張り込みにはバーガーを
「で、今日はここに討ち入りするの? はむっ」
「カチコミとも言いますね。もきゅもきゅ」
駅前に最近出来たハンバーガーショップ「クロッソ」でバーガーセットを買った遊と紅は、とある寂れたビルの前で車を止めて昼食タイムに入っていた。
湾岸倉庫襲撃から早三日。あの時のマフィアっぽい奴らは病院に搬送されたのか、次の日にニュースで朝一番に報道されていた。
自分たちの事が出ないかどきどきしたが特にそう言うこともなく、どうやら死者もいなかったようだ。
紅が手加減したのか奴らが丈夫だったのか。恐らく両方だろうが遊としては呆れるほか無い。
遊といえばこの三日間、ネームレスに泊まり込む形で所属していた。リアクター初心者の遊に何かあった場合、直ぐに対処できるようにというのが主な理由らしいのだが、遊としては報道で既に自分がスターに食われて死亡した扱いになってる事の方が家に帰らない、帰れない理由としてしっくりくる。
ただでさえ大量の血痕(軽く致死量)を残して消失したと話題になっているのだ。今世間に顔を出すのは凄く気が引ける。
同じ理由でこの三日学校にも行っていない。というか名簿に名前が残ってるのか怪しい。恐らく遊の席には綺麗なお花の入った花瓶でも置かれているのではないだろうか。こんな状況じゃなきゃ虐めである。
こうなると家があっても無くても同じなので、二日目の夜に荷物を回収するため、遊と紅の二人は一度、遊の家に訪れていた。空き巣を装って。
世間に変な怪しまれ方をさせない荷物回収方法としていいアイディアだったと思うが、自分の家に空き巣にはいるというのは、なんというか、新鮮な気分だった。
そうやって住処をネームレスへと移し、振り分けられた部屋へと引っ越しを完了させるまでに二日。軽く紅に戦闘訓練つけさせられて一日。
なんとも濃い三日間であった。
クロッソのバーガーで一番お気に入りのテリヤキバーガーを頬張りここ数日に想いを馳せていると、同じくクロッソのフィッシュバーガー食べかけを手に持った紅が、運転席でつまらなそうに小さく欠伸をしていた。
「暇ですね・・・・・・早く何か起きないとカチコミ出来ないじゃないですか」
ここ三日で分かった事がある。
紅は、ちょっと、いや、かなり脳筋だ。
それもスリルや戦闘が大好きな困ったちゃん。
初日の倉庫襲撃を喜々としてやっていたのは暫く忘れられそうにないが、遊の自宅に空き巣に入ったときも「しょうがないですね・・・・・・」などと文句を言いつつ、しっかりと頭に風呂敷まで巻いていた。
ノリノリである。
しかも形から入るタイプのようだ。
言葉は丁寧で表情も真面目なものが多く、一見クールなお姉さんに見えがちだが、その実表情はコロコロ変わるし雰囲気だけでも感情がダダ漏れだ。
そんな紅は現在凄く気怠い雰囲気を辺りに振りまいている。
今回の仕事が「暴力団が誘拐やらかして身代金がどうとか言ってるらしくてな、その被害者の中にウチの支援者縁の奴がいるんだ。ちょっと暴力団としちゃ不幸だが言ってオハナシしてきてくれないか」というい指示だったため、人質に要らぬ危険を与えないように隙を見計らっているのだ。
因みにオハナシとは肉体言語(つまり実力行使)の事らしい。
「だいたい、隙ってなんでしょうね。速攻で制圧してオシマイじゃダメなんでしょうか」
飲み終わったストローを口にくわえてプーラプラ。私退屈です! と体全体でアピールしている。
これで歳が二十歳、自分より三つも年上なんてあまり信じられない事実だ。
どうやら頭は良いらしいのだが、単純に物事を解決したがる傾向があるため、霧華によろしく頼むと言われているのは内緒だ。
「とりあえず、人質がこの建物にいるか確認して、そして人質まで最短距離をいかないと、途中で盾にでもされたら目も当てられないかな」
「う、言われてみれば確かに・・・・・・」
シュンとしてしまった紅を余ったポテトで餌付けしつつ、ビルの窓などを監視する。
と、一瞬三階部分の窓を覆っていたカーテンが揺らめいて、奥に小さな人影が見えた気がした。
慌ててそこを注視すると、いきなり窓が開き、中から中学生くらいの女の子が上半身を外に着きだした。
生憎、何かを叫ぼうと口を開けたところで背後から男の腕に拘束され、何事も無かったかのように部屋へと連れ戻されたが、一瞬見えたその顔が霧華から見せられていた協力者縁の少女と一致しているのを遊は見逃さなかった。
「紅さん」
「どうしました遊?」
「カチコミ行くよ」
待ってましたとばかりに後部座席のハルバートへと手を伸ばす紅に、遊は勢いよく降られる犬の尻尾を幻視してしまったのだった。
次は18:00!
乞うご期待!