12話「約束」
その夜、夕食が終わって適当にテレビでも見ている時。
さあ、いざやろうと思い立ったのはいいが、いざ面と向かうとすごく緊張して、なかなか踏み出せないでいた。ずるずると時間だけが過ぎていき、気づけば今の時間になっていた。
「ね、ねえ! あ、亜弥ちゃん!」
なんとか私は自分を奮い立たせ、彼女の名前を呼ぶ。
けど亜弥ちゃんが私の方を向くと、それでまたすぐに緊張してしまい、手が震えだす。落ち着くために、私は亜弥ちゃんの手を握る。
「何、どうしたの?」
そんな謎の行動をとる私に、亜弥ちゃんは不思議そうな目で見つめている。
その何気ない顔に、さらに緊張度が増していく。もういよいよ胸が張り裂けてしまいそうな勢いだった。
「ああ、あ、明日の放課後、が、がが、学校の……おお、屋上に来て? は、はは、話したいことがあるの」
破裂しそうなぐらい胸が鼓動を重ねている中、私は彼女にそう告げる。
たぶん、こんなに緊張した状態では告白することはできない。だから私は明日にした。決して先延ばしにしたというわけじゃない。ただ、自分を追い込んで、告白しなければならない状況を作り、自分を奮い立たせるためだ。こうすれば、いくら緊張しているとはいえ、告白せざるを得まい。
あと、雰囲気というか、そいうのに憧れがあるというのも含まれてる。
「えと、今ここじゃできない話?」
「う、うん、そこでしたい話」
「そっか、わかった。明日の放課後ね」
亜弥ちゃんは何食わぬ顔でそれを了承した。
よし、これで完全に私は追い込まれた。もう逃げ場はない。後はただただ明日を待つばかりだ。
でも、告白のアポでこれだけ緊張していて、明日は大丈夫なのだろうか。今から不安で仕方がない。
「……? ねえ、えり、ちょっといい?」
そんな私の姿に、どこか不服そうな顔をして私のことを怪しむ様子の亜弥ちゃん。
亜弥ちゃんは私の体を舐め回すように見つめている。それが今の私にとっては、それで胸が高鳴る、顔が火照る、冷や汗が出る。
「な、何?」
私たちの付き合いの長さ、亜弥ちゃんの妙に鋭いところ、それらが作用してバレるのではないかと、私は恐れおののいていた。
ここでバレたり、問い詰められて仕方がなく……というのはなんとも恥ずかしい。
だから、ここではバレるわけにはいかない。あれだけ『答えを出す』と豪語していたのだから、ここはかっこよく決めないと。
私がそんな思いで身構えていると、なんと亜弥ちゃんはあろうことか、私のおでこに自分のそれをくっつけてくる。
「……うぇっ!?」
当然そうなれば顔も近くなる、放課後の時以上に。恋に落ちている今では、気絶してしまいそうなぐらい頭が沸騰していた。
「あれー別に熱はないなー?」
「あ、あああ、亜弥ちゃん! ち、ちち、近い! 近いよぉ……」
あたふたしてしまう私。このままではいつか気絶してしまうのではないだろうか。
今からすごく心配だ。お願いだから耐えてね、私の体。
「え、ああ、うん、ごめん」
私の必死な抗議に軽く謝って、ようやくおでこを離してくれる。
「で、何だったの?」
「いやさーもしかして私の風邪うつしちゃったかなぁーって思って。さっき顔真っ赤だったからさ」
「だ、大丈夫だよー!」
私は悟られぬよう、必死に平静を装う。
「そう? ならいいんだけど……」
それでも納得のいかない様子の亜弥ちゃん。
どうしよう、ここはなんとしてでも誤魔化さなければ! なにか、何かこの状況を打破できるもの……
「あっ、そうだ! ドラマ、ドラマ! もうすぐドラマが始まるよ! 今日は最終回だったでしょ? ほら見よ見よ!」
私はそう言って、リモコンをとり、テレビのチャンネルを変えた。とにかく話題を逸らして、今のことを忘れさせよう。それにこのドラマは亜弥ちゃんのお気に入りのドラマ、この話題に食いつかないわけがない。
「え!? もうそんな時間!? よし、見よみよ!」
見事に釣れましたー!
亜弥ちゃんはさっきの事も忘れたかのように、テレビに釘付け。私は何とか難を逃れたと、ホッと安心する。
こうなればもう私のものだ。ドラマが終われば、ドラマの話題でもちきり。これでわざわざ前の私の話題など出てくるはずがない!
とにもかくにも、明日はいよいよ本番だ。何としてでも亜弥ちゃんに私の想いを伝えなければ。