9話「考え込んだその結果」
「ん……あ、あれ、ここ……?」
意識が戻り、目を開けるとそこには一面に白い天井が広がっていた。どうやら今、私はベッドの上で横たわっているようだ。おそらく、あの後私は運ばれてそのまま保健室のベッドで気を失っていたのだろう。
「あ、気づいた! 大丈夫!?」
私が目を覚ましたことに気づいたのか、亜弥ちゃんがとても心配そうな顔をして、こちらを覗き込んでくる。
「あ、亜弥ちゃん」
「ごめん! 私の不注意でボールぶつけちゃって!」
私が名前を呼ぶやいなや、亜弥ちゃんは座っていた椅子から立ち上がり、深々と頭を下げ、私に謝罪した。どうやらあのボールは亜弥ちゃんのボールだったみたいだ。凄まじい勢いだったから、スマッシュでもして手を滑らせたのだろう。
「え、あ、いや、頭上げて! 悪いのは私なの! ちょっと考え事してて、ボーッとしてたの」
それを見て、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。なぜなら、本質的な原因は私なのだから。私が授業に集中せずに別のことを考えていて、その注意力の散漫が今回の原因。
「いやでも当てたのは私なんだから、責任があるのは私だよ! 本当にごめん!!」
それを受けてもなお、私に謝り続ける亜弥ちゃん。その優しさと、その姿に心が罪悪感でいっぱいになる。
「じゃあさ、ここはよそ見してた私、ボールを当てた亜弥ちゃんってことで、おあいこってことにしよう?」
このまま互いが自分をせめて謝り続けても埒があかないので、私は折衷案を作り、互いが妥協できるようにした。
「……うん、わかった。でも、どしたの?着替えてるときにも言ったけど、最近ぼーっとしていること多いよね?」
「ん、そうかな?」
なんだかんだといっても、やはり見るところは見ている亜弥ちゃん。流石に私の異変にも気づいているようだ。
「何か悩み事? 何かあったら私に相談してね? 全力で協力するから!」
「うん、ありがとう。亜弥ちゃんは優しいね」
でもこれは亜弥ちゃんには相談できないこと。ごめんね、その優しさを踏みにじって。でもきっとその先に答えが見つかるはずだから。もう少し待っててね。
「ううん、そんなことないよ、友達として当然のことでしょ?」
「……うん、そうだね」
「あ、そろそろ私戻らないと……安静にしてるんだよ?」
相変わらず心配そうな顔のままの亜弥ちゃん。どこかここから離れるのが不安なようにも思える。
「うん、ありがとう」
そう言うと、亜弥ちゃんは授業へと戻っていった。なんとなく、私はその後ろ姿をただ見つめていた。だいぶ亜弥ちゃんを心配させてしまっているようだ。早いところ答えを見つけたほうがよさそうだ。それに、今は4限目。これが終われば、次はお昼休みで、昼食をとることになる。その時間が狙い目だ。自分が納得のいく答えを見つける絶好のチャンスなのだから。
と、意気込んでいても今は授業中。たぶん、この感じだと私はこの場で授業が終わるの待つだけなのだろう。ああ、早く時間が経たないかなぁ。などと思いながらベッドに再び横になり、その時を待った。
◇◆◇◆◇
授業も終わり、教室に戻ると、私が戻ってきたことに気づいた亜弥ちゃんや由乃ちゃんたちが心配そうな表情をしてこちらへと向かってきた。
「襟香さん、お体は大丈夫ですか!?」
いつもの由乃ちゃんらしくなく、焦った様子で取り乱してそう訊いてくる。他のみんなも同じような状態で、いかに私が気を失ったことでみんなに心配をかけたのかがよくわかった。それでまたしても私申し訳ない気持ちでいっぱいになった。言ってしまえば、これは私の不注意のせいなのだから、申し訳ないったらありゃしない。
「大丈夫! ほら、この通りピンピンだよ!」
みんなの心配を払拭するために、ちょっと大袈裟に元気さをアピールしてみる。
「ならよいのですが……」
「そんな顔しないで! 先生も大丈夫って言ってたんだから!」
「とりあえず襟香ちゃんが元気そうで安心した。でも、襟香ちゃん! あの瞬間、私見てたけど、何か考え事してたでしょ?」
まりちゃんがまるでお母さんが説教するがごとく、私を咎めてくる。
「え!? う、うん……」
「何考えてたかは知らないけど、授業中に集中しないのはいけないなー! それが結果的に原因になったんだから」
「はい、気をつけます……」
「うん、よろしい。じゃあ、お昼食べようよ!」
「あ、ごめん! 今日も亜弥ちゃんと2人きりで食べたいんだ!」
早速、まりちゃんに言われたことを実行するためにも、私は亜弥ちゃんを昼食に誘う。要は昨日のように2人きりになって、色々なことをしてみればいいのだ。それで何かを感じるかどうか、それだけなのだから。
「え、約束してたっけ?」
「今決めたの! いいでしょ? 今日のお詫びの意味を込めて、いいところに招待したいんだ!」
「別にいいけど……それだったら別に6人にでもいいんじゃないの?」
「えーと……」
そう言われてしまうと、うまい返しをすることができなくなる。亜弥ちゃんの言うとおり、これでは別に亜弥ちゃんと2人きりでなくてもよくなる。だからといって本当のことを言ってしまっても、意味がないし……どうしたものか。
「襟香ちゃんは亜弥ちゃんと2人きりで食べたいんだよ。私たちはいいから、行ってきなよ」
そんな時、事情を知っているまりちゃんが私の思惑を察してくれたのか、そう助け舟を出してくれたやっぱり朝の通り、他のみんなが事情をわかっていると、行動しやすくて助かる。この亜弥ちゃんとの件が終わったら、みんなになにかお礼しないとな。いっぱい迷惑かけちゃったし。
「う、うん、わかった」
「よしっ、決まり! じゃ、じゃあ行こっか!」
私たちはそれから弁当を手に持って教室を後にし、目的の場所へと歩き始める。