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リアクター  作者: 3号
18/21

友として 2

佳境です






「大丈夫?」


 見た感じ軽い怪我程度な少年の頭をなでつつ問いかけ、ついで郷田達の特徴を伝えてみると路地に入っていったのを見たと震えながら教えてくれた少年。


「ありがとう。助かるよ」


 クシャクシャと撫でると、震えながらも照れくさそうにする少年。

 本当に、よくやった。

 遊にはできなかった「守る」という困難な所業を、この少年はやってのけたのだ。


「向こうから対策員の人がこっちに来てる。妹を守った強いお兄ちゃんだろ、安全なとこまで守ってやんなよ」

「も、もちろんだよ!」 

 

 ついでとばかりにもう一回、今度は妹の頭もなで、遊は路地へと駆け出した。

 足下で腕を斬りとばしたスターが微かに呻いているが、あの九渚って人が多分止めを刺しておいてくれるだろう。

 対策員、スターとの戦いをちょっと見てたけどあれは本当に人間だろうか。

 兄弟の安全も、あの調子だと大丈夫だろう。


「にしても、なんでこんな所に」


 この路地には見覚えがある。いや、忘れられはしない。だってここは自分が人間を踏み外すことになった場所への入り口なんだから。

 当時より遙かに強靱になった身体能力を全開にし、風のように路地を駆け抜けていく。そんな遊が路地を抜けて記憶にある通りの寂しい広場に到着したのと合わせるように、入り口に向かって鉄パイプを構えた郷田が吹き飛ばされ、地面をバウンドしてコンクリートの壁に叩きつけられた。


「くっそ、敵わねぇのか」


 鉄パイプは折れ曲がり、制服は所々引き裂かれたようになり血が滲んでいる。

 足は震えまともに上半身を支え切れてないが、それでも郷田は鉄パイプを正眼に構えて眼前を見つめた。


「クルオオオオォ」

「ちっ、くたばればいいのに」


 その視線を追えばいつか見た光景と同じ、緑の蛸足に女性の上半身を付けた異形のスターが、煩わしい蠅を見るかのように郷田へ目を向けている。


「郷田、無理しないで!」


 声と同時に石ころが飛び、スターの顔面に命中する。何事かと声の出先に目を向ければ、石ころを手に持った冬美が震える足でスターを見つめていた。


「うるせぇ! 友の敵は討つ! お前は逃げろ冬美」

「嫌よ! 調べるだけならって思ったけど、ほんとは怖いけど、でももう友達が死ぬのはごめんだよ!」


(つまりはそういうことなのか)


 こいつら、本当に自分の敵を討つため敵を調べようとここに戻ってきていたのか。

 そして偶然にも舞い戻ってきていたスターとはち合わせて、戦っているのか。

 逃げることもなく、闘志を燃やして。


(普通そこまでする? そこまでしないよ。俺が死んで残念にくらい思ってくれればって思ってたけど、本当に馬鹿野郎達だ)


 虐められていた自分を助ければ自分も標的になるのを分かっていて逆らった郷田。落ち込んで荒れていた自分を慰めていてくれた冬美。

 そして今でも、こうやって遊のために動いてくれている。

 たとえそれが見当違いの努力でも、それはとても暖かい想いだと感じる。


(なら、今度こそは友達を助けないと)


「さあ! かかってこいよ蛸女」

「クルァァァァァ」


 丸太のような蛸足の一本が、空気を切り裂き横凪ぎに郷田を殴打せんと迫る。

 それに悲鳴を上げそうになる冬美と歯を食いしばる郷田。

 気づけば、自然と遊は郷田を背後に庇うようにして蛸足を受け止めていた。

 ものすごい衝撃が体を突き抜けるが、なんとか耐え抜くことが出来る。



『守らないとね、お友達』



 自分の内部から聞こえてくる声に頷きを返し、遊は掴んでいた足をナイフで輪切りに両断した。


「クルァァァァアァァァァ!」


 血を吹き出しつつのたうつ足。スターの甲高い絶叫がビルを振るわせる。


「クル、クルル、クル」


 警戒も露わに遊を見つめるスターと、呆然と見つめる友人二人。

 もう再会しないと思っていた友人に苦笑を向けて、遊はいつものように言った。



「こんばんわ、久しぶり、郷田に冬美」



 いつもとは違う覚悟を持って、そう言った。


続きは夕方に

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