無縁な人生を歩んでいるんだろうなと実感する。それと同時に、少しもったいない気もするけど、多分あの学力はこういう人生を歩んだからこそなんだろうとも思う。


「ああ、音楽ゲームの略ね。内容はとりあえず見てればわかるよ」


 入り口から割りと近くにあるので、すぐに筐体きょうたいに辿り着く。幸運にもそこには先客はおらず、すぐに私のプレイになった。


「あ、やっぱり新曲入ってるー! でね、このゲームはこの8つのボタンを画面上に上から落ちてくるやつにタイミングよく合わせて押すの」


「つまり、リズムに合わせてボタンで演奏する……みたいなことでしょうか?」


「だいたいそんな感じ。後は見て分かって、それとプレイ中はさすがに喋れないから由乃ゆのよろしく」


 そう言って、私は新曲をプレイ開始。初見なので、いいところを由乃よしのに見せられるか不安だけど、できる限り頑張りたい。どうか初見殺しだけはありませんように。


「うわーすごーい! 亜美さんお上手ですね」


 顔は見えないが、たぶん私のプレイに魅了されているようだ。割りと新曲の難易度自体はそう高くはなく、落ちつていれば大丈夫程度のものだった。なのでフルコンを目指し、さらに真剣にプレイを続ける。


「こんな感じで落ちてくるのを押せばいいの。ただこのゲームだと、2つ同時押しとか、両端に落ちてくるとかよくあるから、結構難しいんだよ」


 私がプレイしている最中、解説役の由乃ゆのが補足を入れてくる。案外、このゲームに詳しい由乃ゆのは結構ゲーム好きなのかもしれない。私ほど熱中しているわけじゃないだろうけど、今度一緒にゲームするのもいいかも。 


「へー落ちてくるスピードも速いし、それを一瞬で判断してボタンを押すって操作も結構大変そうね」


「まあ、そこは慣れかな? 落ちるスピードも目が慣れればそんなに速く感じないし、やっぱり何度もプレイして慣れるのが一番いいかも」


「ふーん、やっぱり慣れなのねー」


「――よしっ、初見フルコン!」


 私は初見でフルコンという偉業を成し遂げ、満足する。由乃よしのにいいところが魅せられてよかった、よかった。


「フルコン?」


「フルコンボの略だね。さっきの画面に左下にコンボ数が出てたでしょ? あれは、ミスせずに連続で押せたかっていう数字で、それが全部だとフルコンボになるの」


「へーじゃあ、亜美さんは初めてで全部打てたということですね! すごい!」


「えへへーそこまででもないよー! これは割りと簡単だったしねーあっ、由乃よしの、なんだったらやってみる?」


「え、ええ!? わたくしがですか!?」


「うん、一応初心者用の難易度もあるし、それだと使用するボタンは4つだから大丈夫だと思うよ?」


「い、いいのですか……?」


 由乃よしのは期待した目でこちらを見つめている。すごいやりたそうなオーラが出ている。下手したらゲーム自体プレイするのが初、なんてあるもかしれないから、内心ワクワクしているのかも。


「うん、ほらほらここに立って!」


「は、はい!」


 ものすごく嬉しそうな顔で返事をする由乃よしの


「じゃあーとりあえず簡単なこの曲で、難易度もノーマルで、っと。じゃあ頑張ってね!」


「お姉ちゃん、ガンバ!」


「は、はい!」


 由乃よしのはどこか緊張しながら、そわそわしているようで、始まるのを今か今かと待っている。そんな初々しい姿に、新鮮さを感じつつ、私は由乃よしのを見つめていた。


「お、上手上手!」


 ゲーム開始。初めてにしては案外うまく打っている。タイミングもバッチリで、評価も『Perfect』だから意外とセンスがあるのかも。


「あれ、亜美ちゃんこれってもしかして……?」


 由乃よしのはプレイ中にある程度要領を得たのか、もはや普通のプレイと変わらないようにみえる。


「もしかするかもね?」


 そんな最中、私たちはお互いを見つめ合い、予想をたてる。まさかの初見フルコンがあるかもしれない。変にプレッシャーをかけないように、あえて口にはしないが、この感じのプレイだとありえるかもしれない。


