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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第2章『あみまり』
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1話「仲違いするふたり」

 私はこの日をどれだけ待ち焦がれたことだろうか、ついに日曜日がやってきた。天候はこれでもかというほどの晴天で、お出かけには最高の日だった。

 けど私はそんなことはお構いなしに、部屋にこもっていた。それはあるゲームの最高難易度への挑戦するため。


 このゲームは難易度設定がされており、初心者から上級者までが楽しめるゲームになっている。そして、その最高難易度は当然クリアするのはとても難しいのに、セーブ機能がない。これだけの条件に、自称ゲーマーとしては心がうずかないわけがない。


 平日はこのことで頭がいっぱいで、他のことが手につかなかったほどだ。しかも先週は補習があって予定が潰れてしまったので、なおのこと待ち遠しかった。

 私ははやる気持ちを抑えつつ、ゲームの電源を入れ、プレイを開始する。これからセーブはできない、つまり一つ一つの行動がとても大事になる。なので、私はとても緊張しながらも、できるだけ慎重で丁寧にプレイを心がけていく。


「うわーこれどっちだろう……?」


 しばらくプレイすると、分かれ道に辿り着く。この分かれ道は下の難易度ではなかったもの、つまり全くの初見だ。

 たぶんこの流れからして一方はハズレ、一方が進むべき道だと思う。けど、どちらが正解かわかるヒントが今はない。だからといって運任せで進むのは、良い策じゃない。

 そんなまさに運命の分かれ道に、私は少し焦り始める。その時だった――


「ねー亜美あみ、これ左じゃないのー?」


 私の後ろから、そんな呑気のんきな声でアドバイスをする者がいた。まぎれもない、ルームメイトのまりだ。

 外野なのにも関わらず、口出ししてくるまりに苛立ちを感じつつも、それをおさえて、私はどちらが正解かをもう一度考え始める。


「いやこれは右だね」


 たしかこのゲームでは左右一方を選ぶ時、右が正解な率が異常に高かった。

 だからその法則がこの分かれ道にも当てはまるはず。

 うん、やっぱ右で間違いない。


「いやいや、どう考えたって左でしょ」


 そのまるで右を選んでいる私をバカにした言い方に、ムッとする。


 部外者のくせに何なのさ、まり……プレイしてるの私なんだから、黙っててよ!

 そういう根拠のないアドバイスされるの、一番嫌いなの!


「絶対右だって!」


 意見が合わないまりに、ムキになって言い返す。

 こうなったらもう意地でも意見を変えない。絶対に右を押し通す。


「えー絶対左でしょ!」


 まりもまりで頑固がんこで、私の意見に反論する。


「右!」


「左!」


「ぐぬぬ……」


 お互いに一歩も譲らず睨み合いを続ける。このままではいつまで経ってもらちが明かない。けど、私にはとっておきの秘策があった。


「……あっ!」


 そう何を隠そう、コントローラーを持っているのは私なのだ。つまり、このゲームにおける決定権は全て私にある。だから例えまりがなんと言おうと、私が絶対なのである。


 よし、これでまりに一泡吹かせられる! 絶対に悔しがるまりの顔を拝んでやるんだから!


「へへーん、もう右押しちゃったもんねー、あっ……」


 だがしかし、どうやら右はハズレのようで、直後に敵が現れ、即死。ゲーム画面には無残にも、黒背景に『GAME OVER』の文字が映されているだけの有様だった。当然、セーブされていないので最初からやり直し。しかもここまでプレイしていた時間は全て水の泡となってしまった。たった一つの、しかもこんなにくだらない選択で。

 時が経つにつれて、ゲームオーバーになってしまった悔しさと苛立ちが、私の心の底からひしひしとこみ上げてくる。けどゲームに怒ってもしょうがない、どうなるわけでもない。だからこそ怒りの矛先ほこさきのあてがなく、やるせない思いとなってさらに苛立ちが加速してしまう。


