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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第9章『さおさき』
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5話「光明」

Φ


 お姉さまと全然会えない。お姉さまと考えは同じなのに、それが一向に噛み合わない。むしろ噛み合いすぎて、逆にあだになっている感じだ。でも決してそれでめげることなんてしない。もちろんめげたら大変なことになる、というのもあるけれど、つまるところ私のお姉さまに対する愛はこの程度でくじけるものではない。『会いたい』という思いはきっと誰にも負けないのだ。なので私は今日も放課後、諦めずに待っていた。


「――来ない……ね」


 麻衣まいちゃんの言うように、もう下校時間ギリギリだというのにも関わらず一切現れることのないお姉さま。やはり生徒会の仕事はかなり忙しくなっているみたいだ。今回は前回の反省も踏まえて、あらかじめ外での活動ではないことは確認済みだった。それでも神様は私たちが会うことをお許しにはならないみたい。


「帰ろっか……」


「大丈夫だよ、沙希ちゃん! また作戦考えよっ!」


 落ち込む私をそうやってはげましてくれる。ホント、麻衣ちゃんは優しい。その優しさが私の身に染み渡っていく。さっきまで感じていた落ち込む気持ちが、少しは和らいだような気がしていく。自分の時間だってあるのに、こうやっていつも放課後に一緒にいてくれるなんてホント感謝しかない。


「ホント、ありがとね、麻衣ちゃん」


「当たり前だよ、友達なんだから。これぐらいは」


「――でさ、『会う』って言うのとはちょっと違うかもしれないけど、電話してみるってのはどうかな?」


「電話……あぁー電話ねー!」


 そんな提案に妙に納得してしまう私がいた。何分なにぶん、私とお姉さまは毎日会っているから電話をするという事自体まずなく、言われないと思い出さないほどに電話というものが縁遠いのだ。たぶんそれは麻衣ちゃんの言う通り『会う』ではないかもしれないけれど、たしかに『声を聞く』というのはちょっとでも心が和らぐ、この長い戦いのモチベーションの向上にも繋がるいい案かもしれない。それにその電話があれば、時間だって合わせることができるかもしれないし。



 夜になり、ちょうどお夕飯時も過ぎた頃を見計らい、私はいよいよお姉さまに電話をかけてみる。もしこれで出なかったら、私は寝るまで何度だってかけてやる。それは失礼かもしれないけれど、それぐらい今私はお姉さまの声が聞きたい。お姉さまだってその気持ちはわかってくれるはず。私は祈るような思いで、意を決して発信ボタンを押す。


「……お姉さま」


 小さく、最愛の人の名前呼ぶ。そして数秒してプルルと発信している音が鳴る。それと同時に、私の胸もトクントクンと鼓動を打っていく。はたして出てくれるだろうか、そんな不安を抱きつつ、お姉さまが出るのを待つ。すると――


「沙希?」


 数コールで、私が一番聞きたかった声が聞こえてくる。この私を呼ぶ声が、これほどまで私を安心させてくれるとは思わなかった。その声を聞いただけで、嫌なこと、辛かったことがパッと消えていき、心が安らいでいく。まるで一面黒雲に覆われた空が一瞬にして吹き飛んで、晴れ渡ったみたいだ。


「お姉さま! ようやく声が聞けた……嬉しいです!」


「私もよ、沙希。ごめんなさい、私の考えが甘かったわ。反省してる。もっと真剣に考えて前もって対策をきちんと練っておくべきだったわね」


「いいんです、お姉さま。もう過ぎたことはしょうがないです」


「ありがとう、沙希。でも本当に久しく声を聞いてなかったから、なんだか懐かしい感じがするわ」


「はい、でもなんか、声を聞いてると、余計に会いたくなっちゃいますね……」


 お姉さまの声を聞いている間に、内側から何かこみ上げてくるものがあった。お姉さまの声を聞けた感動か、あるいは安心か。それが溢れてしまい、涙へと変わっていった。


「――ん? 沙希、あなた、泣いているの?」


 声だけだというのに、お姉さまは私の変化に気づいてくれる。それが嬉しくて、こみ上げてくるものが一気に増していきそれがどんどんと溢れ出ていく。


「ごめんなさい、お姉さま。お姉さまに会いたくなって、涙がこぼれちゃいました……うっ、うぅ、あいたいよぉ……」


 もう規則とか規律とか信頼とか、そんなもの全て投げ捨てて今すぐにでもお姉さまに会いに行きたい。会っていつものようにめいいっぱい甘えたり、お話したりしたい。声だけしか聞こえない距離がもどかしい。


