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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第9章『さおさき』
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4話「もどかしくも、苛立つ思い」

 沙希さきわたくしの身に起こっている、この禁断症状を治す方法はいたって簡単。ただ2人が『会えば』いい。だけれど、その許容範囲はよくわかってない。互いが認識できればいいのか、見つめ合う必要があるのか、はたまた体に触れなければならないのか、もしくはそれ以上のことをするのか。今まではそんなこと一切考えずに会い、治していたので基準がいまいちピンと来ていなかった。とにかく確実にわかっていることは『会う』ということ。それさえ達成すれば、もうこの呪いから解放されるのだ。


 そこでわたくしは朝の生徒会の会議を早めに切り上げ、2年生の教室へと向かっていく。まだ朝会までには十分な時間がある。これなら間違いなく会えるだろう。一応念のために自教室を確認して、沙希がいないこともわかっているから、行き違いにでもならない限り、大丈夫なはず。


「会長! ちょっといいですか?」


 と思っていたのだが、なんとも不運なことに生徒会の子につかまってしまう。あぁ、沙希の教室まであと目と鼻の先だというのに。どうして、こうもうまくいかないのだろうか。それがもどかしくてしょうがなかった。


「何? 私、少し急いでいるのだけれど」


 そんな焦燥しょうそう感にさいなまれる私は、当たるのはよくないとわかっていても、ついそんなそっけない言葉を出してしまう。


「あっ、えと、すぐ終わるので。このプリントのここの部分なんですけど……」


「そんなくだらないことで私を呼び止めたの!?」


 その見せられた内容はあまりにも単純明快なもので、私を呼び止めるほどのものではなかった。私は今沙希に会うために、1秒でもいいから時間を作らなければならないのに、こんなくだらないことに付き合ってる暇なんかない。


「あ、そのごめんなさい……」


「えっ。あっ、ああ、ごめんなさい……最近ちょっと疲れが溜まっていて……」


 私のキツい言葉に落ち込んでしまう彼女を見て、我に返る。すぐに頭を下げて謝罪をするけれど、彼女はどこか私に怯えているようだった。これは嫌われてしまったかもしれない。そんなことを無意識的にしてしまった自分がこの上なく嫌になり、同時に彼女に対する申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼女は関係ないのだ。当たるのは間違っている。


「でもね、この内容はあなたでも判断できる内容よ。これからあなたも最上級生になって生徒会の中核をになう存在になるのだから、今から自分で判断する癖はつけておきなさい。私たちがいくなってからではもう遅いのよ? ね?」


 なるべく恐怖心を消し去るように、優しい言葉遣いに努めて彼女にそうさとした。これで彼女が私におびえなくなるとは思ってないけれど、とにかく今はこれが出来る精一杯。後はこれが治ってからフォローするしかなさそうだ。


「あっ、はい……すみませんでした」


「いえ、こちらこそ怒ったりしてごめんさない」


 再び私は彼女に謝罪して、急ぎ足で沙希の元へと向かった。このままでは傷つけなくていい人まで傷つけてしまう。あんな、怒らなくてもいいことに怒っているようでは生徒会長は務まらない。人の上に立つのだから、あんな態度では誰もついてきてくれなんかしない。そのためにも、もうさっさとこの症状とおさらばしなくては。


「あれ? いない……?」


 でも神様はまだ私たちに試練をお与えになさるつもりのようだ。教室を覗くと、そこには沙希の姿はなかった。自分で言うのも何だけれど、目立つ人が教室を覗いているからか、クラスの子たち全員が私を見つめてくる。でもそのその中に沙希はいない。もう嫌な予感しかしないけれど、念の為に誰かに沙希の居場所を聞こうとしていると、1人見覚えのある子が思い出したような顔をしてこちらへとやってきて、


