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リアクター  作者: 3号
15/21

友として

すません朝遅れました!


眠くて眠くて‥


どうぞ、ご飯食べながらでもご覧ください


「どうした冬美、元気がないぞ」

「郷田は変わらないね」


 放課後のチャイムが鳴り響く教室の一角。一つの机を中心に置くように冬美と郷田の二人は何をするでもなく、放課後の停滞するような時間の中にいた。

 二人が囲む机には小さな花瓶と、控えめに生けられた鈴蘭の花。

 俯くように咲く様子が、俯きがちだった少年を連想させる、そんな花。


「身体、まだ痛むのか?」

「とっくに完治してるって言いたいけど、ちょっと痛むかな」

「正直だな」

「強がってもね」


 一週間前に起こった事件。そこで失うことになった少年の存在に、このクラスは、いや、この二人は大きく揺さぶられていた。

 少年の、高月遊の机に誰も座っていない日々。

 いつの間にか、机の主が花瓶になった昨日。

 皆が、それを騒がなくなった今日。

 スターが認知されたこの日常で、この手の事件は哀しいことに皆無ではない。

 事件から集団下校や警察の巡回、対策員派遣の報告等が周知されたが、逆に言えば対策はこの程度しか出来ない。


「まさか学校まで、四日たったら再開するなんてな」

「しょうがないよ。普通ならあれだけど、ここは境界都市だよ。みんな、慣れっこなんだよ」

「なんか、嫌だな」


 壁の外から進入、内部の人間が変異。

 スターの領域に隣接し、人間世界への防壁の役割を果たす境界都市ではその割合が多い。

 都市の距離や土地の問題などで気軽に引っ越しも出来ない現状、そこに住む住人は好き嫌いに関わらず、そういった事への耐性があった。慣れがあった。

 たくましい、強いと言えるものであるけれど、それは哀しい出来事が下地にあるもの。そう、今回の遊みたいな出来事が、この都市に住む皆の慣れの後ろにはある。


「おばさんはなんて言ってた?」

「なんも。泣いてたけどね」

「おばさん、遊のこと気に入ってたもんな」


 ちゃんとしたもの食べてるのか心配、などといいながら楽しそうに弁当を作る母親の姿が、冬美の脳裏をよぎる。

 結局、遊が食べた最後の食事になってしまったのが自分が作った弁当だと知ったときの母の泣き顔は、暫く離れそうにない。

 息子のように思っていると言ってたのも、あの様子だとあながち冗談じゃないと思う。

 それでも次の日には、無理してる風でもしっかり日常に帰っていた母は、本当に強いと思う。冬美には、そんな事は出来ない。


「なあ冬美、ちょっとこれからつき合わねえ?」


 野球部が練習する声が響くグラウンドを眺めながら、郷田がぽつりと呟いた。


「・・・・・・・あんた、剣道部の練習は?」

「そんな気分じゃねーよ。冬美だってテニス部の練習はって話だ」

「まあ、いいよ」


 郷田の気持ちは分かる。今の自分たちには部活なんて手に着くはずがないから。

 そんな冬美と郷田の気持ちは周りも分かっているのだろう。はたまたこれも境界都市の影響かもしれない。下手に慰めようとせずに部活に来ないことも咎めないクラスメイトや部員たち。

 だが本人たちはやはり後ろめたいのか、部員に見つからないよう気をつけながら靴を回収し、逃げるように校門から滑り出た。

 空はすっかり茜色で、どこか寂しげな色に落ち着いており、下校道は中途半端な時間に帰る生徒がまばらに見える程度。


「で、どこに行くの?」

「んー、実は特に考えてない」

「なによそれ」


 軽口をたたき合いながら、お互い目を合わせずに前だけを見てゆっくり歩く。

 そんな二人の間に一人分のスペースが空いているのは無意識の事だろうか。


「なあ冬美、お前さ、あの後対策員に助けられたって言ってたよな。今まで聞けなかったけどさ、その時何か言われた?」

「なによ、直ぐに聞けば良かったじゃない」

「お前が落ち込んでるから聞けなかったんだよ。俺もそんなに余裕なかったしな・・・・・・。で、何か言ってたのか? 特に遊に関して」

「・・・・・・敵なんて考えずに忘れろって、後は自分たちがどうにかするって」

「くそっ!」


 ガツッ、という音に冬美が振り返ってみれば、郷田が拳をコンクリートの壁に叩きつけていた。


「ちょっと、郷田なにやってるのよ!?」


 叩きつけた所からは皮膚が破れて血が滴ってきており、壁の方も劣化していたのか、少量ではあったがコンクリの欠片が剥離している。


「どんな力で叩きつけたのよ、ちょっと待って手当するか」

「悔しくないのかよ!」


 ハンカチを取り出して郷田の手に巻こうとした冬美の言葉を断ち切るように、剣道で鍛えた郷田の野太い声が響く。下校中の男女が何事かと振り返るが、眼中に無いとばかりに郷田は止まらない。


「幼なじみが、親友が殺されたんだぞ! 許せるわけが、黙ってられる訳がねぇだろうが!」

「郷田・・・・・・」

「俺は今でも信じらんねぇんだよ、あいつ本当に居ないのかと思って家に行ってみたりもしたけど誰も居なくてよ。いつかひょっこり来るかと思ってたら花なんて置かれてるしよぉ」

「郷田、ごめん、ごめんなさい」


 絞り出すような郷田の叫びに、冬美も知らず固まり言葉を吐き出していた。


「なんで、冬美が謝るんだよ・・・・・・」

「だって、捕まったのは私なのに遊が身代わりになったようなものなんだよ。本当は遊と私は逆だったんだよ」

「そんなの、関係ねーよ。遊もお前も、死んでいいはずがねーんだ。なかったんだよ」


 思えば昔からこうだった。遊が両親を失ったとき、心ない奴らに虐められそうになったときも、郷田が「あいつが何でやられなきゃいけないんだ!」と、陰でそいつらに一人で喧嘩を売って止めさせていた。

 冬美だって形は違うけど何度も助けられてる。


「全く、馬鹿なんだから」

「おう、俺は馬鹿だから割り切れねーんだよ」


 こうなったら郷田の次に言う言葉は予想がつく。冬美もそうしたかったから、丁度いいかもしれない。


「どうやってお互いに気分転換しようかと思って連れ出したけど、やっぱ無しだ。ケジメって大事だと思うからよ。対策員の言った事なんて関係ねえ。友情ナメんなだ。冬美、行こうぜ」

「うん、行こう」


 対策員の九渚さんには釘を刺されたけど、そんな事はどうでもいい。何より冬美は意識が曖昧だったから確信は無いけども、最後に遊がスターになっても守ってくれていた気がする。なら、もしかしたら遊は生きてるかもしれない。人前に出られないだけで隠れてるかもしれない。


 あり得ないとは分かってるけども、それを確かめるまで割り切れない。だから冬美は郷田と一緒に思い深い場所へと向かった。




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