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毒は外、蜜は内。  作者: 酒場のあの人
本編 一章
9/10

穏やかではない訪問 1-5

 扉の外に待ち受けていたのはいかにもギルド員とも傭兵とも言える様な風貌の男達。

 数人がさり気なく馬車の入り口を囲む様は少しばかり空気が変わる。その中で頭一つ高い中年寄りの男が険しい顔をしながら、貼り付けた笑みのアズールへと声をかけた。


「カリフの飛翔所属、アルフと申す。この辺りで司祭が居ると子供から聞き訪ねたのだが」

「……司祭? さぁ? その様な御方はおりませんが」


 ニコニコと答えるアズールの背後を、アルフと名乗る男はチラリと見るや、小さなため息をついた。

それに気づいたアズールは頬に手をやりアルフへと困惑したように見せつける。


「差し出がましい様ですが、そのお探しの司祭様がどうかしたのです?」

「いや……子供らがこの草原で、司祭様に手を差し伸べていただいたそうで。とある貴族のご子息だった事もあり、是非に礼をしたいとの事でな」


何かを探るような鋭い視線を感じながらも平然を装った。


「まぁ、それはそれは。良き事でありますね。しかし、困りましたわね……お力になれそうにはありませんわ」


 内心、アズールは少しばかりも情をかけてなどいなかった。むしろ、エンヴィーが助けたのは貴族派であり、この男達が異世界人が集う飛翔である事に関して関心が傾いていた。このまま帰すのは如何なものか、と。この世を、あの世界から持ち寄る知識を使い改革する飛翔等と、その支援を行い膨大な利益を得る貴族派。古から秩序を守る者達にとっては喜ばしくない集団。村単位で動く原始的だとも言える、ありのままのこの世界が好きなアズールにとっては改革派は好ましくない。


「アルフさん、どうですか?」

「あぁ……はずれだ。司祭は居ないようだ。名でも分かればそれで引き上げられるのだが」


 馬車の段下に居た男の一人がアルフに歩み寄り声をかけた。

司祭ではないと聞いた男は上から下へとアズールを値踏みする様に目を動かす。

そんな男の視線に狼狽えることなくアズールはあえて堂々とする。

見た目二十五の娘だが、中はこの男よりも上なのだ。頬を染めるような初である若娘とは経験が違う。本人を前に言うのはやめた方がいいのだが。


「確かに司祭様では無さそうですが。なぜ貴女は、こんな草原に馬車を停めているのです? すぐ走れば、都の門に着くでしょう? お送り致しますよ。そのまま美味しい店でも案内しましょうか」

「おい、ニード。出しゃばるな! しかし……確かに門はすぐだ」


 最初は最もな疑問を繰り出したニードだが、後半では次第に顔が下心丸出しであった。


「うふふ、有り難いですけれども。生憎、わたくしはしがない薬売りの旅をしているだけでして。こうして踏み入れる地で採取を行っておりますの。あの大きな都ですと、一度でも門に入ってしまえば、手続きに時間が取られるでしょう?」


 実際、アズールは採取など殆どしない。神から授けられた鉢植えがある為、制限はされるものの、素材の育成は自ら行える。アズールがあらかじめ用意していた当たりざわりの無い言葉をすらすら伝えると、アルフは確かに、と頷くが、まだニードが疑問そうな顔をしている。


「今時、薬師が採取から始めるとは珍しいですよね」

「あら、そうかしら」

「ギルドを通していただければ、安く物は依頼出来ますし。失礼ながら貴女の様な見目麗しい御方が魔獣と戦うとは思えない。いくら都の近くだとしても、魔獣が出たら、とは……今まで無かったのですか?」


 ニードのさり気ない言葉は、段々と尋問されている様な流れで、アズールは思わず舌打ちをしたくなっていた。

確かに飛び抜けた膨大な魔力を持つわけでもなく、戦闘に関して言うならば、平民と同じだ。だが、今は男等の目的である司祭が居ないだけで普段は一人旅でもないのだ。


「確かにわたくしは戦う事には優れていませんが、頼れる仲間がおりますのよ」

「クゥン!」『僕がいるー!』

「精霊持ちでしたか」

「グ、クルル」『そう、だから帰っていいんだよ?』


 先程までアズールの後ろで気配を消すように、男たちの動向を探っていたフォルが、アズールの足元から顔を覗かせる。

 一方、蛇のディーは布がかかる椅子の死角で渦巻いていて、男達からは見えない位置にいた。


カサッ…シュルル。


シャーゥ。『煩いわね。飲み込んでしまうわよ』


ピリッと馬車の空気が凍る。

男達は精霊達の殺気を肌に感じ、たらりと額から汗が流れた。


「心配は無用のようだ。何かあればぜひ門に声をかけるように…では、失礼した」


そう早口で言葉を残し立ち去る男達をアズール達は見送るのだった。


 


 


 



 




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