「沙希ちゃん……ですか?」


 私の要件をみ取るように、そう話しかけてくる。


「ええ。たしか麻衣まいさんよね、沙希のお友達の……」


 何度か沙希と一緒にいるのを見かけた程度だったので、名前がちょっとあやふやだった。なので確認を取るような言い方で、そう聞いていく。


「ええ、そうです! でも残念ながら沙希は――」


 その言い方もあって、その先の言葉がもう聞きたくはなかった。どうせまた私の頭を悩ませるような言葉だろうから。もう諦め気分で麻衣さんの話を聞くと、


「はぁー……どうしてこうなのかしら……」


 自然と口からため息がこぼれてしまう。なんと、沙希もまた同じことを考えて私のクラスに行ったそうだ。『今なら教室にいて、会えるかも』と思ったらしい。どうして私と沙希はこうも仲がいいというか、悪いというか、相手に気を遣いすぎるとういか、噛み合わないのだろう。それが原因でこうもすれ違うのでは、本末転倒。会えないんじゃ、意味ないじゃない。


「あっ、でも予鈴と同時に戻れば、少しでも会えるじゃないですか?」


 その事実に落胆していると、麻衣さんはそんなアドバイスを出してくれる。


「ええ、そうね。ちなみに沙希はどちらの階段を使って行ったかわかるかしら?」


 でもそれはこの流れからして沙希も同じことを思うはず。もうそれぐらいの気持ちで行ったほうがうまくいくと思う。だからここでまた同じてつを踏まないようにするため、私は彼女にしっかりと確認を取る。2年生の教室と3年生の教室を結ぶ階段は2つだけ。教室を挟むように左右にある。この2つの選択を誤ると、お昼には仕事があって放課後まで会う機会は絶たれてしまう。もちろん授業の間の中休みでも会えると思うが、どうせ移動教室や、体育で会えないのは目に見えてる。だからこそ、この選択は重要不可欠、人生を大きく左右すると言っても過言ではないほどに大事な選択になる。


「えーと、前の扉から出て、そのまま行きましたけど」


「それは確かね!?」


 私は彼女の答えに、はしたなく大きな声を出して前のめりになって迫ってしまう。


「ええ、ちゃんとこの目で見てましたから」


 若干私に圧倒されながらも、確かにそう答えてくれる。


「ありがとう」


 そうなれば善は急げと、私は彼女にお礼をして、教室を後にする。後は間違いなく沙希の行った階段を選択すればいい。その理由として、沙希も沙希で私が沙希の教室に向かったということを私の教室の誰かから聞いているはず。ならば、沙希は来た道を単純に戻ってくるはず。前の扉から出て、そのまま近くの階段から降りたのであれば、私たちの教室には前の扉にたどり着くはず。まさか最初に前の扉をスルーして、後ろの扉から覗くなんてことはないだろう。だとすれば、前の扉で私がいないことを知り、そのまま近くにある階段から戻るはず。仮に教室で誰からも何も聞かず、私がいないことを確認したとしたても、同じように戻るはず。ならば私も同じ道を選択すれば、一緒に会えるという算段だ。これでようやく症状が治まる。一安心しながら、予鈴の合図と共に私は教室へと、前の階段を使い戻っていく、


「なんでぇー!!」


 が、沙希は現れることはなかった。もう何もかもがうまくいかなくて嫌になってくる。すぐに早足で教室に戻ってみたけれど、当然もう沙希の姿はいなかった。私の教室に会いに来たのは間違いないはずなので、もしやと思い友達の沙弥香さやかに訊いたところ、


「ああ、沙希さんなら、沙織とは反対側の階段を使って帰っていったよ」


 詳しい事情を訊くと、どうやら彼女も私と全く同じことを考えたようで、私が後ろの扉から後ろの階段を使って沙希の教室に行ったので、そのまま来た道を帰るだろうと考えたみたいだ。その結果、またしてもすれ違ってしまったと。これはいけない、お互いがお互いの心を読みすぎて逆に空回りしてしまっている。これから本格的に文化祭の準備が始まり、生徒会も呼応するように忙しくなってしまう。そんな中でこんなことですれ違っていては、いよいよ本当に未知の領域に入っていってしまう。もう残された時間は放課後だけ、それぐらいの気持ちで挑まなければおそらくまたダメになってしまうだろう。とりあえず苛立いらだつこの気持ちを抑えつつ、私は放課後に賭けることにしたのであった。

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