「私もよ、沙希。この電話の電波にでも乗って、あなたの元へと迎えに行きたい」


「お姉さまぁ……」


 これは逆効果だったのかもしれない。余計にお姉さまに会いたいという感情が溢れてきてしまう。これは例の禁断症状にも影響が出てしまうかもしれない。


「そう泣かないで、沙希。もう二度と会えないわけじゃないのだから。大丈夫よ」


「で、でもぉ……」


 お姉さまはそう言って安心させてくれるけど、私は今すぐに会いたい。これからのことがどうとかじゃなく、今すぐに。だっていくらこの先、二度と会えないわけじゃなくとも、今会えないのなら意味がない。次に会える時を、もう私は一秒たりとだって待ちたくないのだ。


「――大丈夫。沙希から電話をもらって、1ついい案が出来たから」


 そんな想いが募る私をよそに、お姉さまは優しい声で私に希望の光を灯した。


「いい案……!?」


 その希望に、私の中にどんどんと期待が生まれていく。聡明なお姉さまなら、きっとこの状況を打開できる案を思いついてるはず。その希望に期待を膨らませ、次の言葉を待つ。


「ねえ沙希、あなた明日の時間割、教えてちょうだい?」


 すると、お姉さまは突然に私の時間割を訊いてくる。


「時間、割ですか……えと――」


 この段階では、お姉さまの考えが読めない。だから私はその意図がよくわからなかったが、とにかくお姉さまの指示通りに明日の時間割を伝えていく。


「うん、わかったわ。じゃあ、2時限目と3時限目の中休み。絶対に教室にいなさい。その時間ならお互いに移動教室じゃない。移動教室の可能性もある化学も避けたからこれは確実。後は私が必ずその中休みに会いに行くから」


「……はい! それなら絶対に会えますね!」


 そっか。中休み、短い時間でも予定を合わせれば確実に会えるわけだ。やっぱり私たちには『いつも会えるから』という安心感が邪魔をして、電話をして予定を合わせるとかそういうことが頭にないみたいだ。どうせそういった予定だって直接会ってから話せばいいと思っているから。


「……ふふっ」


 妙にそのお姉さまの提案した案に納得していると、お姉さまが急に笑い出す。


「どうしたんですか?」


「というか、最初からこうすればよかったのよね、ふふっ。電話なんて滅多にしないから、忘れてた。電話でこうして予定合わせれば一発じゃない」


 どうやらお姉さまも同じことを考えていたようだ。


「……ふふっ、そうですよね。私もそう思ってました」


 それが嬉しくてたまらなかった。これは何より私たちが一緒に時間を共にし、ほとんど常に一緒にいることの証。じゃなかったら、おんなじことを思ってたりなんてしないもの。


「やっぱり何に関しても言葉で伝えなきゃダメね。相手がこうするだろうと思って行動しても、やっぱ相手は人間なんですもの、思い通りにはならない。思いや考えというのはどんなに長く付き合っていても、言葉にしなければ伝わらない。それが今回のこと痛感させられたわ」


 でも同時に、長い間一緒にいるからこそ、伝えなきゃいけない部分もある。それが今回のことで身にしみてわかった。人は感情を持つ生き物、そして何より脳で考えて行動をしてしまう。だからその考えまで理解していないと、その人の行動を完全に予測するなんてことは不可能なのだ。だからこそ、言葉というものは何よりも大切なこと。


「はい、私もです。お姉さま」


「――じゃあ、また明日ね。おやすみなさい、沙希」


 それから少しだけ、他愛もないお話をして、そろそろこの心地の良い時間が終わりを告げる時が来てしまった。


「おやすみなさい、お姉さま」


 名残惜しいけれど、いつまでもお姉さまと話しているわけにはいかない。明日学校もあるのだし、そして何より明日はお姉さまとちゃんと直接会うのだから。明日寝坊するなんてことのないように、今日はここまで。私は目を閉じて、ちゃんとお姉さまのことを思い浮かべながらそう挨拶をし、携帯の通話終了ボタンを押す。


「――えと、ごめんね、なんか。電話したせいで余計に会いたくなっちゃったよね?」


 電話が終わったタイミングで、麻衣ちゃんがどこか申し訳無さそうな顔をしてそう謝ってくる。


「ううん、気にしないで。お姉さまが確実に会える方法見つけてくれたから」


 むしろ私としては逆に感謝したいぐらいだった。電話をするというきっかけを来れたのは麻衣ちゃんなのだから。それがなかったらこうしてお姉さまの声も聞くことは出来なかったし、お姉さまの提案で確実に会える方法も見つからなかった。だから麻衣ちゃんは私たちの、いわば救世主なのだ。ホント感謝してもしたりない。


「そうなんだ! よかった」


「お姉さまも電話っていう概念がなくて、電話で予定合わせるのに気づいてなかったみたい」


「ふふっ、似たもの同士だね!」


「うん、そうだね!」


 好きな者同士は時が経つにつれ似ていくというけれど、私たちもそんな感じなのだろうか。そんなことを考えながら、明日のお姉さまのためにも今日は早めに寝ようと決意したのであった。


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