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リアクター  作者: 3号
21/21

開放

ちょっと体調すぐれなくて遅れました。






そこは暗闇に沈む小さなバルコニー。

 気がついたら遊はそのに用意された白いチェアに腰掛けていた。


「ここは」

「私のイメージの中よ」


 対面を見ると綺麗な白髪を腰まで伸ばした上品な女性が、紅茶のカップを片手に遊へと微笑みを向けていた。


「ほら、貴方もどうぞ。イメージの中だから実際に飲む訳じゃないけどね」


 気がつくと遊の眼前にも紅茶のカップが置かれていた。一口含み、その美味しさに瞠目する。


「美味しい」

「嬉しいわ。それ、私の主人が煎れた紅茶のイメージなの。いや、記憶かな」

「ご主人、鹿島さんですか」

「そう。あの人こんなになっちゃった私を見ても恐れるどころか近づいて来ちゃうんだもん。びっくりしたわ」

「そこまで愛してるって事でしょう」

「そんな敬語じゃなくても、あの人と話すときみたいで良いわ。でも、そうね。凄く嬉しかった。こんな身体じゃなきゃ抱きしめたいくらいに。でも、裕太を置いてそんな自殺行為するなんて、説教もしなきゃだけどね」

「ははは・・・・・」


 悪戯っぽく目をつむる香澄に、遊も小さく笑いが漏れた。


「でも、説教よりも先に貴方と、あと向こうの女の子に謝らないと。ごめんなさい、あの時は襲ってしまって。スターになってから本能に負けないように押さえ込んでたんだけど、最近は負けることが多いから・・・・・・」

「冬美を狙って引き寄せたように見えたけど、何か理由があったんですか?」

「匂いを追ってたのよ。私の一番恋しい主人と裕太の。会いたいって気持ちが、多分強かったからそんな事になったんだと思う」

「そっか、だから河原でボールを返した冬美を狙ったのか」


 合点が行った。あれは親の愛故の行動だったと。それを聞いて遊の香澄に対する怒りや恨みといった感情は一気に萎れていくのが分かった。

 自分を人間から半歩外したのは香澄だ。しかしそれが親の愛からきた事故なら、もう、怒る気は起きない。この人も自分もスターに振り回された被害者、そういう事なんだろう。

 そしてそんな想いと同時に、遊が今やるべき事も決まった。


「これ以上私がいると、そのうち裕太や主人を殺そうとするかもしれないし、それ以上に多くの不幸をまき散らす。お願い、ここにどうやってきたのか知らないけど、押さえ込むのも限界なの。ここから出たら私をー」

「救います」

「え、救うって・・・・・・」

「俺は香澄さんを救う。だからここで諦めずに、むしろスターを屈服させてください。外からは俺が屈服させるから」

「いったいどういうこと?」

「俺は一回スターに落ちたけど、自分でスターに打ち勝って半歩だけでも人間に戻れた。香澄さんは外の殻が厚いから、スターと馴染みすぎてるから難しいだろうけど、そこは俺が削る。だから香澄さんも抗がって」

「・・・・・・戻れるのね?」

「必ず」


 確信はある。必ずやりとげる。その覚悟を持って香澄の目を見ると、香澄も小さくだがはっきりと頷いた。


「なら私もがんばるわ。よく考えたら主人だけに裕太は独占させられないもの。ずるいわ!」

 ならばここに長居をする理由はない。

「出るよトイボックス」


 そのかけ声と共に、遊は外の世界へと飛び出した。


    ◇    ◇


「くそっ、一体何なんだお前は!」

「あそこの少年の姉貴分ですよ」


 刃山童子と血を纏ったハルバートがぶつかり合い、激しい衝撃波を放つ。

 その勢いに逆らわずに九渚は背後に飛び、一度態勢を立て直すと鋭い視線を紅に向けた。


「そのハルバート、血装か? お前のような対策員は見たことがないが、隊員同士の死闘は規則に反する。それどころかスターを庇うなんて正気か貴様! そこの少年もそのままじゃ危ないぞ」

「遊の心配どうも。ですが私は対策員ではありませんし、ましてやこれは血装でもありません。それに遊がやると言った以上、手助けしたいのが私です。余計な心配は無用なのでどうか遠慮なく」

