家族会議
「ふむ、母さんここはやはり」
「あなた、その話はもう」
「ですが大事な話でしょう?」
「わかってはいますが……」
神妙な顔をしながら両親たちはテーブルに向き合い、その雰囲気はなかなかに割って入ることはできなかった。
私は単純に冷蔵庫のみかんゼリーを回収にきただけなのだが、キッチンに行くにはここを横切る必要がある。能天気を装っていくにも彼らの目に留まるのは必至。そして目に留まったが最後、間違いなく面倒ごとの匂いがするのだ。
彼らの話は大体が私関連であり、そして前にもこういった雰囲気を醸し出すこともあったので、十中八九、九分九厘、ほぼ100%、稀によくあるという感じのアレである。
ゼリーを諦めるか、面倒ごとを受け入れるか、その瀬戸際にて私は苦渋の決断を強いられている。
なけなしのお小遣いで買った、コンビニの少し高めのみかんゼリーはその値段に相応しく、愛媛直輸の厳選されたみかんの中でもさらに一番旨みがあるとされる部分を科学的に選別し、その製法により味は貶めず尚且つその芳醇な味わいを残しながらも甘味を最大限引き出している。そしてそれをゼリーと共に咀嚼することによってそのみかんは甘露にも勝るとも劣らない絶大な効果をもたらした。※ラベルより抜粋
とにかく何が言いたいかというとこれを諦めるという選択肢はあり得ないということであるが、であれば、面倒ごとを引き受けざるを得ないということになる。
私はその試練を超えて、その先にある希望へと辿り着いてみせる。絶対に。さぁ、あと一歩を踏み出せ私。そのさきに未来があるのだから。
「昨日のアレをみたでしょう? やはりマオには魔王になってもらうのが一番です」
「いいえ、マオには勇者がふさわしいわ」
「どっちもお断りです」
「ほら母さん、この鋭いツッコミは間違いなく魔王たるに相応しい魔力でしょう」
「魔力関係ないよね?」
「この鋭さは攻撃力。勇者といったらATKよ」
「戦士でよくない?」
「魔王になればそれこそすべての頂点、誰にでも命令できます。面白くなくても笑えといえば笑ってくれます!」
「それでいいのか魔王」
「勇者は人々の希望、女の子にモテモテよ!」
「私の性別間違えてませんか?」
「父さん母さん、私は普通でいいの。普通がいいの!」
「マオ!」
「ッ!」
いつになく真剣な父の顔に少し驚く。
これも私の将来のことを考えての言葉なのかもしれない。
でも、少し冷たいかもしれないけど私は自分の意見を変えるつもりは……
「父さんではなくパパと呼びなさ」「やかましいわ」
「この食い気味のツッコミ。やはり勇者の素質が」
「勇者ってなんなのほんとに」
長い嘆息をしながら付き合ってられないと横を素通りし、キッチンにたどり着くと冷蔵庫を探る。
うーんと、どこに置いたかなぁ。
「ふぅ、やはり話が進みませんね。仕方ない、一旦休憩を入れましょう」
「そうね、今お茶を淹れるわ」
「ありがとうございます母さん。母さんは本当によくできた女性ですね」
「まぁあなたったら、フフ」
あれえ? おかしいなあ。買ったあとすぐ冷蔵庫に入れたのに。
もうすぐ見たい番組始まっちゃう。
「そんなあなただから私はすべてを捨ててもいいと思えたのですよ。可愛い娘とも会えましたし私は幸せ者です」
「あなた……」
「母さん……」
あれを見ながら食べるのが今日一番の楽しみだったし、早く見つけないと。
ん? あれ? これってゼリーの蓋……? ゴミ箱……?
「母さんの優しいところも大好きです、今日も私の為においしいゼリーを買ってきてくれてましたよね。ありがたく頂戴しました」
「……? ごめんなさいあなた、それは知らないわ」
「えっ……ハッ!!!」
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……