14話「色々な姿」
次の目的は『服を見に行くこと』だ。この西エリアは普段はまず来ることがない地域なので、とにかく知っている店がない。今のカフェみたいに有名な店をいくつか知っている程度。だから『ここ』という決め打ちをせず、ウィンドウショッピングみたいに繁華街を回ってみることにした。
「――ねえ、手ぇつなごぉよ!」
繁華街に入って早々に、麗奈がそんなことを言い出す。
「え、ええ……」
そんな恋人らしいこと、なんだか今更恥ずかしかった。もう恋人ではあるんだけど、それを外でするのはちょっと恥ずかしい。
私は躊躇いがちに右手を出して、すぐに引っ込めてしまう。
「いいーじゃん、恋人なんだし! ほらほら!」
そんな私をおいて、麗奈は強引に私の手を引っ張って握りしめてくる。
「あっ、ちょっと!」
そしてそのまま私を引っ張ったまま、前へどんどんと歩いていってしまう。私の方は、ついていかないと転んでしまいそうになって、気をつけながら麗奈に歩幅をあわせて歩いていた。
恋人同士が手を繋ぐ行為って、結構大事なイベントだと思っていたけれど、麗奈の場合は情緒もあったもんじゃない。本能のままに、繋ぎたいから繋ぐって感じだ。むしろ私のほうが初心な考え方なのかもしれない。
そんなことを思いながら、私は麗奈と共に街をぶらぶらと歩いていく。そして、麗奈がアパレルショップを見つけ、そこに入ることにした。
「かわいいの多いねぇー」
お店の中に入って、麗奈が商品を見ながらそう呟く。私から見ても、普段着ないような服が多い印象だった。
「どんなのがいいの?」
「そうだなぁー普段学校ではスーツだしー今もパンツルックだしー……あっ、ロングスカートとか見てみたいかも! 大人っぽくて可憐な感じになりそう!」
「スカートかぁー、たしかに普段も履かないなぁーロングだったらいいかも。麗奈、選んでみて」
スカートはそれこそ高校生の制服以来かもしれない。元から私服もスカートは履かないし。そういう普段しないコーデもいいかもしれない。ロングスカートなら足も出ないし、安心。
「うん!」
それから、麗奈と一緒にお店の中を一回りして、商品を手にとっては私に合わせて見て、悩みながら私の服をコーディネイトしていた。
そんな風景を見ながら私は、恋人らしいことをしているなぁと実感する。前の時も、こういうことをした記憶がないので、たぶんこれが初めてなんだと思う。だからなかなかに新鮮な気持ちだ。
どんなものを選んでくれるのだろうか、どういうものが麗奈の好みなのだろうか。色々と気になることが増えていく。でもそれが楽しみで、心が高揚する。
「――これ、いいかも! 試着してみて!」
しばらく悩んだあと、決まったのはロングスカートとTシャツの組み合わせだった。このお店の中でも割と落ち着いた色合いで、私でも着られそうな感じだった。一応、そういうところも配慮してくれたりしてるのだろうか。
なんて思いながら、麗奈に促されるまま試着室に入り、着替え始める。
「ていうか……なんでサイズわかったの……!?」
そんな折、私はふとそれに気がついて、聞こえないぐらいの小声でそう呟く。
サイズなんて言ってないのにも関わらず、上下共にサイズはぴったしだった。まさか、あの時に……いや、そんな超能力みたいなことはないか。たぶん、見た目でなんとなく判断してそれがたまたま当たっていた。そういうことにしておこう。
サイズを当てられてすこし動揺している心を落ち着かせ、試着室のカーテンを開けて、自分の姿を麗奈へ見せる。
「うわーかわいいっ! 似合ってる!」
私を見て、愛らしい笑顔でそう言ってくれる麗奈。
「あ、ありがと」
色眼鏡が掛かってるとはいえ、その言葉は素直に嬉しかった。そんななんでもない言葉なのに、心がキューッと苦しくなる。やっぱり私は彼女がスキだと実感する。
でも同時に、どうしてその言葉は信じられるのに、あの時の『スキ』は信じられないのだろうと、余計なことを考えてしまう。私の心の中にスッと入ってこない感じ、変わっていけるのだろうか。
「ねえ、そうだ! 着てこうよ!」
そんなことを考えていると、麗奈がそれを遮るようにそんなことを言ってくる。
「運転しなきゃだからダメ。このタイプだと足が動かしにくいから」
でも私はすぐに断った。大袈裟に言えば、今私は生徒の命を預かっている身なのだから、念には念を入れた方がいい。そこそこ遠出していることもあって、余計にだ。
「ぶぅー……じゃあ、今度のデートの時、それ着てきてねっ!」
そんな返答にふくれっ面しながらも、そう言って納得する麗奈。
「わかったわ、次ね」
でも結果として、次のデートが確約されたわけだ。そういうところ、天然なのだろうか。それとも狙ってやってるのだろうか。そういうさりげない一言が、今日はどうにも私に引っかかるみたいだ。どうやら自分は思っていた以上に、恋愛初心者みたいだ。麗奈のほうが恋愛においては上手のようだ。
そんなことを思いながら、私は麗奈が選んでくれた洋服を買い、お店を後にした。