「くそ、どうなっても知らんぞ」

「結構です」


 短いやりとりを皮切りに再びぶつかり合う二者。その剣劇は元対策員の鹿島が辛うじて追える程度。冬美と郷田に至っては全く何が起きているのか理解できない。

 ただ二人の目には、目の前で半球状に血で出来たドームが剣戟に沿い展開されてる。そうとしか見えなかった。


「これでも対応してくるとは、なんなんだ本当に!」

「貴方もやりますね。しかしこれは凌げますか? 鮮血の月」


 半歩下がった紅がハルバートの刃を斜め上に跳ね上げる。するとその軌跡を追うように血の月牙が形成され、一直線に九渚へと放たれた。


「そこまでするか! 刃山童子!」


 応じるように九渚も鉈を振るい、同じ様な月牙をぶつけて紅の一撃を相殺した。


「本当にそれ血装じゃないのか? それ以外に考えられないんだが」

「それは貴方の世界の狭さですよ。ですが、そろそろ終わりですね」


 ハルバートの石突きを地面へ突き立て、紅は背後を振り返った。

 その視線の先にはスターにナイフを突き立てる遊の姿。双方とも紅と九渚が戦っている間、身じろぎ一つしていない。

 それが、動いた。


「クルォォォォォ!」

「っと戻ってきて速攻ですかはぁぁぁ!」


 動き始めて速攻で激突。突き刺さったナイフをそのままスライドさせて蛸足を一本切断し、背後に飛びすさりざまにトランプ投擲でもう一本切断した。

 しかしスターの方も遊の左腕を蛸足で抉り、少なくない血が辺りを汚す。


「遊!」


 たまらず冬美が声を上げるが遊は一瞥するのみで、油断なくスターを睨みつける。


「いったいどういう状況ですか?」

「紅さん、九渚さんの足止めありがとう。ちょっとあのスターをリアクター側に引っ張り上げるから、今から適度にボコります」

「こっち側に? 可能なんですか?」

「それはトイボックスと俺の直感、でぇす!」


 言い終わらないうちに飛んできた攻撃を避け、遊はトランプを右腕一本で投擲した。


「何がなんだか分かりませんが、私は引き続き足止めのようですね」


 遊とスターが動き出したのを見て割り込もうと突撃する九渚を牽制し、紅と九渚のぶつかり合いが再発するのを感じながら、遊は眼前のスターに意識を集中した。


「トイボックス、やれそう?」


(あのお姉さんも頑張ってるみたい。こっちはあの蛸から逃がしてあげよう!)


「てことは、足を全部斬ればとりあえずはいいかな」


 残りは五本。それを見据えて遊は無理矢理気力を奮い立たせた。

 左手の出血に慣れないリアクト。正直あと少ししか保たない。

 それでも親を失う悲しさをもう起こしたくはない。昔の自分と同じ子供を見たくない。その一心を込めて新たなトランプを数枚出現させた。


 リアクト「トイボックス」。


 その特性は「遊具の召還」だ。


 しかしその遊具は子供の無邪気さを表したかのように、安全という概念が抜け出しているらしい。

 トランプなら本気で薄く丈夫なもの。

 ハンマーなら柔らかい訳ではなく本物を。

 子供の想像通りに「おっきい」と言えば巨大でありながら子供でも振れる重量変化の大木槌が生まれ、「強い刀」だと本気で鉄まで切れる切れ味を誇る。

 子供の想像が詰まった「おもちゃ箱」そのものの能力。それが「トイボックス」。

 その能力を母を子供に返すために振るうこと、これほどしっくりくる使い方は無いだろう。


「クルァァァ!」

「黙れスタァー! そろそろ母親を返してやれよ!」


 打ち放ったトランプが蛸足に突き立ち引き裂いて、何枚にも渡り細切れにする。

 その痛みに怯んだスターの隙を見逃さず、遊は空中でハンマーを手に回転を加え、落下の衝撃も乗せて無事な足を一本吹き飛ばした。

 これで、残り三本。

 貧血で意識も危うくなってきている。攻め手を緩めるわけにはいかない。


「トイボックス!」


 叫び、更に多くのトランプを手元に召還する。

 意識が飛びそうになるが、唇を噛んで無理矢理につなぎ止め、今だせる限界の力を込めて投擲する。

 残り三本の足で立つこともままならなくなっていたスターはそれに対応できずに二本の足を失い、バランスを崩してその場に倒れ込んだ。


「香澄!」

「鹿島さんは自分の奥さんを信じてそこで待ってて!」


 叫び遊はナイフを片手にスターへと突き進む。

 もはやトランプの一枚でさえ召還できない。


「クルルァ!」


 倒れながらも迫る最後の一本を身体に掠らせるようにして避け、ナイフをあてがうように根本から切断。力が入らない今、この気持ち悪い切れ味にも感謝しかない。


「そろそろ、戻ってくる時間だよ!」


 最後の足が宙を舞い、残るは女性の上半身。その先ほど突き刺した切り傷からスターとは違う肌色の皮膚が見えてるのを確認し、玉虫色の相棒を一閃した。

 遊から離れた遊の一部であるナイフは主人の望みを見事にくみ取るとスターの硬質化した皮膚のみを切り裂き、粉砕。遊は半ばタックルするかのように、その下から現れた香澄の身体を抱きしめ受け止めた。


「遊くん、だったかな。私、スターに勝ったよ」

「ナイスタイミング香澄さん。裕太君にこれでまた、会えますね」

「ええ、ありがとう」


 抱き留めたまま転がり動けない遊を香澄は膝枕し、その結果に満足したように笑うと遊は意識を手放した。

次でシメです

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