「ほーらーやっぱ左だー! 私の言った通りだったじゃない!」


 失敗した私を見下すような視線で、私にそう言ってくるまり。


「ふ、ふん! まぐれだよ、まぐれ!」


 勝ち誇った顔をしているまりに、私は精一杯に強がってみせる。

 勝ったとは言え、それは二分の一の確率に当たっただけ。50%を引き当てただけだ。

 そんなのよくあることさ。たまたままりが選んだ道が正解だっただけじゃん。


「そんなことないわよーちゃんとした理屈があって左を選んだんだから!」


「ていうか口出ししないでよ。ゲームやってるのは私なんだから!」


 まりのその言葉に、ついに我慢の限界が来た私は、矛先のない怒りをまりにぶつける。


「なッ! せっかく亜美の足りない頭のために私が協力してあげてるのに! その言い方はないんじゃないの!」


「足りない頭って何さ! ちょっと失礼じゃない!?」


 ゲームとは全く関係のない私に対しての罵倒ばとうをするまりに、私は大きめな声で言い返す。


「あら、ゲームを遊びすぎてテスト勉強をほとんどせず、散々な結果で赤点くらった人はどこの誰だったかしらー?」


 もうまりはいよいよ全然関係ない話で、私の弱いところをついてくる。

 いつもまりはそうだ。お母さんみたいに過去の話を蒸し返してくる。 

 しかもこの話はついこの間したばかりだし、そういうしつこいところもそれっぽい。


「そ、それは今関係ないでしょー!? それに今回は勉強(なま)けてただけで、いつもなら普通ぐらいだし!」


 面白いゲームをテスト期間中に発売したゲーム会社が悪い。私は悪くない。

 そりゃゲーマーとしてはやらないわけにはいかないっしょ!


「ふん、普段でも中の下のくせに」


「うっ……そ、そっちだって数学赤点だったくせに!」


 そっちがその気ならこっちもとばかりに、私もまりの過ぎた話を蒸し返す。

 こっちの方が勉強していた分ダメージがでかいはずだ。


「なっ!? そ、それはあなたがゲームばっかに夢中になってて、私がわからないところ教えてくれなかったからでしょ!? あなたが悪いんじゃない!」


 それが結構ダメージ受けているようで、少し動揺しているまり。


「私に教えてもらえないとダメなんて、だからクラスでも中途半端な順位なんだよ!」


「それでも上位に入ってますー!」


「この間10位逃して散々悔しがってたくせにー!」


 しかもその時にもさっきの『ゲームばっかして教えてくれなかった』話で、私に八つ当たりしてきた。そもそも苦手な自分が一番悪いのに。それを完全に私頼りなくせして。


「だからそれもー――ああ、もういいわ! 亜美がそんなこと言うんだったら、もう絶対に亜美の分の料理作ってあげないからね!」


 まりはついに堪忍袋の緒が切れたのか、特大の爆弾をぶち込んでくる。


「ふ、ふん! いいもん、由乃よしのたちに作ってもらうしー! そっちがそうなら、こっちももう絶対に数学の分からない所教えてあげない!」


 私もそれに対抗して、まりの痛いところついていく。


「え、べ、別にー? 数学ぐらい襟香えりかちゃんたちに訊くしー!」


 と済ました顔をしているが、実際は案外効いているまり。焦っているのが手に取るようにわかる。

 しかも訊いたところで、私の説明じゃなきゃ理解できないくせして。そんなこと言うんだもん。


「むー、今日という今日はもう怒った! 私たち絶交! 私由乃(よしの)たちのとこに泊まるから!」


 私だってここらが我慢の限界。

 まりの顔を見ていると、むかっ腹が立ってくる。だからもうキッパリと絶交することにした。

 もうこんな人とは生活できない、一緒の空間にもいたくない。


「ふん、好きにすれば? 私は襟香ちゃんたちのとこに泊めてもらうから!」


「まりのバーカ!」


「ふん、亜美のアンポンタン!」


「ぐぬぬ……」


「「ふんっ!!」」


 それから私たちは必要な荷物をまとめ、部屋を後にし、各々(おのおの)の場所へと向かった。

 こういう喧嘩は昔から何度もあったけど、今日という今日は絶対に許さない。あっちが謝るまで絶対に許してやるもんか。少しはこれにりてお節介焼きな性格を直せばいいんだ。


 それに私には勝てる保証がある。まりが世話焼きな性格だということ。ついつい余計なお世話をしてしまうほどの世話焼きで、いわば中毒者みたいなもの。

 でもあっちの襟香たちのところへ行けば、それが満たせなくなるのは間違いない。だって、あっちには襟香がいるから。襟香も家事全般はできるから、1人で十分。しかも襟香の性格を考えれば、遠慮えんりょしてまりの手をわずらわせないようにするに決まってる。そうなればもうこっちのもの。まりは欲求不満におちいり、私に泣きついてきて謝るはず。


「ふふふ」


そんなことを考えただけで、思わず笑みが溢れてしまう。その泣きつく表情はぜひカメラに収めなきゃ。そして何かある度にそれを見せつけ、言うことを聞かせるんだ。

 その表情が待ち遠しくてしょうがない。

 今ははやる気持ちを抑え、由乃よしのの所へ向かおう。

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