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終わりの始まり

流血表現こそありませんが、登場人物がリアルお医者さんごっこ(色気のない方)をやっています。

また、人死こそ出ませんが、それに準ずる表現があります。

気分を損ねる可能性が高いので、苦手な方は読まないでください。

 その部屋の一画に積み重なっているのは、死体であった。焼かれ、射られ、切られ、撃たれ、打たれ、潰され、(ねじ)られ、引き千切られ、他者の悪意によって生命を絶たれたと一目で分かる状態のそれら(・・・)は、しかし、およそ人間と呼べる(たぐい)のものではなかった。

 見るも無惨な姿を(さら)す、(おぞ)ましき異形の物の山。そこに近付く人影があった。


 それは銀の髪に碧の瞳を持つ、端整な顔立ちの少年だった。その十歳にも満たないだろう幼い顔には何の表情も浮かんでおらず、青白さも相余(あいあま)りまるで人形か何かのように思える。


 薄汚れた白衣を身に纏ったその少年は、顔色一つ変えることなく積み上げられたそこから1体を引き摺り出すと、そのまま部屋の中央へ引き摺っていく。そこには大きな長方形の台が設置されていた。

 運んできた肉塊をその台の上に無造作に放り上げると、少年は台の周辺に置かれている、よく手入れされ鈍く光る奇怪な道具の内の1つを手に取った。


 少年が手にしたのは、目に見えない程(かす)かに振動し、仄かに輝く、小振りな短剣であった。それを迷うことなく台の上に投げだされた異形の腹部へと突き立てる。

 そのまま、澱みのない手つきで腹を裂き、その内部から緑色の粘液に塗れた何か、おそらくは臓器の一種、を取り出すと近くに置かれていた円筒形の容器の中に落とした。


 軽い水音とともにグロテスクな物体が容器の底へ沈んでいく。それと同時に容器を満たしていた透明な液体が凍り始め、ちょうどその物体が容器の真ん中に来たときに完全に凍り付く。

 その不可思議な光景を見ようともせず、白衣の少年は次々に異形の肉体を切り取っては、手近な容器へと落としていった。


 ギザギザした刃のついた円盤やドリルが回転する甲高い音、裂かれ砕かれ絶たれる骨肉が生み出す低い音、液体が噴き出し飛び散る水音が高い天井に反響していく。その中に何かが叩きつけられるような重い音が混じった。

 見れば、天井に空いた穴から新たな素材が降り落ちてきていた。

 その量の多さに、大規模な戦闘行為(じっけん)でもあったのかと冷静に分析しながらも、その手を止めることなく少年は淡々と自分の仕事をこなしていく。

 一通りの作業が終われば、氷塊を壁際へ移動させ、用途別に定められた場所に並べていく。最後に残った何の役にも立たない残骸を、最下層行きのダストシューターへ投げ棄てれば、漸く一仕事が終わる。

 少年はすっかり冷めきってしまったお茶に手を伸ばした。


~~~~~


 そこは研究施設の地下深くにある、忘れ去られた廃棄物処理場であった。

 それなりの広さがある部屋の半分近くが処理前の山によって埋められている。薄暗い部屋の中にまともな照明は見当たらず、ただ、床を走る光のラインによって薄ぼんやりと部屋全体が照されていた。

 左右の壁際には、大小様々な大きさ・形状の容器が整然と積み上げられている。その内部を覗けば、腕や脚を始め、舌や目玉・耳の器官、心臓・肝臓・肺・胃・腸等の内臓に至るまで、ありとあらゆる肉体の部位(パーツ)が浮かんでいた。

 氷塊から流れ出す冷気によって室温は常に低く、金属が剥き出しの壁や天井には霜がおり、少年の吐息を白く染めている。


 ここでは、実験によって生まれる、最も利用価値の低い廃棄物の処理が行われていた。実験の廃棄物とは、戦闘中に破壊された混妖兵の死骸であった。

 ここに送られてくるモノは、その中でも能力の低い量産型の下級戦闘兵か、箸にも棒にもつかない失敗作のどちらかであったが、それでも解体され、再利用可能なものは全て剥ぎ取られた。そして、最後に残った残骸は最下層を住処とする腐肉喰らいによって処分される。


 腐肉喰らいは、研究の過程で産み出された、組織に貢献するだけの実力も知能も知性も能力も特性もない失敗作の集まりである。

 当然、同じ失敗作と言ってもこの処理場に落とされるような連中と違い、戦う力等ないに等しい。施設において最底辺の雑務を行うことで生存が許されている最下級の混妖兵だ。

 その雑務の1つであり、また、雑務を行う下級混妖兵 ― 雑務兵の中でも特に能力の低いこいつらの唯一の栄養補給の機会が、この廃棄物の処分だった。当然のごとく、腐肉喰らいたちは我先にと争うように群がり、その様子が腐肉喰らいという呼び名の由来となっている。


 少年もまた、そんな腐肉喰らいの内の1体であったが、他の個体と比べ身体が小さく、また、腕力も弱かったため、生存競争に参加することすら出来ない最弱の雑務兵だった。

 幸い、他の連中とは段違いに頭が良かったため、この第十処理場を任され生命を繋いでいた。


 誰かと顔を合わせることも、言葉を交わすこともなく、それどころか自分以外の生物に会うことすらなく、くる日もくる日もひたすら積み上げられた廃棄物を処理する。

 それが、少年の日常であり、全てだった。


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