「――すごーい! まさかの初見フルコンだ!」


 そしてその予想通りに、初見というか初プレイでフルコンを果たした。流石は由乃よしの、ゲームでも上手いか。多分それもこれも元々のデキがいいからなのかな。


「い、いえ初心者用の難易度ですし、そこまででも……」


 由乃よしのはそんなふうに少し照れつつ、謙遜けんそんする。


「いやいやお姉ちゃん、初プレイでフルコンはすごいよ!」


「そ、そう……?」


 こういうので褒められ慣れていないのか、どこか恥ずかしそう。


「うん、意外とお姉ちゃん才能あるかも!」


「だね、今度家庭用のやつもあるから、貸してあげるよ!」


「ええ、ぜひやってみたいです!このゲームなかなか楽しいのですね!」


 意外とハマったご様子で、ノリ気な由乃よしの。私も私でこのゲームは好きなので、いい布教になって満足だ。


「でしょー? よし、じゃあ次は3人でプレイできるのがいいよねー……あっ、じゃあ『リオマカート』しよっか!」


「リオマカート……?」


 据え置きでも出てる有名なゲームでも、やはり知らないご様子。


「うん、カートゲームなんだ! ついてきて」


 といってその方向へと歩き出す。

 なんか、こうやって知らない由乃よしのに教えていくのが楽しくなってきた。いつもなら教えられている側だし、なんとなく由乃よしのの上に立てたような気がして、優越感がでる。


「カートゲームですか……」


「まあ、わかると思うけど、レースして1位とったら勝ちっていうゲームね」


 そう説明しながら、私たちは席に座る。コインを投入し、今回は1回限りの対戦という形にした。流石にグランプリはちょっと長いし。


「とりあえず操作は右がアクセル、左がブレーキね。あと、アイテムがあるんだけど……ちょっとアイテムは多すぎて説明しきれないから、プレイで覚えて。ボタンはアイテムを使用するのに使うから」


 コースを選びながら、私は説明を続ける。アイテムの説明をしないのは由乃よしのが不利になりそうだけど、まあ、使って損をするアイテムなんてないし、頭いい由乃よしのならうまくやってくれるだろう。


「りょ、了解です!」


 さて、ゲームスタート。当然、スタートダッシュを知らない由乃よしのは序盤から遅れをとる。もちろん私は知っているので、さっさと高順位をとっていく。由乃ゆのの方も、どうやらスタートダッシュを決めたようで、2人の争いの様相をていしてきた。


「……よしよし、まずはアイテム確保して……っと」


 とりあえず、アイテムで後続が妨害してくるのを防ぐために、自身もアイテムを確保しておく。後は、初心者の由乃よしのとハンデ差が出過ぎないように、ある程度力を抑えてプレイする。


「わっ、なんかイカヅチのマークのアイテムが出ました!」


 そんな最中、隣でプレイしている由乃よしのがそんなことを言ったのも束の間、それを早速使ってくる。

 それはサンダー、自分以外の走者を小さくするアイテム。由乃よしのの順位が低いから、いいアイテムを引き当てているようだ。


「わわっ、今度は星です!」


 サンダーをしてまもなく、そんなことを言ってくる由乃よしの

 今度はステラ……でも、そんなに早くアイテムを手に入れるなんて……まさか、アイテムボックス前で使ってすぐに隣のボックスで補充した?

 そうすれば順位がそう変化しないから、強アイテムを保持したまま走れる。

 まさか、こやつプレイ中に進化している?

 危機感を覚えた私は、いよいよ本気を出すことに。ショートカット、ドリフト、と使えるものはなんでも使い、なんとか1位に辿り着く。

 由乃ゆの由乃ゆので焦り始めたのか、どうやら私と同じようにショートカットを使っているようだ。 


「――うわ、青甲羅だ! やばっ……」


 それからしばらく1位を独占していると、1位の宿命である青甲羅がやってくる。

 1位を強制的に狙い、妨害してくる悪いヤツ。しかもこれは回避するのは非常に難しいので、まず大抵の人は食らってしまう。当然私もその1人なので、青甲羅をもろに受けてしまう。しかも2位以下はタイミングが悪く離れていて、巻き込むことも叶わない。そうなれば、当然操作できない間に、どんどん順位が下がってしまう。私が独走できずに、後続が近くにいたというのもわざわいいした。


