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その娘、タダモノではございません。  作者: かたこりずつう
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お願いだから普通でいさせて!

 ―――テーブルにトーストとコーヒー。目玉焼きとウィンナー。

 まだ湯気を立てるそれらをちらりと伺いながら気だるげに階段を下りてくる。

 どこにでもある朝食の風景。

 テーブルを挟んで反対側には新聞を広げて口元にコーヒーを運んでいる父の姿は見慣れたもので。

 それらはそうであるべきと、当然のようにそこにあるものだ。

 

 日常。普遍。

 あぁなんて素晴らしいのか。

 普通であることを甘受できるこの一時のなんと心安らぐことであろうか。

 そしてできれば今すぐ布団に戻って二度寝に勤しみたい。

 布団。それは人類の発明した最強の寝具。

 あの暖かさに包まれた瞬間全てのことを些事と断じることも吝かではない。

 紛争地帯とかに布団を配ればいいんだよ。

 そしたらこの世から戦争もなくなると思うよ。いやほんとマジで。

 

 ところで私はどちらかというと朝からコーヒーは苦手だ。

 だが苦手だけど出されたら飲むのは、淹れてくれたことへの感謝か強がりか。まぁその両方だと思う。

 あの苦みがおいしいという他人の品評がどうしても理解できない。

 ……朝から嫌いなものの話をするのもおかしな話だ。

 おかしの話なら大歓迎だけど。


 甘い物は大好きだ。素直においしいと思えるし、口に広がったら幸せを感じる。

 甘い物が嫌いな女子中学生なんていないよ、うん。

 でもそういう話は内緒だ。小さいころに言ったら子供だと馬鹿にされたことがあったからだ。なので甘い物は好きだけど口には出さないことにしている。あ、二日前に父に買ってきてもらったプリンはまだ冷蔵庫にあっただろうか。

 




 「ねぇ父さ……。」

 「なんですかマオ? パパに何かお願い事でもあるんですか? いいでしょう言ってごらんなさい。マオの願い事ならなんでも叶えてあげます。欲しい物はなんでも手に入れてあげます。世界がほしいのなら今すぐにでもパパがすぐにでも屈服させてあげますそれにしても今朝からマオはとてもかわいいですねどこかの天使かと思いました昔は天の使いなど見かけたら一瞬で滅し」

 「いらんわ」



 落ち込みだす父。めんどくさい。

 明らかにチラッチラッとこちらを伺ってくるのがさらにめんどくさい。



 「まぁあなたったら。マオももう年頃なんだからそういうのはもうだめよ」

 「し、しかし母さん。私の魔力があればそのようなこと造作もないことは知っていますよね? ですから私は私のやり方でマオの望む通りにしてあげたいのです」

 「そういうのはもう前時代的なのよ。魔王ともあろうものなら時代を先取りしないと。今のご時世魔王はぶっちゃけギャグキャラなのよ」

 「ぶっちゃけすぎだろ」



 何を言っているかわからないと思うが、実は私の父親は異世界で魔王をやっていた。

 それこそイメージ通り、フフ、フハハ、フハハハハ的な三段活用をガチでやってた勢だ。

 人間の国に攻め込み、そこから送りこまれた勇者にずたぼろにやられ、そのショックからちょっとおかしくなってしまったのか、その勇者に一目ぼれして求婚したらしい。うん、ちなみに母さんね。


 母さんも母さんで、そのときの父さんの子犬のような目に保護欲をそそられたとかなんとかでついついOKを出してしまい、お互い国にいられなくなったので【ゲート】の魔法で今の世界に駆け落ちしたらしい。

 おいおい、そんな適当でいいのか異世界。


 

 「なるほど、やっぱり母さんはすごいですね。でしたらギャグで世界を獲ってみせましょう。圧倒たる我が魔力ギャグセンスで世界に混乱をもたらしてあげます」

 「すでに我が家にもたらしてるからやめて」

 「素敵よあなた」

 「あんたもやめや」



 私は普通が好きだ。

 普通に恋をしたり、普通に甘い物を食べたり、普通の女子がやってることを普通にやって普通に生きていきたいと思っている。

 そんな些細な夢も、彼らの前では泡沫と消える。

 

 友達を家に呼んだときは父が真っ黒いマントと鎧を着て玉座みたいなものを作って座り、「よくぞきた!」なんて言ってドン引きされたり。

 学校でちょっといいかなって思った男の先輩を待ち伏せして洗脳魔法でブレインウォッシュしたり。

 三者面談のときに比較的マシかと思った母さんを呼んだら勇者の跡を継がせるとか言い出して痛い視線に晒されたり。


 まごうことなきモンペアである。



 「もういいから。この前買ってきたプリンはまだあるよね?」

 「えっ?」

 「えっ?」



 父さんは滝のような汗を流し出し、目は泳ぎだす。

 まさかとは思うけど? 取っておいた私のプリンを? え?

 いやそんなまさかね。あはは。



 「父さん?」

 「い、いや違うんだ。聞いてくださいマオ。あれは食べたくて食べたわけではないのです! 賞味期限が迫っていたので早く処理しないといけないと思い、可及的速やかにその賞味期限に従っただけなのです! ……はっ! そうか、悪いのは賞味期限ですね! わかりましたよ! 私の敵が! おのれよくも私を嵌めてくれたな賞味期限!」

 「しねぇ!!」

 「ぶごぇ!!」


 込められるだけの力を込めてスクリューブローを放つ。

 父はその衝撃を魔力障壁で防ごうとしたようだけど関係ない。その上から叩き付けて強引にぶち抜いた。

 絞め殺された豚のような鳴き声で吹き飛ぶ魔王(笑)は玄関のドアをぶち抜きお向かいさんの塀にめり込んだ。


 ちょうどその頃学校に誘いに来てくれた幼馴染のサトシくんが玄関で待っていてくれたらしく、チャイムを押そうとしたところで固まっていた。

 笑顔のまま固まっている彼をよそにぜぇぜぇと息を荒げる私と、「あらあら困ったお父さんね」と全然困ったように見えない母と、面白くなった顔で白目を剥いている父というよくわからない構図が出来上がっていた。



 「私は普通の女の子でいたいのに!!!」



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