11話「私の想い」
部活の音の鳴り渡る放課後。
あれから色々と試行錯誤してみたものの、そこに『確証』と呼べるものはなかった。なんとなく要所要所でそれに近いものを感じられた気もするけど、確証にまでには至らなかった。
しかし、この試行錯誤でハッキリとわかったこともあった。それは手を繋いだり、肩に頭をあずける行為程度では全然ダメだということ。あまりにも普通すぎて、由乃ちゃんの言葉で言うならば、やはり麻痺してしまっているのだろう。
そうなってしまうといよいよ困った。もはや、いよいよ『キス』をするしかないのだろうか。そうすれば、この未だに得ることの出来ていない確証を得られるのだろうか。
でもでも、私たちは言ってしまえばただのお友達、キスなんてするような関係性じゃない。しかも、それで何も得られなかったら? もう完全にお手上げになってしまう上に、キスしてしまったという既成事実だけが残ってしまう。それにそれにキスはやっぱり『好きな人とするもの』だから、私はそれを守りたい。
でもだったらこれから何をすればいいのだろう?
もういっそのこと私の心の答えを誰かに教えてほしいくらいだ。それができればこんなにも思い悩まず、亜弥ちゃんを苦しませなくて済むのに。
「――危ない!」
その刹那、どこからか亜弥ちゃんの叫ぶ声が聞こえてくる。
その声にビックリして、一目散にその声の主の方に目をやると、亜弥ちゃんは必死な顔をして、私に向かって走ってくる。
「えっ?」
私はあまりにも一瞬の出来事すぎて、状況が飲み込めずただ立ち尽くしていた。
そんな私を亜弥ちゃんはそのままタックルするように私を押し倒してしまった。
その直後に、物が落ちる音がしたことでようやく状況を理解できた。たぶん近くの棚の上に置いてあった物が私の頭上に落ちてきてしまい、それを亜弥ちゃんが必死になって私を助けてくれたのだ。
「大丈夫!? ケガない!?」
「いたた……」
衝撃と痛みで本能的に閉じていた目を開けると、心配そうに私を見つめている亜弥ちゃんがいた。
さっきの押し倒したことで、ちょうど亜弥ちゃんが私に覆いかぶさるような体勢になっている。そうなると、顔も近くなるわけで……しかも亜弥ちゃんがこちらを心配そうに覗き込んでいることもあって、さらに距離が近くなっていく。
それこそ本当の本当にキスできてしまいそうなくらいの距離に――
「あっ……」
その瞬間、ハッキリとわかった。私は亜弥ちゃんのことが好きだ。
亜弥ちゃんの見せる真剣な表情、そのかっこよさに私は惹かれている。それと同時に、今全身を駆け巡っているこの衝撃、これがまさに恋なのだ。亜弥ちゃんに聞こえてしまいそうなほどに、私の胸の鼓動が高鳴りだしている。
そっか、これが、この想いこそが恋なんだ。
恋は理屈じゃないって言っていたけれど、まさにその通りだ。あれだけ一生懸命に考えていたことも、この一瞬で全てを無に返してしまう。あれは何だったんだと思わせるほどの一瞬で、たった一つの行動で。
それほどに、恋というものは唐突に始まるのだ。気づいた時にはもう、私は亜弥ちゃんの恋の魔法にかかっている。たぶん、絶対、一生解けることのない魔法に。
「えり? えりっ! 大丈夫?」
私は亜弥ちゃんに見惚れて、我を忘れてしまっていた。まるで世界が変わったかのように、いつも見慣れた亜弥ちゃんの顔が私の胸をときめかせる。一目惚れした時のように、私を引き込む。
「あ、ああ、うん、大丈夫……」
亜弥ちゃんの声によって我に戻った私は、思わず目を背けてしまう。
気づいてしまうと、なんとなく目を合わせるのが恥ずかしくなってくる。それと同時に、この状況にさらに恥ずかしさが上乗せされる。徐々に私の顔が火照っていくのを感じる。
「ホントに大丈夫?」
私の行動が亜弥ちゃんの不安を煽ってしまったようで、すごく心配そうな声でそう訊いてくる。今日の体育の事故の手前、亜弥ちゃんはいつも以上に心配性になっているのだろう。
「うん、本当に大丈夫だから、ありがとう」
私はそれを制し、顔を合わせないまま起き上がり、感謝の言葉を告げる。助けてくれたことの感謝と、気づかせてくれたことの感謝の意味を込めて。
「ならいいんだけど……」
それから私は落ちてきた物をちゃんと元の場所に、今度は落ちないようにちゃんと戻し、そしてそそくさと亜弥ちゃんから逃げるようにその場を立ち去った。
ようやく私の気持ちがわかった、私は亜弥ちゃんのことが好きだ。確信を持って、自信を持ってそう言える。それだけ彼女のこと想っていたのだ。
さて、気持ちがわかったということは、次にしなければならないことがある。それは亜弥ちゃんの告白の返答だ。伝えなければ、この想いを――