「わっ!? すごい、すごいですよ! 操作しなくても勝手に!」


 そんな私を裏目に、見れていないが今度は恐らくミサイルを引いたのだろう。まるで子供のようにはしゃぎ、楽しんでいる由乃よしのだった。


「うぎゃー!? ちょっと、由乃よしのひどーい!」


 私もようやく動けるようになって、さあいざ逆襲だという時に、後ろから由乃よしののミサイルに突進され、ふっとばされる。

 そうなれば、またさっきの青甲羅と食らった時と同じ状態。

 あ、やばいこれ負けたかも。


「うふふ、お先にー!」


 余裕ぶったような声で、そうあしらわれる。私も負けじと立て直し、奮闘する。……のだが、由乃よしのがコツを掴んだのか、アイテムを駆使してどんどんと前を走っているキャラを追い抜いていく。

 ふと横目で見ると、出るのは『3連レッドシェル』や『グリーンシェル』など使える攻撃アイテムばかり。その反対に私の方は逆転アイテムが出ず、後ろの方を泣きながら走るハメに。アイテム厳選でもしようかと思ったが、この周は最終周。そんなことしてる暇はない。


「うがー負けた―!」


 結果。私はなんと7位と微妙な成績。由乃ゆのは3位とまあまあ奮闘。そして最後に由乃よしのは……なんと1位、つまり優勝。

 まさか、初見のゲームでプレイ中にコツを掴んでしまうとは、さすが天才。後、アイテムを引く運もすごかった。これはいわゆるアレか……ってことは。


「どう? 楽しかった?」


「ええ、とっても!」


 すごい満足顔の由乃よしの。喜んでくれている姿にこっちまで嬉しくなる。ゲーセンに来て正解だったようだ。よし、次はアレの検証をしてみようと思う。


「……ねえ、由乃よしのちょっとこっちについてきて!」


 そう言って、私は由乃よしのの手を引っ張り、ある場所へと連れて行く。


「え、あっ、はい……!」


 言われるがままに、私の後をついてくる2人。目指した先は、いわゆるゲーセンならどこにでもあるルーレットゲームだ。


「これはルーレットで出た数字によってお目当ての景品が上がったり下がったりするんだけど、結果的に8段目になるとその景品がゲットできるの!」


「随分と運要素が高いゲームなのですね……」


「まあ、いやらしい話、儲けないとだからね……確率操作してるって噂もあるし……ってそれはさておき、これやってみてよ!」


「え、私が!?」


「うん、もしかすると、もしかするかもよー?」


「は、はぁ……ではっ!」


 そう言って、由乃よしのはお金を投入する。


「まず、お目当ての賞品をルーレット方式で選んでね。これは目押しするだけだから簡単だよ」


「はい! えーと……じゃあ、このぬいぐるみにします!」


 由乃よしのはお目当てのぬいぐるみの所にランプが来るタイミングを計りつつ、さっきの音ゲーみたく感覚でそのボタンを押す。

 すると見事にお目当ての景品の場所で停止する。

 次は運ゲーの始まり。上のルーレットが回転し始める。これはいくらなんでも目押しはできないだろう。


「……ここっ!」


 と言ってボタンを押す。すると結果は――


「うわっ、すごいお姉ちゃん! いきなり4だ!」


 まさかの最高ポイントの4点を獲得。これで一気に半分まで上り詰める。

 やはりビギナーズラックは存在したのかもしれない。あと残り回数は4回。

 もしかして、これいける?


「……えいっ!」


 2回目のルーレット。由乃よしのは目を閉じ、完全に運に身を委ねてボタンを押す。そして出た結果は――


「え……嘘……」


 まさかまさかの4点。よってこれで合計8点。お目当てのぬいぐるみを入手してしまった。機械の上についていたランプが何回か点灯し、景品を入れた箱が一気に上がって景品が下へと落ちる。


由乃よしの、すごい! これ当てられる人そうそういないのに!」


「やったね、お姉ちゃん!」


「ま、まさか私も二連続で4を引くとは思ってもいませんでした」


 ぬいぐるみを抱きかかえながら、自分自身に驚いている由乃よしの

 でもこれで由乃よしのにはビギナーズラックが宿っているのが証明された。これを使わない訳にはいかない。


「まさにビギナーズラックだね、由乃よしの! よし、それにあやかって次はー――」


 それから私たちはUFOキャッチャーや、パンチングマシンなど、様々なゲームで遊び、満喫した。

 最初は由乃よしのを案内する目的だったけど、結果自分まで楽しんでしまっていた。だけど、これのおかげでアレに抱いていた怒りは、どこかへ消え失せていた。私自身のリフレッシュという意味でも、このゲーセン遊びはいいものとなった。

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