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おもいあい。  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
第8章『れなしず』
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14話「色々な姿」

 次の目的は『服を見に行くこと』だ。この西エリアは普段はまず来ることがない地域なので、とにかく知っている店がない。今のカフェみたいに有名な店をいくつか知っている程度。だから『ここ』という決め打ちをせず、ウィンドウショッピングみたいに繁華街を回ってみることにした。


「――ねえ、手ぇつなごぉよ!」


 繁華街に入って早々に、麗奈れながそんなことを言い出す。


「え、ええ……」


 そんな恋人らしいこと、なんだか今更恥ずかしかった。もう恋人ではあるんだけど、それを外でするのはちょっと恥ずかしい。

 私は躊躇ためらいがちに右手を出して、すぐに引っ込めてしまう。


「いいーじゃん、恋人なんだし! ほらほら!」


 そんな私をおいて、麗奈は強引に私の手を引っ張って握りしめてくる。


「あっ、ちょっと!」


 そしてそのまま私を引っ張ったまま、前へどんどんと歩いていってしまう。私の方は、ついていかないと転んでしまいそうになって、気をつけながら麗奈に歩幅をあわせて歩いていた。

 恋人同士が手を繋ぐ行為って、結構大事なイベントだと思っていたけれど、麗奈の場合は情緒もあったもんじゃない。本能のままに、繋ぎたいから繋ぐって感じだ。むしろ私のほうが初心うぶな考え方なのかもしれない。

 そんなことを思いながら、私は麗奈と共に街をぶらぶらと歩いていく。そして、麗奈がアパレルショップを見つけ、そこに入ることにした。


「かわいいの多いねぇー」


 お店の中に入って、麗奈が商品を見ながらそう呟く。私から見ても、普段着ないような服が多い印象だった。


「どんなのがいいの?」


「そうだなぁー普段学校ではスーツだしー今もパンツルックだしー……あっ、ロングスカートとか見てみたいかも! 大人っぽくて可憐な感じになりそう!」


「スカートかぁー、たしかに普段も履かないなぁーロングだったらいいかも。麗奈、選んでみて」


 スカートはそれこそ高校生の制服以来かもしれない。元から私服もスカートは履かないし。そういう普段しないコーデもいいかもしれない。ロングスカートなら足も出ないし、安心。


「うん!」


 それから、麗奈と一緒にお店の中を一回りして、商品を手にとっては私に合わせて見て、悩みながら私の服をコーディネイトしていた。

 そんな風景を見ながら私は、恋人らしいことをしているなぁと実感する。前の時も、こういうことをした記憶がないので、たぶんこれが初めてなんだと思う。だからなかなかに新鮮な気持ちだ。

 どんなものを選んでくれるのだろうか、どういうものが麗奈の好みなのだろうか。色々と気になることが増えていく。でもそれが楽しみで、心が高揚する。


「――これ、いいかも! 試着してみて!」


 しばらく悩んだあと、決まったのはロングスカートとTシャツの組み合わせだった。このお店の中でも割と落ち着いた色合いで、私でも着られそうな感じだった。一応、そういうところも配慮してくれたりしてるのだろうか。

 なんて思いながら、麗奈に促されるまま試着室に入り、着替え始める。


「ていうか……なんでサイズわかったの……!?」


 そんな折、私はふとそれに気がついて、聞こえないぐらいの小声でそう呟く。

 サイズなんて言ってないのにも関わらず、上下共にサイズはぴったしだった。まさか、あの時に……いや、そんな超能力みたいなことはないか。たぶん、見た目でなんとなく判断してそれがたまたま当たっていた。そういうことにしておこう。

 サイズを当てられてすこし動揺している心を落ち着かせ、試着室のカーテンを開けて、自分の姿を麗奈へ見せる。


「うわーかわいいっ! 似合ってる!」


 私を見て、愛らしい笑顔でそう言ってくれる麗奈。


「あ、ありがと」


 色眼鏡が掛かってるとはいえ、その言葉は素直に嬉しかった。そんななんでもない言葉なのに、心がキューッと苦しくなる。やっぱり私は彼女がスキだと実感する。

 でも同時に、どうしてその言葉は信じられるのに、あの時の『スキ』は信じられないのだろうと、余計なことを考えてしまう。私の心の中にスッと入ってこない感じ、変わっていけるのだろうか。


「ねえ、そうだ! 着てこうよ!」


 そんなことを考えていると、麗奈がそれをさえぎるようにそんなことを言ってくる。


「運転しなきゃだからダメ。このタイプだと足が動かしにくいから」


 でも私はすぐに断った。大袈裟おおげさに言えば、今私は生徒の命を預かっている身なのだから、念には念を入れた方がいい。そこそこ遠出していることもあって、余計にだ。


「ぶぅー……じゃあ、今度のデートの時、それ着てきてねっ!」


 そんな返答にふくれっ面しながらも、そう言って納得する麗奈。


「わかったわ、次ね」


 でも結果として、次のデートが確約されたわけだ。そういうところ、天然なのだろうか。それとも狙ってやってるのだろうか。そういうさりげない一言が、今日はどうにも私に引っかかるみたいだ。どうやら自分は思っていた以上に、恋愛初心者みたいだ。麗奈のほうが恋愛においては上手うわてのようだ。

 そんなことを思いながら、私は麗奈が選んでくれた洋服を買い、お店を後にした。

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