6話「深刻化する症状」
希望に満ち溢れた朝が来た。お姉さまと今日、ようやく会うことができる。お姉さまの考えた策で、確実に会えるのだ。互いがすれ違うことなく、絶対的に。ただし、その前に1つ私たちには壁が立ちはだかる。それは禁断症状の悪化。
「ふあぁぁー……おはよー……」
それは朝目覚めて、眠たい目をこすりながらあくびをしていた時に気がつく。まず左手がまるで痙攣したみたいに、震えが止まらない。まだ利き手ではなかったので、大きな支障を来すまでにはいかないとは思う。
「おはよー、沙希ちゃん、左手大丈夫……?」
私が起きたことに気づいた麻衣ちゃんが私の異変を見て、心配そうな顔つきで聞いてくる。
「うん、まあこれぐらいならなんとか――」
両手を使う場面ではちょっと不便かもしれないけれど、まだ利き手が正常だしたぶん大丈夫だろう。麻衣ちゃんに不安がらせないように、微笑みながら安心させるように振る舞う。それから私は顔を洗おうとベッドから立ち上がろうとすると、
「って、あれ?」
急に視界が霞み、ふらふらとそのままベッドに座り込んでしまう。どうやらこれも禁断症状のようだ。めまいや立ちくらみが起こる。これはちょっと厄介かもしれない。特に突発的にそれが起こってしまうと、今回はベッドがあったらからよかったものの、何もない場所では最悪怪我をしてしまう恐れがある。まさに禁断症状が深刻化していることを、今身を持って体感させられているようだ。
「ちょっと大丈夫!? 立ちくらみってそうとうヤバいと思うよ……?」
その一連の行動に、深刻な顔をしてこちらへと近づき、心配してくれる麻衣ちゃん。
「でも今日はなんとしてでもいかなくちゃ」
地に這いつくばってでも――というのは言いすぎだけど――何が何でも今日は学校に行かなきゃならない。どうしても中休みのお姉さまとの約束を守らないといけないから。むしろそれを守れなかったら症状はもっと酷いことになってしまうだろう。下手したらこのまま死んでしまうかもしれない。そのためにも、今日は学校へ行かなきゃ。私の中に改めてそんな強く、固い意志が生まれる。
「んーまあ、そうだね。じゃあせめてでも朝食は私が作るから」
「そうだね、任せるよ。ありがと」
本来今日は私が朝食担当だったのだけれど、いくらなんでもこんな状態じゃ料理はできない。だからここは素直に麻衣ちゃんに甘えることにした。いつの時だか『ルームメイトはお互いを助け合うもの』と言っていたけれど、今はまさにその状態だった。ホントに麻衣ちゃんがいなかったら私はもうダメだった。
今は麻衣ちゃんに完全におんぶにだっこだから、これが終息したらちゃんと恩返しをしないとな、と思った。
「――そう言えばさ、夜なんかうなされてたっぽいけど、悪い夢でも見てた?」
それから朝食が出来上がり、左手の痙攣のせいでかなり食べづらくなっている状態での朝食。そんな折に麻衣ちゃんが不安そうな顔でそう言ってくる。
「えっ、ホント!? あぁーたぶんそれも禁断症状かも……」
これもまたきっと禁断症状だろう。どんな夢を見ていたかはもう覚えていないけれど、眠っている間にも襲ってくるとは恐ろしい。いよいよ危険な水域にまで達している感じ。
「なんかもうこの症状、正直怖いね。ただ会えないだけで、こんなにまでって感じ」
そんな禁断症状の数々を見せられて、麻衣ちゃんは恐怖心を抱いているようだ。
「うん……私もそれは思う。だからこそ今日絶対に会わないとね」
全く対策も、抵抗もできない自分の意識がない状態での症状の発病は、本当に怖い。それで周りに迷惑をかけてしまえば、もうこれは私たち2人だけの問題ではなくなってくる。そのためにも、今日は絶対に会わないと。この禁断症状の解決方法は分かっているのだから。打つ手があるというのは、心強い。だから今日で全てを終わらせて、元通りになって、そしたらその後の文化祭を名一杯お姉さまと楽しもうと思う。




